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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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13/118

2-4

「ゲローッ!!」


 闘技舞台に響く大蒲の叫び。流山椿を乗せて勢いよく飛びあがった。


「飛んだだけで俺が殺せるとでも!?」


「いいえ、これからです!! フロウ!!」


 彼女の合図と共にフロウは大きく口を開けた。そこより炎は勢いよく放たれた。


「なっ!?」


 大きく目を見開いた。


――火遁だと!? こいつ炎の使い手か!


 放たれた炎はボールのように丸く、大きく、陸島目掛けて突っ込んでいく。


「だったらっ!!」


 勢いよく燃え盛る炎の前に、陸島は構えを崩さなかった。


 大蒲の炎が近づくその時、勢いよく彼は刀を振るった。


「うそっ!?」


 彼の魔力の籠った刀の一振りは、降りかかる炎を切り捨てたのだ。


(やはりあの刀、何らかの魔法を支える道具なんだ……だけど!)


 着地したフロウに再度飛び上がりを指示。次の命令を手の印に乗せる。


「それで勝とうとするなんてあまいっ!!」


 宙に浮いたままのフロウに新たな指示を印によって行わせる。


「ゲロっ!!」


 這いより迫る蛇のような舌を勢いよくフロウは伸ばした。


「それがなんだ――」


 手際よく刀を鞘に納め、先ほどの炎と同じように舌を切り落とさんとした。


 大蒲の舌は先ほどの炎よりも早く向かってきている。


(ここだっ!)


 先ほどの火炎弾と同様に伸びる舌に迷わぬ居合斬りを浴びせる。はずだった。


「なにっ!?」


 斬撃の届く範囲に入ろうとした舌先は、直前になって後ろに下がる。


(フェイク?! いったい何のために――)


 飛び上がる大蒲を見る。その上には誰もいない。


(消えた!? 奴は――)


 敵の攻撃を探ろうとしていたその一瞬は、そこにいたはずの彼女の不在によって一息の間へと延びる。


 それがいけなかった。


「こっちですよ!!」


 大蒲が舌を伸ばした時、流山は彼の視界から外れるように、彼から見て左側にずれて降りていた。


 視界の死角より一撃をお見舞いするために。


「やあぁぁぁっ!!」


 走り向かう流山のその手には水の流れがあった。


 小さき彼女の手のひらにて渦を巻くそれは伸びて、棒状の物体と化す。


「これで――」


(まずいっ!)


 危機が迫り焦る陸島にお構いなく振り下ろされる水流のこん棒。


 とっさに陸島は左手の鞘で受け止めようとする。


「どうだっ!!」


 しかし鞘がそれを防ぐことはなかった。


 水流の刃は一瞬で縮こまっていた。


「なっ――」


「へへーん。そんなもんで防げるとでも?」


 出力を抑えたのだ。


 そうすることで鞘への交差をなくし、次にもう一度、水流の刃の出力を上げたのだ。


――やられる。負ける。


(……負ける? 負けるってどういうことだ? 失うってことか?)


 刃が届くその一瞬。彼の頭に浮かんだのは一つの情景。


 雨降る夜の森の中。


 一人は血を流し倒れていた。


 一人は木に串刺しにされていた。


 一人は子供を抱きかかえて息を引き取った。


 何者かがいた。それは笑っていた。


 子供は怖がった。次は自分だ。失うんだ、命を。


「……っざけんな!!」


 全身の血が沸騰するような怒りが陸島を覆う。魔力と同時に。


 次の瞬間、流山は勢いよく飛んだ。


「うわぁっ!?」


 否、飛ばされたのだ。


 屹立した柱のような、あるいは獣の牙のような大地によって。


(そんな……っ。何が起きたの!?)


 後ろに距離を取る。


 傍にいる大蒲のフロウは怒りに震える陸島を見て怯えていた。


「どうしたの? フロウ? 何か見えるの?」


 フロウと一緒に視界に陸島を捉える。


 陸島は刀の鞘を投げ捨て、両手で刀を構えた。


「そっちがその気なら……こっちも本気で行くしかないですね」


「すごい……あのツバキちゃんと戦えてる」


「ああ。彼、武道とか剣道とかやってたのかな?」


 観客席の一部で相原紫苑と萩野玲が二人の戦いを固唾を飲んで見ていた。


 戦いは新たな局面に入ろうとしていた。


「二週間だっけ? その合間に特訓したと思うんだけど……相原さん、何かしたの?」


「え? いや、特に何もしてないよ?」


「……となると誰が彼を稽古づけたんだ? 魔術の腕も上がってるようだし、それにあの佇まい。彼は魔女の家に連なる家系の人じゃないのかな?」


「私は……そういえば何も聞けてないな」


 相原は陸島から彼自身の事について聞かされていないことに顔を俯かせる。


「相原さん、しょうがないよ。彼だってまだこの学校に来て日も浅いんだから」


「それはそうだけど……陸島君、この二週間どこかに行ってたみたいで。どこ行ってたのって聞いても『お前には関係ない』って返されるか、無視されるかなんだもん」


「……それはちょっとひどいね。となると一人で修行かな?」


「すみません、ここ空いてますか?」


 突如二人の近くに一人の女学生が姿を見せた。


 長いストレートの髪を後ろに流し、背丈は百六十前後。紺のセーラー服に緑のラインが入った運動靴を履いていた。


「え? ああ、どうぞ。いいですよ」


 にっこりと相原は笑って彼女のセーラー服に模様を見た。


 紺のセーラーに緑のライン。二年生であると理解した。


「彼……どうやらうまく戦えてますね」


「知ってるんですか?」


「ええ。彼、二週間くらい前から図書館に毎日来てたんです。大地に関する魔法を探してたみたいで……閉館時間までずっと読みふけってました。休みの日も朝から晩までいたこともあって。魔法もそこで覚えたんだと思います」


「貴方はもしや、図書委員の方ですか?」


 相原は二年生の女学生を見開いた目で見つめる。


「ええ。図書委員です。ああ、私は干木って言います。お二人は彼と知り合いで?」


「はい。私、相原って言います。あの子の魔法の勉強の手伝いをしてほしいと教師の人たちに頼まれたのですが……彼、一人でこなしてるみたいなんです」


「まあ……それはなんというか。彼も色々と勉強をしているみたいですが、果たしてそれでうまくいくのか。ちょっと心配ですね」


 干木は陸島と流山の戦いに目を向ける。


 萩野は干木の方を向いて質問を投げる。


「あの……この二週間で彼に変わった事とかありませんでした?」


「変わったといえば……そういえば彼に最初に出会ったときにこんな事を言ってましたね」


「何と言ってました?」


「ええっと確か――」


――戦いに関する本はないですか? もしくは魔術の……大地に関係する本です。何冊でもいい。読みますので。


「その時の目というか……態度が怖かったんです。まるで憎悪が歩いてるような」


「ぞ……憎悪が歩く?」


「はい。目が普通じゃなかった。教えるのが怖くて。でも教えないと何されるかわからなくて。だから色々とそれに関する書物を一緒に探したんです」


 ぶるぶると怯えていた干木に、相原は慎重に声を出して質問した。


「ひょっとして……怒られたりしませんでした?」


「あ、そういうのはなくて……私が本を探しているとき、一緒に探してくれたんですよ。その時は親身であったし、なかった時も気にしないでくださいって返してくれて。それで何冊か借りて、確か山に籠って修行してるとかで」


「……親身に?」


 誰に対しても冷たい態度を取るあの陸島が親身に接した。


 その内容に相原は目を細める。


「嘘じゃないですよね?」


「え? ええ。本当ですよ」


「むー……」


 もう一度陸島の方を見る。


 戦いの真っただ中なのでこっちを向くことは流石になかったが、干木と自分への対応の違いに頬を膨らませた。


「……どうして私には冷たいの」


「あの、どうかしたんですか?」


「ああ、気にしないでください。相原さん、そのうち良くなるよ」


 干木の疑問に萩野が割って入る。


「そうかなあ……」


 相原の内側で、遠い場所にいる陸島との距離感に拭えぬ感覚が立ち込めていた。


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