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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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12/107

2-3

「り……陸島君。決闘受けたって本当なの!?」


「あ? そうだが?」


 次の日の朝、教室にて決闘の知らせを聞いた相原が心配そうに駆け寄ってきた。


「棄権して。ツバキちゃんは……彼女は強いの」


「知らねえよ。ぶっ潰すだけだ」


「ダメ。一方的にやられるわ」


「なんだと?」


 その言葉に相原を見た陸島は、彼女の目に哀れみが浮かんでいるのが見えた。


「どういうことだ? あいつが何だってんだ?」


「忍びの家系なの。だからツバキちゃんは強いの」


「……は? 忍者?」


 飛び出てきた単語に思わず陸島は豆鉄砲を食らったかのように固まる。


「魔女なのに? あんなチビでか?」


「うん。魔女で忍者……というより魔女としての才能が忍者という形でこの国では発芽して、長い歴史を持つ一族……と言えば伝わる?」


「まあ合点はいくな」


「じゃあ棄権して」


「断る。それに勝たないとだめだ」


「どうして?」


「目的がある。それだけだ」


 席に着くと彼女に向けてしっしと手を振る。何かを腹に秘める陸島を見て相原はしばらく考え込む。そして陸島に向けてぽつりとつぶやく。


「……どうしても勝ちたい?」


「ああそうだ。助けならいらない」


「……じゃあ決闘のルールだけ覚えて。お願い」


「ルール?」


「うん。配給された端末から決闘について調べられるから」


 相原はそう言って自分の端末を手に取ると、慣れた手つきで画面を操作する。しばらくして陸島が学ランの内ポケットの中から振動を感じ、端末を手に取る。そして表示された文面に目を通す。


――魔女決闘のルールについて


――本項は学園において何らかの事象や政、あるいは力比べを行うなどの理由のもとで魔女決闘をする場合に、決闘する両者に向けて記載するものである。


――主なルールは以下の通りで、基礎五条を中心に進めるものとする。


――第一条:決闘を行う際は両者の合意のもと、行われることを前提とする。決して片方、あるいは第三者のみによる決闘は認められない。


――第二条:決闘においての舞台は両者が合意した場所のみとする。


――第三条:決闘を行う際は審判を立てて行うものとする。なお、審判に関しては基本教師、あるいは上級魔術師一名以上が必須となる。


――第四条:決闘は片方あるいは両者の戦闘不能、もしくは片方の降参をもって終了とする。また、審判による戦闘不能とみられた場合でも決闘は終了する。


――第五条:武具に関しては基本持ち込みは自由であるが、両者が事前に指定しているのであればそれのみとする。


「あの……勝てる方法はあるんだよね?」


「あるだろ。流石に」


 端末に送られてきた情報を確認し、頭に叩き込む。


「……万が一棄権したとしても私は笑わないから」


「そうか」


 黙々と情報の確認を続ける陸島を、相原は心配そうな目で見つめる。

 決闘の日は静かに近づきつつあった。


「ダイジョーブです! 命までは取りませんよ!!」


 魔女決闘一週間前。昼休み。


 流山椿と相原紫苑は二人で屋上で弁当を広げて食事をとっていた。


「でもツバキちゃん……記憶間違ってなかったらすごく強かったよね?」


「いやいや私なんてまだまだですよ。萩野さん達と比べたらまだまだですよ……スタイルとか」


「え? なんて??」


「……なんでもないです」


 最後の方の小声になった内容を聞こうとするが、流山は口を閉じてしょんぼりとしていた。その目は届かぬものを見ていた。


「それにあの陸島って男。こないだの寮の件といい、日ごろのあの態度……なんかもうむかつくんですよ! だから今度の決闘であの鼻につく姿勢へし折ってやるんです!」


「あと気になることがあって」


「気になること?」


 掛けていた眼鏡を光らせて流山は話を続ける。


「ええ。古来からウォーロックというのは珍しいだけじゃなくて、何か超常的な……要は凄い力を秘めてる可能性があるんです。家の人間に確認したんですが、著名な男の忍者というのもそうみたいで。だから今回の決闘でそれを見定めてやるんです。もしそうなら先生達も動く……そうでしょう?」


 流山曰く、古来より超常的な力を秘めた存在というのは魔女であるが、その中でも男性の場合はさらに何かを秘めているという。そうして力を振るった存在は名を残していると。

 その考えを相原が聞いた時、少し間を置いて流山に答えた。

「だったら先生方はもう動いているんじゃないかな? それにもしツバキちゃんの言うことが正しいのなら、先生方は陸島君を隔離してたりすると思う」


「……むむう。確かに」


 相原の意見に反論はしなかった。


「だけど、今度の戦いでもしそういうのが露呈したらどうです? あまりにも強大な力を持っていた故に監禁隔離やむなしとなったら?」


「そ、それは……」


「……さすがにそれはないですかね? さ、決闘の話はともかくご飯食べちゃいましょ?」


「……うん」


 二人は目の前の弁当を黙々と食べ始めた。


(……あの力、鉄の魔法がもしそうだとしたら。今頃は状況は複雑になっているはず。それとも鉄の魔法がそんなに珍しくないとか? 本土の方には実は意外と鉄の魔法の使い手がいるとか? 校長先生にその話をしたら顔をしかめたけど……でも彼がいるってことは大丈夫なのかな?)


 ふと脳裏に浮かんだのは初めて彼の魔法を見たあの夜。禍々しい雰囲気にて魔術を振るう陸島の姿。

 弁当箱の総菜を黙々と食べて飲み込みつつも、浮かぶ疑問の方はどうにも呑み込めずにいた。

 二週間後、その時は来た。


「さて、魔女決闘のルールは頭に叩き込みましたか?」


 流山椿は目の前に気だるげに立つ陸島鉄明に覚悟のほどを聞いた。その手には刀が握られていた。


「……やれることはやったさ」


「ほほう。どうやらある程度は対策というのをしてきたみたいですね。そんな刀一本で私が倒せると思ってるんですか?」


 二人が立つ決闘の舞台となるのは学校から少し離れたところにある円形の建物。

 ローマのコロッセオや甲子園球場などを思わせるような円形の建物の中央には、魔術師たちが互いに魔力や力をぶつけ合うには広々とした空間が、周囲を観客席に囲まれて存在していた。

 その日はウォーロックが戦いに出向くとあって、ある程度人は集まっていた。


「ハンデとしては良いでしょう。どんなに私を怒らせたとしても、半殺しですませてあげましょう」


「どっから来るんだその自信は」


「……あなたがそれを言いますか?」


 流山は陸島の周りに、どうにも自分には掴めない空気を感じていた。

 陸島の方はオールバックの髪をかき上げ、手に持った刀を少し抜いてその状態をじっと見ていた。


(ありえない……私の事をある程度は知っているはず。紫苑ちゃんが教えているというのに。それともやはり『ウォーロック』だから? それで何か秘策を持ち込んでいるの? もしかしてあの刀……何か仕掛けがあるんじゃ?)


 流山の視線は彼の手に持っている刀に囚われる。


 彼女自身、刀を見るのは別に初めてではない。故郷の里にて何度か目にはしていた。しかし実戦ではまだ使ったことはなく、先に魔法の習得をするというのが彼女の第一目標。刀に関しては一応、小太刀を持っている程度である。


(いずれにしろ警戒しないと。刀が魔術の発動において何かをもたらすというのはないけど、多分魔力を乗せて攻撃に使うんだ)


「準備はいいですか?」


 二人の合間に黒いスーツを着た女性が立つ。今回の決闘のために送り出された審判員だ。


「いいぜ。さっさと来いよチビ」


「……泣いたり笑ったりできなくしてやる!!」


「それでは、はじめっ!!」


 審判が勢いよく手を振り下ろした。

 決闘の幕は開いた。

 煽り笑った陸島も、煽られて怒った流山も、開始直後にそれぞれ後ろへ飛び跳ねた。


(さて、情報通りなら――)


 陸島はそのまま居合の構えを取る。


 居合というのは刀を鞘に納めた状態でそのまま抜刀からの斬撃を行う姿勢である他、相手からの攻撃に対してカウンターも取ることのできる態勢。


 陸島は相手の出方を伺おうとした。その間、全身に力を込めて警戒を解く気配はなかった。


「そんなもんで私が倒せると思ったら大間違いです!!」


 対する流山は両手にて瞬時に複数のハンドサインを結んだ。


(ほぉ……いきなりか)


 否。それはハンドサインにあらず。古来より忍者が己が術を振るう際に使う印であった。

 彼女の結んだ印によって彼女の周りに煙が噴き出す。


「来るか……!」


 流山が使ったのは忍術における口寄せ。

 彼女は自分よりも一回り大きなカエルの上にしゃがみこんでいた。


「さあ、行きますよフロウ! あいつをぺしゃんこにしちゃって!!」


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