第二部 プロローグ「赫火の兆し」
――あれから、半年。
名古屋の街は、一夜にして激変したように見えた。
鳴海駿介の逮捕。G-HAVENの崩壊。倉庫街の摘発。
だが、それは表向きの話にすぎない。
闇は消えなかった。
むしろ、その地下にはより陰湿で狡猾な連中が跋扈し、鳴海の残した利権と空白を巡って血で血を洗う抗争が激化していた。
表では議員の汚職追及報道が続き、LGBTQIA+支援団体の抗議デモも起こった。
だが、裏ではドラッグ、児童買春、違法賭博、臓器売買が、以前にも増して巧妙に行われていた。
蓮は今、名古屋を離れず、港区の薄汚れたモーテルの一室で、酒と煙草に溺れていた。
ユウトは新潟の施設へ。
燈は今も姿を消したまま。
柚衣は――数日前、河川敷で変わり果てた姿で発見された。
警察は自殺と処理したが、蓮は知っていた。
あれは“消された”のだと。
そして今、この街では、柚衣が残したG-NETの新たなデータを巡り、再び闇の争奪戦が始まっていた。
一方、その名古屋の地下組織の頂点には、かつて鳴海の腹心だった一人の女が立つ。
神堂 香澄。
燈の実姉にして、名古屋の裏社会を仕切る“赫き女帝”と恐れられる存在。
彼女は今、柚衣の死の真相を隠蔽し、燈をおびき寄せるために蓮を泳がせていた。
夜の港町。
波打つ川面に映るネオンの赫さが、まるで血の色に見えた。
闇はまだ、生きている。
むしろ赫く燃え上がろうとしていた。
そして再び、血と欲望と裏切りの夜が幕を開ける。