第一章 流れ者たちの街
名古屋の雨は冷たく、無情だった。
傘もささずに歩く男の背中に、しとしとと降り続く雨粒が冷たく打ち付ける。
蓮は、港区の薄暗い路地裏を歩いていた。
半年ぶりに戻ったこの街は、あの夜の炎と血の匂いを微かに残しながらも、静かに、しかし確実に変わっていた。
「流れ者……か」
誰かが彼をそう呼んだ気がした。
それは、彼自身のことでもあった。
蓮は今、どこにも居場所を持たず、誰にも信用されず、ただ「流れ者」として日々を生きている。
酒と煙草に溺れ、薄暗いモーテルの一室で過去の影に苦しむ毎日。
ユウトは新潟へと送り出され、燈は今も消息不明。
柚衣の死は蓮の心に深い傷を残した。
だが、彼の心はまだ燃えていた。
あの街の闇に抗うため、もう一度拳を握り締める時が来た。
その夜、蓮は偶然立ち寄ったバーで、一人の女に声をかけられた。
彼女は漆黒のロングヘアに切れ長の瞳を持つ女性。名は美咲。
「蓮さん……あなた、変わったわね」
美咲はかつて、名古屋のLGBTQIA+支援団体で活動していた同志の一人だった。
だが、今はどこか冷たく、そして謎めいた空気をまとっていた。
「何してるんだ、こんな街で」
蓮が尋ねると、美咲は意味深に笑った。
「流れ者は誰かのために流されてるだけ。ここでは、流される側が死ぬの」
「じゃあ、俺は……?」
「戦うなら、仲間を選びなさい」
その言葉は、蓮の胸に重く響いた。
その時、店のドアが勢いよく開き、男たちが乱入してきた。
「おい、あの女連れた男、連れてけ!」
見知らぬ男たちは、蓮と美咲を睨みつける。
蓮の体が反応した。
「こいつら、俺たちを狙ってる」
美咲は静かに頷き、隠し持っていた小型のナイフを鞘から抜いた。
「この街は変わってない。闇は深いわ」
蓮は拳を握りしめ、立ち向かう覚悟を決めた。
名古屋の街は、流れ者を許さない。
だが、流れ者だからこそ、戦える。
血と裏切りの街で、蓮は再び、闇の渦中に巻き込まれていく――。




