↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星光記 ~スターライトメモリー~  作者: 松浦図書助
前編
53/171

第11章 イーグル反乱の戦後処理 02節

 宇宙世紀0279年11月23日

 イーグルの反乱に関し討伐を終了した伊達幕府軍元帥シルバー・スターは、同日木星圏における副師団長格以上の全将校を招集した。イーグルの反乱に味方した師団長はそう多くは無かったが、ハラダ、ゴトウ両軍団長をはじめとして、旗下師団長も相当な数が戦死したため、将校全体で7割程度の招集しか叶わなかった。

 「諸君、所持多忙の中お集まり頂き恐縮である。これより伊達幕府木星方面軍の幕議を執り行う。」

 木星方面軍司令であるモガミ中佐が号令をかける。

 「本日の内容は、第一にイーグル前執権の乱における戦後処理。第二に今後の戦略方針について。第三に軍の編成について。以上3点を中心とする。」

 この幕議は招集した人数が多いことからも分かるように、大雑把な今後の方針を指示するためのものである。

 「第一に、イーグル前執権の乱について残党討伐は完了したと言える。諸君らの奮戦に感謝する。この乱においては、軍団長であったハラダ少佐、ゴトウ少佐の2名、師団長であった、クルシマ大尉、コウノ大尉、トガワ大尉、フ大尉の4名が戦死、イチジョウ大尉、アイゼンハワー大尉の2名が復帰不能の重傷である。また、師団長未満の将校182名が死傷して復帰不能。敵につき討伐した者を含めれば211名という指揮官を失ってしまった。」

 これには参加した多くの将校からため息が漏れる。なんといっても木星方面軍の軍団長全員を失ってしまい、また主要師団の有力な師団長も多くが戦死している事が厳しいのだ。幸いにも宇宙戦指揮も出来る熟練のクキ提督、リ提督の2名が居たため軍団長の役を埋めることは出来ているが、いずれは地球方面に戻る予定である以上、根本的な解決は今後しなければならない

 「しかしながら……目下イーグル前執権側に所属していた武装勢力を、木星伊達幕府領から排除することに成功した。また、諜報部で事後調査も行い、敵対していた不穏分子は排除している。」

 「モガミ中佐、よろしいか?」

 「なにか、シロイシ少佐。」

 モガミに問いかけたのは、元CPG社員で今回の件で抜擢され軍団長を任されているシロイシ少佐である。当然軍務経験には乏しいが、大軍の実指揮においてはモガミ中佐よりも経験は多い。このため、戦後処理においても実働部隊を指揮し、八面六臂の活躍をしていたのであった。彼のおかげでモガミ中佐は政治的、戦略的な処理問題に専念する事が出来ていたのである。

 「敵性士官リストに行方不明者の欄があるが?およそ11名、これは?」

 「イーグル前執権の腹心であったサタケ元少佐とその子息であるサタケ大尉以下、わずかながら討ち漏らした人物が居る。それらと伴にいずこかへ逃亡したのか戦死を確認できなかった人物の事だ。」

 「やはりサタケはみつからないのか?」

 追討軍の現場を預かっていたシロイシも、サタケ元少佐とは遭遇していない。

 「イシガヤ家の黒脛巾も動員して調査はしたが、既に木星圏を離脱したと思われる。商業船や民間船に偽装して退去したと思われ、軍事的な動きはしなかったようだ。」

 「有象無象はともかく、サタケ元少佐を討ち漏らしたのは大きいな。」

 「サタケ元少佐は既に老齢であり彼自身はそこまで懸念せずともいいが、伊達幕府軍の要職に長く居られた方である。シロイシ少佐の言い分はもっともであるな。」

 それは伊達幕府軍の軍制が筒抜けてある、という事と同じであったからだ。ただ、筒抜けになったところでそこまで不利にはならない、というのが幕府首脳の判断である。戦術的にはやや不利になり得ても、これだけの軍事力を有する国家など近隣には居ないからだ。

 「しかしながら、彼らを除けば全ての敵を平定した以上、目下は掃討作戦終了の宣言をしたいと思うが、皆さんいかがかな?」

 この件を追求しないというのは、ある意味ではイシガヤの意を汲んだものだ。このためモガミ中佐はそれとなく話題を終了させるように仕向ける。

 「異議は無い。リもなかろう?」

 同調するのは熟練のクキ少佐である。またそれにリ少佐も続くのであった。

 「うむ。クキ殿の言う通り特に異議はないな。特にだ、この掃討期間は四方八方に遊撃していたために将兵が疲れている。そろそろ休憩をしなければ兵もつらかろうよ。」

 彼らの場合はイシガヤの動きを全く把握していない為、単純に軍事的な判断である。

 「左様。モガミ中佐の作られた戦闘計画は過密であるからな。」

 やや皮肉気味にクキ少佐が述べる。このところ働きづめであったからだ。

 「それは失礼。」

 「いや、掃討戦は徹底的に敵を討たねばならぬから過密でもしかたないが、長くは出来ないと言う事だ。若者はまだ良いが、我々のような、50歳前後の兵士には疲れが見え始めている。」

 24時間の哨戒任務を継続して数日間続けているのである。先の戦闘で正規の将校を失い交代要員も十分ではない為、1人当たりの負担は甚大なものであった。CPG社の防衛部隊社員からも有志を募って協力させているが、彼らは正規将校ではないから無理はできなかった。

 「もっともである。諸君……」

 その話を総司令官たるシルバー大佐がまとめる。

 「イーグル前執権は息子であるバーン・フルーレ大尉の手によって討伐し、またその息のかかった将校もそのほとんどを捕らえるか戦死させることに成功した。サタケ元少佐などの要人を討ち漏らしたため情報流出は懸念されるが、将兵の疲労も高まっているため、残党討伐の終了を宣言する。サタケ元少佐の件については、国際犯罪人としての手配をしている。朝敵を討ち果たせたことは、全て、諸君らの奮戦のおかげである。日本国征東将軍として、皆に謝辞を述べたい。」

 征東将軍を名乗ることに天皇の旗を担いでいるという大義の意味がある。このシルバーの礼に対し、全ての将校は頭を下げるのであった。

 「では、第二の今後の戦略についてですが、皆様よろしいですかな?」

 モガミ中佐の質問に皆が頷く。

 「今後の戦略方針については、事前に伊達幕府執権でもあるイシガヤ少佐の意見を聞きたい。よろしいですな?」

 伊達幕府軍内の地位で言えばイシガヤ現執権は遊撃隊軍団長で、中でも提督・将軍号を許されない程度の軍団長最下位レベルの格に過ぎないが、政治的な影響力は大きい。他国あれば副司令などにしてもおかしくは無いのだが、伊達幕府軍の地位はあくまでも軍事指揮能力が優先される。なぜならば、政府内の地位は経済力や政治影響力によって左右されるが、優れた政治家や経営者が必ずしも軍事的才能に恵まれているとは限らないからであった。武力をもって国を守るべき幕府軍としては、政治外交による武力行使の代替を否定はしないが、そのために武力そのものを落とすようなことはしない。たとえば総大将のシルバー大佐や空軍軍団長のリ少佐は、諸国諸将に劣ることない名将ではあるが政治的判断能力は高くはない。一方、軍団長のモガミ中佐などは政治家肌ではあるが、戦術運用に掛けては諸師団長や参謀の助力が必要になるものの、戦略運用として大軍を運用する面に掛けては諸軍団長の統率力に遥かに勝っている。あくまでもその地位における指揮能力で階級が決定されているのであった。

 「現状執権としての意見ですが……、政府としては早期の地球圏復帰・北海道奪還を求めることになるでしょう。まず経済界ですが、北海道の物流倉庫を失ったことで、地球圏の市場に対する流通の確保が難しくなっています。また安全性も失っております。ただ、伊達幕府の産業は内需中心で、これらによる被害は全体の10%に満たない割合であり、直接大ダメージを受ける企業は多くはありません。問題は自国企業ではなく、地球圏における友好国の企業にあります。彼らへは精密機械や素材、穀物を中心に輸出を行っておりますが、幕府からの精密製品供給が途絶えつつある今、国内産業がかなりの困難に陥っている国もゼロではありません。それらから早期の地球圏復帰を依頼されている状況であるため、経済界も座して見捨てるわけにも行かない、というところです。民意については、このところの連戦で家族を失った者も多く厭戦気分がないわけではありませんが……、それ以上に家族を殺され国土を奪われたことを恨みに思う者が多い状況です。このため、国民の70%以上が即時開戦を求めており、内閣もまた民意に従って即時開戦の可否を検討しているところです。しかしながらいずれにしても軍備の生産が間に合うとは思いませんので、今上陛下にお願いし民の気持ちを一旦宥めると伴に、経済界には何年でどの程度の軍備を生産し得るかを調査させているところです。」

 「イシガヤ少佐は、伊達幕府執権として、また軍少佐としてどう考えるか?」

 そう問うのはシルバー大佐である。

 「征東将軍殿……、伊達幕府執権としては、やはり民意を汲むに越したことはないと考えています。しかしながら、早期開戦とはいっても地球圏に帰り周辺を一度に征圧し得るだけの兵力と外交状況を整えてからの開戦こそ上策でしょう。それらには2年はかかると、私及び経済界、今上陛下は見ております。また、軍少佐としては、私の預かる遊撃隊隊員の損耗率は他軍を圧倒する状況で、軍団は壊滅したと言っていいでしょう。平常2個師団の要員を抱えておりましたが、現状動員可能な要員はわずかに2個大隊級です。1個師団すら編成出来かねる状況ですので、早急な兵員増強を望みますし、そうしなければ戦える状況にありません。また、諸事多忙の故、兵員の教練に当たるわけには行きません。遊撃隊は貴族の子弟を中心としており、陸海空宇宙のいずれでも汎用的に戦える編成にする必要があるため、さしあたっては、海軍・陸軍・空軍・宇宙軍において適正に合わせてそれぞれ教練させ、これを集めて再編成を望む次第です。いずれにしても早急に兵力を補充しなければ戦える状況にはないため、即時開戦については回避を望みます。」

 イシガヤが述べる。事実彼自身が遊撃隊の訓練をするような余裕は無く、経済界や政界と話を詰める仕事をしなければならない状況であった。兵站こそが戦争の要である。

 「ふむ。では木星方面軍モガミ中佐、なにかあるか?」

 「はっ、シルバー大佐。木星方面を考えますところ、さし当たっての危険は余りありません。もちろん、損耗した兵力や将校を補充することは重要ではありますが、我々は、木星において最重要とも言える穀物拠点エウロパを抱えております。他国はこの穀物拠点が焼失することを恐れて、おいそれと我が軍を攻めることはできませんから、戦力が圧倒的不利な状況にならない限りは、まず外敵を心配する必要はありませんな。内部の敵についてもこのたび一掃しておりますから、目下は木星方面軍の復旧と、それ以上は地球方面奪還に向けた戦略を立てればよろしいかと存じます。」

 イシガヤ家が抱えているエウロパの戦略性はこの木星において抜群に高い。この兵糧庫を十分な兵力で維持している限り、幕府木星方面軍は安泰であるというのは、最初から最後まで一貫しているモガミ中佐の判断である。だからこそ彼は、どれだけの恩義があってもイーグル側にはつかなかったし、引き続きシルバー大佐の指揮下で活躍するのである。

 「クキ少佐は何かあるか?」

 「いや、我が海軍は目下の戦略に関する報告はない。強いて言うならば、おってあろう編成に関してだ。木星で海軍編成するためどこで将士を訓練するかが重要な戦略問題ではある。」

 「リ少佐は何かあるか?」

 「クキ殿とほぼ同意見だ。」

 「空軍を編成するには1G制御下大気中での訓練をしなければならん。どこでやるかが問題だ。」

 シルバー大佐が問うが、この2将については実務的な問題に終始する。必ずしも戦略的判断に劣るわけではないが、彼らの指揮範囲的にはそれは重要ではないからだ。

 「シロイシ少佐は何かあるか?」

 「戦略については、直属となるモガミ木星方面軍軍団長にお任せする。」

 シロイシが述べる。この辺りは新参であり、軍としての発言をするには些か経験が浅いからだ。彼の大軍指揮経験は稀有の事ではあるが、それはあくまでもCPG社の戦略方針に則して動いていたにすぎないからだ。

 「強いて言うならば、元CPG所属の暫定兵士は軍への志願率が高くはないと思われる。他から志願兵を集めねばなるまい。」

 この点は大事な事である。CPG所属の暫定兵士はあくまでも宇宙海賊対策程度の防衛任務及び、警備中心で集められていた社員であって、対外戦争を行う覚悟で志願した兵士とは異なるからだ。当然死亡率は桁外れに上がるし、拒否率は相当数になるものと考えられる。今回の木星の乱においてはCPGとしても戦う必要があったからやむを得ない事ではあったが、軍に徴兵されるとなれば別である。そして、覚悟のない兵士を集めたところで戦争では役に立たないのだから、この点はどうにかする必要があった。

 「なるほど、分かりました。では、総司令である私が地球方面軍の動きを代弁し、また今後の方針を固めます。」

 一通り軍団長格の意見を聴いてから、そうまとめる。

 「現状の地球方面軍は勢力をやや拡大傾向にあるが、やはり兵站の維持が困難となっている。火星方面・木星方面・日本国・台湾国から兵器、弾薬、食料を確保し送ってはいるが、損害に対する補充率は103%程度に過ぎない。103%の補充とセレーナ少佐の采配であれば初期軍の維持は出来るが、たとえ戦術的に優勢になっても補給不足で戦線を拡大は出来ないということである。また、すぐにはその危険はないが、当方の武威が半端に高まれば周辺諸国が危険と判断し包囲網を敷く可能性もゼロではない。特に、我々の最終目的は地球圏への復帰であるから、周辺諸国が当方を危険と思う前に、すなわち当方と友好的であるうちに、地球圏に強大な足場を形成する必要がある。当方の木星圏における勢力は安定し、あとは地球圏復帰を目指すことは諸国も承知であろうから、足場の確保は早ければ早い方がいい。また一方で、我々の仇敵であるフィリピン方面のハーディサイト軍はその司令塔であるナイアス・ハーディサイト中将を失ったため、その弟であるケネス・ハーディサイト大佐が少将に昇格し軍をまとめている。完全な軍掌握にはまだかかると思われるが、彼も決して無能ではなく我々が地球への復帰を望む……すなわち彼と激突することは想定しているはずだ。あまり時間を置いては、彼の戦力とくらべ戦力数の劣る我が地球方面軍残存部隊は壊滅させられる恐れもあるし、あわせて今上陛下の玉体も危険にさらされうる。ついては、我が伊達幕府は征東将軍である私の名の下に、およそ2年後、0282年3月頃を目処に地球圏復帰を目指すことを戦略目標とする。その際に必要とするものは、追加の輸送を伴わず北海道及び周辺アジア諸国を平定するに十分な戦力を用意することである。具体的には、現時点を基準とする場合、サイクロプス5000機及びその輸送用艦艇、戦闘機・対潜爆撃機1000機、偵察機300機、戦闘車両・陸戦用小型サイクロプス25000機、歩兵30万は最低ラインとして用意しなければならず、望むべきはこの1.5倍と言ったところである。これらの兵器確保については現状調達したCPG自衛兵器の改修及び、CPGを中心とする兵器生産ラインを製造可能な企業に工場を作らせ製造する。私の記憶している生産キャパならば、余裕は少ないものの生産設備自体は間に合うと考える。また、国内一般製品を犠牲にすれば鋼材原料などは足りると考える。コスト及び生産方法、生産期間、人員の確保は石谷執権が調査中との事なので報告を待つ。歩兵については早急に確保するべく内閣に志願兵の募集の稟議を依頼している。これらの報告や承認は1週以内に返ってくるはずなので、そこで改めて作戦計画を練るものとする。」

 そのようにシルバー大佐が通達する。基本的には可能な範囲で早期の地球圏復帰が戦略という事だ。このためにイシガヤの影響下にあるCPGには最大限協力させる。そういった内容である。これについては誰も異議を唱える者はいない、それほどまでに彼らにとっても地球とは大事なものであった。

 「最後に第三の編成についてですが……軍団編成は既存の通り、軍団長もそのままで空席は師団長などから適当な者を昇格させます。変更点については1個軍団5個師団以上とし、1個軍団あたりの師団個数を増強します。また、師団編成も変更します。今後、基礎単位である1個師団はサイクロプス50機をベースにします。なお、遊撃隊と女神隊は特殊兵科のため、基本枠にとらわれず確保できた人員で編成します。」

 これは大きな転換である。

 「編成がサイクロプスベースだと?」

 そうクキ少佐が声を上げるのは当然であった。

 「これまではサイクロプスまたは戦闘機ベースでの艦隊運用中心でしたが、地球圏に戻るにあたってはサイクロプスベースに統一します。」

 「ほう?」

 「これまでは地球圏において保有制限を受けない戦闘機の運用を中心とし、強力な艦艇でその足と火力をカバーしていましたが、それほど強力な艦艇を量産している時間的余裕はありません。一方でサイクロプスであれば生産が恐らく可能。よって、軽空母や輸送艦中心に艦艇を生産し、その直援はサイクロプスで行うものとします。物資の輸送についてもこの方が1度あたりの量を確保しやすいため、効率がいい。これに合わせて、新地球連邦より受けていたサイクロプスの機数制限は無視して撤回します。」

 新地球連邦政府への申し入れは既に行っている。地球連邦政府から定められた統治地域を侵されているのだから当然であったし、これについて反論を述べる事も容易ではなかったのである。もし新地球連邦政府が幕府に対抗しようものなら、木星の総ての権益は奪われかねないし、新地球連邦政府の運用資金を多く拠出しているのも幕府だったからである。これまでの機数制限は、元々の建国を反乱によって勝ち取った幕府がある意味では自主的に行っていたものであって、新地球連邦政府に対して見せていた忠誠の証に過ぎないのである。総司令が大佐という階級制限もまた同じであった。

 「艦隊戦からサイクロプス戦に移行するわけだな。」

 「そうです、クキ少佐。」

 「サイクロプス戦中心の戦闘方式で行う大戦争は20年程昔以来だな。ギン大佐やセレーナは先のオーストラリア会戦で諸国軍を合わせた1個軍団級のサイクロプス隊を運用しておるし、直近でもまたいくつかの戦争で体験しておるが……カナンティナント中佐やヘルメス、イシガヤといった若手軍団長はその実績が少なく不安であるな。師団長にいたっては1個師団級のサイクロプスを直接指揮などほとんどの者が経験無かろう。」

 クキ少佐やリ少佐は流石に建国戦争を経験はしていないが、サイクロプス中心の時代から艦隊中心の時代に変遷する頃に士官となり軍務を行ってきたので、過去の事はそれなりに把握しているし経験もある。だが続く戦乱でそういったことを経験している将校は減っており、戦術方式の切替はなかなか難儀なものだ。

 「そうですね。一応各将校はシミュレーション上において、その相当階級……幕府軍大尉であれば他国大佐級のサイクロプスベースの指揮ができるはずですが、実戦経験が無いため実際のところはわからないですからね。クキ少佐、リ少佐、下級大尉級までの人事については抜擢も認めます。早急に貴方達の眼鏡に叶う将校を確保し、一旦遊撃隊に配属しなおした上で指揮官として必要な特務訓練を行わせてください。」

 「了解した。」

 「任せてくれ。」

 クキ少佐とリ少佐がそう応える。二人とも長い間幕府軍を支えてきた重鎮であり、多くの若手将校を育ててきた将軍である。長い戦乱の中で多くの将校を失っても、若手将校だけで軍を支えられているのは、彼らの貢献の度合いが大きかった。

 「ギン大佐……」

 そういったクキ少佐であるが、若干言い出し難い風でそう声を挙げる。

 「なにか?クキ提督。」

 ベテランのクキの意見である。シルバー大佐も無下にするわけには行かなかった。

 「人事の件で一つお願いがある。バーン・フルーレ大尉を陸軍軍団長として、少佐に昇格してもらいたい。あれもまだ未熟だが、サイクロプス隊の指揮能力は明らかに師団長に優る。胆力もあって人望もあり、我らもサイクロプス隊を任せるのにとても心強い。それに……まず隗より始めよ、という言葉がある。」

 「……わかりました。クキ提督のたっての頼みですから、国会の承認を得るようにします。」

 シルバーにとってみれば、バーン大尉の処遇は心を悩ます点である。仮にも反逆者の息子であり、昇格させるということ自体がナンセンスではあるが、しかし陸軍を任せうる人材も少ないのだ。豪放なクキ提督ではあるが、しかしこういった心遣いには長けている。身内であるシルバー大佐から昇格を言い出しづらい点を考慮し、古参で信望と実績があるクキ提督がバーン大尉の昇格を望めば、贔屓をしたと見られることは少ないのだ。ましてや、賊徒の子息ですらその忠義心と能力によって抜擢されるならば、市井の優秀な人材は、よりその能力を発揮せんと志願しやすくなだろう。

 「クキ提督、陸軍のニッコロ中尉を事務方に付けますので、使ってやってください。」

 「了解した。」

 クキ提督は一応は戦国時代の武家である九鬼家の血を引く人間であり、リ提督は李如松の子孫を称するとは言っても台湾生まれの台湾育ちで帰化人、ニッコロ中尉は木星生まれの市井の出ながら、参謀部をまとめる事もある出世頭。三者三様の人材を持って人材を招聘しやすくする策ではある。

 「最期に……」

 シルバー大佐がおもむろに……

 「明日、賊徒の処刑を行いますので、そのつもりで。」

 そう伝えるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。