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第五幕 第二場

 おれと小森ミクは差し迫った脅威を排除するべく、ウルフを殺すことを覚悟した。そうしなければ殺されるし、ほかの人間が犠牲になってしまう。これ以上は見過ごしことはできない。一刻も早くやつを殺さねば。


 そう思っておれたちが動き出そうとしたそのとき、グリム王国資料館のドアが開く音が響いた。二階にいたおれたちはお互いに顔を見合わす。その表情はお互いに緊張でこわばっていた。


「……蝶野さん」小森がささやく。「だれか来ました」


「やつかもしれない」おれは言った。「用心して」


 おれたちは物音を立てないよう、慎重に移動を開始する。そして階段の吹き抜け部分から一階をのぞき込んだ。するとそこには男が仰向けに倒れていた。下腹部に怪我を負っているらしく、そこから出血し、衣服を血で汚していた。


「怪我人だ!」おれは思わず声を大にする。


「きっとウルフにやられたんですよ」小森が言った。


「助けよう」


「わかりました」


 おれたちは一階へおりると、男のもとへ急いだ。そして近づくにつれ、倒れている男の顔に見覚えがあることに気づいた。


「こいつは……坂本だ」


「蝶野さん、この人のことを知っているんですか?」


「クレイジー石原のビデオカメラに映っていた。たしか猟師だとか言っていたはずだ」


 おれは苦しみ喘ぐ坂本のそばにかがむと、傷口に目を向けた。坂本は左手で傷口を押さえている。そしてどういうわけか、反対の右手にはビデオカメラがにぎられていた。


「……だれかいるのか?」坂本はこちらに気づいたらしく、口を開いた。「ああ、おまえたちか。カオリとマコトだな」


「いや、ちがう」おれは否定する。「それよりも傷を見せろ」


 おれが傷口に手を伸ばすと、坂本はその手を払いのけた。


「もう無駄だ……おれは助からない。どじを踏んじまった」坂本は息も絶え絶えに言う。「……失敗した。そっちはどうだマコト?」


「おれはマコトじゃない」おれは坂本の顔の前で、その意識を確認するように手を振る。「しっかりしろ。ちゃんと見えているか?」


「すまない……ふたりとも。あとはまかせた……」

 坂本はそう言い残すと、目を閉じて息を引き取った。

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