第五幕 第一場
わたしは教会の中で呆然と立ち尽くす。そんなわたしをコハルが不思議そうに見つめる。なのでわたしも自然と相手を見つめ返してしまう。赤ずきんのコスプレをしたコハルは、そのトレードマークというべきフードはかぶってはおらず、ふたつ結びのおさげだったその髪型は乱れており、片方のおさげはほどけていた。着衣も乱れ、ところどころに汚れが目立つ。
しばしそうしていたが、マコトのうめく声が聞こえて我に返った。すぐにマコトのもとに駆け寄ると、取り乱すように声をかけた。
「だいじょうぶマコちゃん!」
マコトは倒れながら、撃たれたと思われる右足の太ももを押さえている。そこから血が流れ出て、ブルージーンズを赤く染めあげていた。その姿を見てわたしは急いで着ていたパーカーを脱ぐと、それを包帯代わりにし、マコトが負った傷の応急処置をはじめる。
「しっかりしてマコちゃん!」わたしは不安をかき消すように大声で言った。「すぐに血を止めてあがるから、だからがんばって!」
わたしはそう告げると、巻いたパーカーをきつく結ぶ。するとマコトが苦悶する声をあげた。
「ごめんね。でもがまんしてマコちゃん」
わたしがそう言うと、マコトは歯を食いしばり痛みをこらえている。その顔は汗まみれで顔色は悪く、息づかいも荒い。とても苦しそうだ。だけど処置が終わると、マコトは強がりの笑みを見せた。
「ようやく……その名前で呼んでくれたね、アカネ」
「えっ?」わたしは疑問を浮かべた。「なんのこと?」
「ぼくの名前だよ」マコトは顔に浮き出た汗をぬぐう。「マコちゃんって読んでくれただろ」
そう言われて、そこでようやく気づいた。「……ほんとだ。わたしあなたのことを、マコちゃんって言ったわ。どうして?」
「昔はそう呼んでくれたじゃないか。覚えてないのかい?」
「わからない」わたしは首を左右に振る。「いろいろと混乱していて、それにマコちゃん大怪我しているし、それで、その……」
「……氷の女王とは思えない慌てっぷりね」それまで静かに見守っていたコハルが口を開いた。「アカネ、いつもは冷静沈着なのにどうしたのよあなた。まるで人が変わったみたいよ」
「氷の女王……」わたしはコハルに顔を向ける。「何よそれ?」
「何ってあなたのあだ名でしょう。児童養護施設にいたころの」
わたしの知らない過去を告げられたことによって、さらなる不安を覚え動悸が激しくなる。いったいわたしは何者なの?




