第五話 年の瀬
近頃は大掃除しているご家庭を見受けなくなりました。
畳のない家が多くなったからなのでしょうか?
ネズミ「やぁ、ウサギくん」
ウサギ「やぁ、ネズミくん。
今日は何の話だろう?」
ネズミ「どうして年の瀬ってこんなに忙しいんだろうね」
ウサギ「それは人間社会の話じゃないの」
ネズミ「君は本当に何も知らないんだね。 のんびり屋もここまでになると滑稽だ」
ウサギ「・・・・」
ネズミ「今日はお天気もいいし、あっちに行ってもこっちに行っても、どこもかしこも皆、大掃除やってる」
ウサギ「一年の埃を落とさないとね。 新たな気持ちで新年を迎えたいからね」
ネズミ「おお、随分と分かったようなことを言うね。
君にもそんな気持ちがあったんかね」
ウサギ「馬鹿にしちゃぁいけないよ。 そのくらいの心構えは僕にもあるさ」
ネズミ「でもケージの中は君が掃除するわけじゃないだろ」
ウサギ「太郎君がしに来てくれる。 僕はそれを邪魔しないように、隅っこに寄っておとなしくしてるんだ」
ネズミ「手伝えばいいのに」
ウサギ「そうなんだよね。
それで一度手伝ってみたことがあるんだ。
でもね、僕が手を出すとかえって面倒なことになるらしい。
太郎君が僕にいい子だからここで大人しくしててねって言ったんだ」
ネズミ「単に君は邪魔したってことだね。ウサギくんらしいや」
ウサギ「話が違う方向に行っちゃったね」
ネズミ「そうだよ。ウサギくんが変なこと言い出すからだよ」
ウサギ「僕の所為なの?」
ネズミ「年の瀬は俺も忙しいって話だったよね」
ウサギ「そうだよ。
僕に確認を取らないといけないなんて、ネズミくんの頭の中、混乱してるみたいだね」
ネズミ「君がそうさせたんだろ」
ウサギ「どうしても僕の所為にしたいみたいだね」
ネズミ「当然だろ!」
ウサギ「では、何でネズミくんも忙しいの?」
ネズミ「どこの家も家具なんかで隠れたところまで掃除するだろ。
だから俺のいる場がないんだ」
ウサギ「そうか。逃げ回るのに忙しいってことか」
ネズミ「でも悪いことばかりじゃないんだよ」
ウサギ「何それ?」
ネズミ「どこの家にも賞味期限の切れたものが沢山あって、それを皆捨てるんだよね。
俺にとっては宝の山さ」
ウサギ「傷んだものでお腹を壊さないといいけどね」
ネズミ「大丈夫さ。俺には食えるものと食えないものを嗅ぎ分ける能力があるんだからね。
おっと、ここで油を売っているうちにいいものを誰かに喰われちゃたら大変だ。特にカラスがよく狙っているんだ。
もう行くよ!」
ウサギ「あんなに慌てて行っちゃった。
『猫いらず』って言うのもあるんだよね。それを嗅ぎ分ける事なんてできるのかな。
それにカラスはネズミを食べることがあるって聞いたことがあったな。
ネズミくん、カラスに喰われなければいいけど。
怖い、怖い」
タンスなどの裏から百円玉が出て来たりすると、とっても嬉しかったことを思い出しました。
大掃除は大変だけど、いいこともあったりするんですよね。
それと、賞味期限切れにはお互いに注意しましょう。
物価高の折、もったいないですから!!