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僕だけの勇者様  作者: ふるみ あまた


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35/64

35 【為すべきこと】

 

 マリアさんが持ってきてくれたのは、茶色と白の小さな粒粒がボウルいっぱいに入れられた謎の料理だった。シンプルかつ、どこか懐かしい気持ちにさせられるその味わいに、僕は静かに感動していた。


「お味はいかが?」


 何も言わずに食べていたからか、ちょっと前に僕のお姉ちゃんを自称してきたマリアさんが優しく尋ねてきた。


「とっても美味しいです。すごく素朴な味わいなんですけど、病みつきになるというか、あとを引くというか。なんていう料理なんですか、これ」

「この地方でよく食べられている『オソバ』と呼ばれる穀物を、塩で茹でただけのものです。だから、料理名は特にありません」

「オソバ……」


 聞いたことのない食べ物だった。僕の舌はパンよりも、オソバの方が断然美味しいと言っていた。


「ホットミルクのお代わりは?」

「いただきます」


 何のミルクかはわからないけど、聖都のミルクは癖がまったくなくて、とても飲みやすいものだった。はっきり言って、聖都の食べ物はすべてのものがめちゃくちゃ美味しかった。


 ただ、どんなに美味しいものを食べても、旅の中で勇者様と一緒に食べた野草鍋だとかエグミだとか、そういった食べ物の方が、僕にとっては何倍も美味しく感じられた。


「では、先生。本題の方をお願いします」

「……本気かい?」


 躊躇いが拭いきれなかったのか、ウーリール先生はどこか物悲しい気持ちを押し殺したような表情でマリアさんのことを見た。反対にマリアさんは、堂々と胸を張って言葉を返した。


「大丈夫です。この子は為すべきことだけを与えてあげれば、結果を出すタイプの子ですから。試しに聖堂の裏にある古井戸で水瓶2杯分の水を汲めと命じたら、本当にやり切りましたからね」

「せ……え? あの古井戸で? 本当に?」


 ウーリール先生はもともと丸い目をさらに丸くさせて僕を見た。自分が褒められているのか、なんともいえない不透明な内容の会話に、僕は戸惑うことしかできなかった。


「本当ですよ! 私が今まで嘘をついたことがありますか?」


 マリアさんは真剣な表情でウーリール先生に迫った。すると先生は彼女の顔を見つめながら2、3回大きく瞬きをして薄く笑った。


「……今すぐ、口づけをしないと死に至る病」

「ありましたねぇ!! そんなことも!! ちょっとリンゴが喉に引っかかっちゃったもので!! あの時はおかげで命が助かりました!!」


 力で押し通したかったのか、マリアさんの声は徐々に大きくなっていった。


「ともかく!! この子には『今』が必要なんです!! 余計な前置きはいりません!! この子が『今』何をすべきなのか、それだけを教えていただければ、ありがたいです!!」


 マリアさんは勢いそのままに押し切った。ようやく折れたウーリール先生は、それまで重くさせていた口をゆっくりと動かし始めた。


「……聖都を出て、ほどないところに洞窟がある。何百年と誰も立ち入ることのなかった、霊泉の湧く洞窟が。そこでしか採れない水晶が必要になる」

「思ったよりも簡単そうですね。早速、行ってみることにしましょう」

「外は危険が多い。私も一緒に行こう。だが、3人で洞窟に入れるかは、現地に行ってみないとわからない」

「どうして?」


 洞窟という場所に、少しばかり悪い思い出のある僕は聞かずにはいられなかった。


「長年の間、誰かが足を踏み入れたという記録すら残されていないんです。私が確認したところによると、その洞窟はとても頑丈な扉で封鎖されているとのことらしく……」

「扉でしたら、私にお任せを」


 本人が言う通り、扉といえばマリアさんだった。なにせ彼女は、その日だけで2回も扉を蹴破っていたのだから。


「それは……どうだろう」

「先生? 私を誰だと思ってるんですか。どんな頑丈な扉でも、この乙女の前では塵と同じです」


 マリアさんは実績のある脚力を誇った。それでもウーリール先生は、もったいぶった態度を崩さなかった。


「うーん……その扉というのは物理的にではなくて、特殊な魔術によって封印されているんだ。扉を開くために必要になってくるのは、乙女という部分は合っているんだけど、つまり、その……」


 ウーリール先生は決まりが悪そうに言葉を濁した。彼の隣で首を傾げながら話を聞いていたマリアさんは、みるみる表情を変えていった。


「まさか……その封印って、大昔に聖堂の関係者が施していたり?」

「うん、正解」


 置いてけぼりで会話を続けていた2人は、動きを揃えて僕のことを見てきた。またしても何のことやらわからなかった僕は、開きっぱなしにしていた口から「あん?」という間抜けな音を漏らしただけだった。

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