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青い稲妻  作者: 北村美琴
第2部イリア編
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悪夢の中その2

(な、何この人達……?)


 総勢百人超えの人間達が、一斉に川を渡って来る。

 その光景は、マヤにとって恐怖でしかなかった。

 目は虚ろで両手はダランと下がったまま。

 口は固く閉じられており、少し前屈みの姿勢が不気味さを漂わせている。

 その背後にある怪しいオーラが見える気がした。

 言い方を変えれば、まるでゾンビのよう。

 いや、ゾンビそのものだ。


 ザッ、ザッ、ザッ。


 一糸乱れぬ足捌きで素早く川を渡り歩き、マヤと両親の側に来た。

 川が浅かったか。

 声にならない悲鳴を上げるマヤ。

 怖い。

 喉の奥が渇く。

 今にも、涙がこぼれ落ちそう。


 〈お、ま、え……〉


 低く長いうねり声を上げて、ゾンビが言葉を発する。


 〈お、ま、え、何処から来た?〉

 〈この世界の人間じゃ、ないな〉

 〈この世界に生きた人間は居ない。全て魂だけの修羅場みたいなもんさ〉

 〈こんな世界に生きた人間が入って来るとは……。DEX様は一体、何をお考えに……?〉

(でっ、DEX様……?)


 マヤはこの時はっきり気づいた。

 自分が今居るこの異常な世界の事に。

 両親の変貌。

 石の搭が積まれた砂浜と長い川。

 ゾンビの集団。


(もしかして、ここは……)


 死の国。

 自分は一般に言う、三途の川の近くに居るのでは?

 だとしたら、一体何故?

 どうして、こんな所に。

 思い返してみよう。

 深い記憶の中を。


(そう、あの時……)


 自分はDEXに捕まり、水晶の中に閉じ込められていた。

 圭一達と交信した直後。

 DEXは目の前に。

 細く長い触手が近づいて来る。


 ビカッ。


 水晶にそれが触れた途端、高圧電流が私の身体中を貫いた。

 フッと意識が途切れたんだ。

 そして気がついたらここに居た。

 だったら、やはり私はもう死んでしまったのだろうか。

 でも、ちょっと待って。

 それだったらつじつまが合わない。

 だって、ついさっきゾンビが、


 〈この世界に生きた人間が居る〉


 なんて言ってたもの。

 生きてる。私はまだ生きてる。

 それにこの世界がもし死の国じゃなくて、DEXの作った幻だったら?

 なら、早くここから抜け出さないと。

 仲間の所に帰れない。

 圭一にも会えない。

 彼女は必死に解決方法を考えた。

 みんなの所へ帰りたい。

 その思いだけが今の彼女を突き動かしていた。


「マヤ」

「え?」


 そんな彼女の思いに支障をきたしたのは、誰であろう彼女の父親だった。


「マヤ。もう時間が無いようだ。この方達が来た以上、お前はもう逃げられない。この世界に居る限りな」

「え? それはどういう事? お父さん」

「説明している時間は無い。とにかく、お前は黙ってお父さん達の言う事を聞いていればいいんだ」

「い、嫌よ。ちゃんと事情を説明して!」

「うるさいっ!」


 バシィッ。


 宙を舞った父親の手のひらはマヤの頬にクリーンヒットし、マヤの体は大きく弾き飛ばされた。


「マヤ。聞き分けが悪くなったな」


 言いながら父親は倒れているマヤの襟首を掴み、そのままの体勢で往復ビンタを開始した。


 ビシッ。

 バシッ。


 右へ左へマヤの首が振られて行く。

 痛さと悔しさで涙がこぼれ落ちた。

 彼女と父親の周りには百人超えのゾンビ達が円になって囲み、こちらの様子を見ている。

 気味悪い薄笑いを浮かべて。

 その中にはマヤの母親も居た。

 誰も助けようとしない。

 楽しんでいる、というか面白がっているという風に見えた。

 マヤがボロボロ涙を流すたびに、笑い声とともに歓喜の声が漏れる。


 〈イエーイ。もっとやれ~〉

 〈いたぶってやれ~〉

 〈楽しいね。こういうのを見るのは〉

 〈こういうのは過激にやらなくちゃ〉

 〈服でも破ってくれたら、最高なのにな〉

 〈馬鹿。父と娘だぞ〉

 〈そうだよな。ハハハハハハ〉

 〈アハハハハハ!〉

(く、悔しい……。悔しい、悔しい)


 痛みに耐えながら何も出来ない自分に、マヤは腹立たしさを感じていた。


(どうしたのよ私は……。もっと強かったはずなのに……)


 強く念じてみても、さっきまでの両親の笑顔を思い出すと、今ここに居る二人が悪者かもしれないという意識も認識も、全て薄れていった。

 もう何が何だか分からない。

 現実に何が起こっているのか、という事を考えるという事すら忘れかけていた。

 肉体的な痛みと心の痛み。

 これが今のマヤの思考を鈍らせている原因の一つである。

 しかし最大の原因。

 それはやはり彼女自身の意志が弱りつつある事だろう。

 何があっても挫けない。

 常に前向きに生きて来た気持ち。

 それさえ取り戻せば、まだ希望はあるはず。

 マヤの心は今、葛藤を繰り返していた。

 自分が仲間と共に築き上げてきた〈愛〉が真実なのか、それともここに存在する両親が言っている事が真実なのか、どちらに転んでも、マヤにはもう二つの選択肢しか残されていなかった。

 同意するか、否定するか。


(どうしよう。どうして、どうして、どうしてなの?)


 父親に対する疑惑、不安、怒り。

 身体の痺れ、痛み、涙、悲痛な心。

 攻撃の手が止んだのは、そんな矢先だった。


「痛いか? マヤ」

「……」

「痛かったら、ちゃんとお父さん達の言う事を聞け。聞き分けが無いからお父さんは、お前の顔が真っ赤に腫れるまで殴る事になってしまったんだぞ」

「……」

「さあ、立て。立ってお父さん達と一緒に行くんだ。じゃないと、また同じ事になるぞ」


 父親の声を聞きながらも、マヤは立とうとしなかった。

 正直言って、まだ悩んでいたのだ。

 言う事を聞いてついて行くべきか。

 圭一達の元に帰るべきか。

 しかしやはり彼女は、あの両親の態度に疑問を隠せなかった。

 おかしい。

 いつものお父さんとお母さんじゃない。

 記憶の中の二人は、もっと優しかったはずだ。


(一体、どうして……)


 泣き出しそうな自分の心を押さえながら、マヤは遠い過去を振り返っていた。

 そう、あの平穏な日々を。

 両親とともに過ごした、あの幸せな日々をーー。










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