囚われのマヤ
「ねえ、クローン」
メドゥーとマグが出て行った扉の前で、圭一が尋ねる。
「責任を取るって言ってたけど、メドゥーさん、マグさん、変な事しないよね?」
圭一と中島をマグが傷つけようとしていた事、それに対してメドゥーが責任を取ると言っていた事に、圭一が心配しているのだ。
「変ナ事? 変ナ事トイウノハ私ニハ想像ガツカナイノデスガ、オ二人ガレジスタンスヲ辞メルトイウ意味ナラバ、ソノ心配ハゴザイマセン。オ二人トモ、コノ場所ガ好キナヨウデスカラ」
「そ、そう……」
「圭一サンハ、オ優シイノデスネ。マグサンガアナタ方ヲ襲オウトシタノハイケナイ事ダト、私モ思イマス」
「……マヤを好きな気持ちは、僕も分かるから」
「んでもよ、あんな目にあったんだぜ。下手すりゃナイフで刺されるかもしれなかったのに、俺だったら怒るぜ」
「中島……」
「まったく。お人好しだよ。お前は」
「ソウデスネ」
クローンまで同意する。
その言葉に圭一は少しショックを受けた様で悲しい顔を見せた。
「マア、ゴメンナサイ。ケレド、ソレガ圭一サンノ良イ所ダト思イマス。流石ハ、マヤサンノ選ンダ方デスネ」
「く、クローン……」
「フフッ。私モオリジナルノマヤサント同ジク、アナタヲ素敵ダト思イマスヨ」
「そ、そうかな? ちょっと、恥ずかしい」
「ア、中島サンモ好キデスヨ。ジャ、モウ大丈夫ソウナノデ私ハ行キマスネ。気持チ落チ着ケテユックリ休ンデ下サイネ」
二人にもう危険が無いと判断して、クローンも部屋から居なくなる。
残された圭一と中島は、ちょっとどうしようと迷った後、二人でベッドに座る。
「圭一」
「何? 中島」
「怖かったな」
「うん」
「でも、メドゥーさんとクローンが来てくれて良かった」
「うん」
「……休むか?」
「そだね」
ベッドに体を預ける。
目を閉じた。
ーーここで少し、時間を戻して。
ゴゴゴゴゴゴ。
ギュイン、ギュイン。
圭一達が部屋に案内される前、正確には大広間でクローンを通じてマヤと交信をした直後、のとある神殿。
「はっ?」
目を閉じていたマヤは何かが近づいて来る物音に耳を傾けた。
ギギギギギ。
気味の悪い機械の音がする。
何本も繋がれた配線。
金属の身体を引きずりながらやって来る。
ガシャン。
両サイドから飛び出たコードと細い鉄パイプで造られた腕、が水晶に迫る。
コードは人間でいう血管、そして鉄パイプは骨を表したのだろう。
それにしても気持ちが悪い。
マヤの瞳は見開き、膨張していた。
(……殺される)
心の震えが止まらない。
(助けて)
思わず目を閉じた。
が、
DEXは水晶から数センチの所で腕を止め、何故か動かなくなった。
(……!?)
マヤは自分に近づいていたはずのDEXの腕の動きが止まったという気配を感じ、不思議そうに目を開けた。
大小さまざまな配線で繋がれた巨大な身体。
至るところに付けられた謎のスイッチ。
そのスイッチの上のランプは、全て消えていた。
さっきまで聞こえていた機械音も無い。
電気が流れているという感じすらしない。
電流の供給が、何処かで途切れてしまったのか。
(それにしても……)
マヤは不安な胸騒ぎを抑える事が出来なかった。
(あり得ないわ。だって、DEXは……)
その途端、部屋中に轟音が響いた。
ズシャアアアアア……ン。
ガガガガガガッ。
バキッ、ゲコッ、ダダァン。
(キャアアアアアッ!)
目の前の扉が勢いよく開く。
天井から、壁から、ガラスや板の破片が幾つも飛び散り、落ちて来る。
ひび割れた床からは何本もの触手がうごめき、マヤの水晶を取り囲んでいた。
腕の鉄パイプの回りのコード。
あれはコードというより、一本一本剥がれる触手だった。
固まって、太い腕の様に動かす事もでき、長さも自在に変えられる。
やはり、マヤの勘の通り、動かないフリをしていたのだ。
油断させる為に。
埋め尽くされた破壊の跡。
邪悪な笑みを浮かべた牙が襲って来る。
静かに、でも確かに。
DEXの胸のランプが光った。
(……!!)
獲物を狙う目は、まるで蛇のよう。
音を立てずに、じわじわと忍び寄って来る。
この上ない恐怖を、マヤは感じていた。
体の芯から来る震え。冷や汗。鳥肌。
ゾクッとする凍える様な視線。悪寒。
そして、殺気。
それらの全てが一気に放出された様な気がした。
(怖い)
恐怖が束になって押し寄せて来る。
もう逃げられない。
(私、ここで死ぬの……?)
DEXの触手が水晶に触れた。
そして、
何百ボルトかも分からない電流が、身体中を貫いた。
激しい痛みと熱さに、マヤは顔を歪ませる。
息をする事さえ苦しい。
肌を覆っていた衣服は破け、長い足が丸見えとなる。
皮膚は赤く焼けただれ、唇は青から紫へと変色。目も引っ込み、心臓の鼓動も乱れてきた。
ババババババ……ッ。
DEXの放つ電流の感覚を浴びながら、その意識は闇の中に吸い込まれつつあった。
力が抜ける。
(ここは……?)
一体何処だろう。
いつの間にかマヤは、花畑の中を歩いていた。
知っているような、知らない場所のような、曖昧な場所。
ただ道に任せ歩いていた。
前の方から差し込んでくる優しい光。
それに導かれる様に進んで行く。
意識は朦朧としたままだ。
何処に続いているのかも分からない。
行くあてのない迷子の様に。
ビュウウウウ。
風で花びらが舞う。
トンネルの入り口らしき物が見えた。
中は暗いのかと思ったら明るい。
迷わず中に入る。
カツーン。カツーン。
細長い管の中を通っている様な金属音が響く。
それにしても長い。
どれだけ続くのだろう。
入り口からだと、案外短いように思えたのに。
(マヤ、マヤ……)
不意に、マヤの頭の中に声が聞こえた。
(この声は……)
聞き覚えのあるその声に、彼女はいても立ってもいられずに走り出した。
あ、出口はもうすぐだ。
バアッ。
一瞬の強烈な光に視界を遮られたものの、それはすぐに元に戻った。
(ああ)
白い服を着た女性が手招きをしている。
隣には、これまた白い服の男性が立っていた。




