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青い稲妻  作者: 北村美琴
第1部地球編
31/143

真実

「……!!」


 マヤと圭一は縛られている中島と彼の父親を発見して身構えた。

 中島は何かを訴えようとしているのか、「う~う~」とうめき声を上げている。

 しかし猿ぐつわのせいでその言葉は上手く聞き取れない。

 父親の方は圭一達をじっと見て動かない。

 息子がナイフを突き付けられているのに。

 もしかすると恐怖で固まってしまっているのかもしれない。

 女性は再びマヤに問いかけた。


「マヤ。あなたは何の為に戦争を止めたいの? あなたの本音を、聞かせてちょうだい」


 マヤはその質問には答えず、まず中島君達を解放するように頼む。

 女性は首を振った。


「残念だけどそれはまだ出来ないわ。あなたが質問に答えてくれるのが先よ」

「何故そこまでして、私の答えが聞きたいの?」

「それがあの人の願いだから」

「あの人?」


 あの人って誰?

 マヤはいぶかしむ。

 女性はナイフを握る手に力を入れた。


「答えるの? 答えないの?」

「待って! 私が戦争を止めたい理由は……」


 その瞬間、圭一が女性の手首を掴んだ。


「事情は分からないけど、人質を取るのは、良くない事だと思う」

「くっ、どきなさい!」


 女性はもう片方の腕で圭一の肩を押して、何とか離れようとする。

 中島が立ち上がり、体当たりした。


「……!」


 女性は転ぶ。

 ナイフが落ちた。

 その床に落ちたナイフを圭一が拾い、中島と彼の父親のロープを切る。

 ついでに猿ぐつわも。


「中島、大丈夫か?」

「ああ、圭一サンキュー。助かったぜ。でも……」


 中島は近くに居た父親と距離を取る。


「中島君?」

「マヤちゃん。この人は俺の父親じゃない。父さんは今日母さんと一緒に出掛けてて、俺は留守番なんだ」

「えっ?」


 このお父さんも偽物?

 倒れていた女性が起きる。


「そう。潜んでいたのはわたしだけじゃないわよ」


 パカッ。


 偽物の父親の身体が割れた。

 中からロボットが現れる。

 ロボットは腕を伸ばした。

 女性がロボットの側に立つ。


「どうするマヤ。ロボットがビームを放つわよ」


 中島君の家でそんな物を放たれる訳にはいかない。

 マヤは大人しく静かに座った。

 それを見ていた圭一と中島も、彼女の側に来て座る。


「そう、いい子ね。それじゃ話の続きをしましょう」

「ええ、ミナさん。私が惑星イリアの戦争を止めたい理由。それは両親のかたきじゃない。みんなの願いを、叶えたいの」

「みんなの願い、だけじゃないでしょ?」

「そう、ね。みんなの願いじゃない。私自身の願いでもあるわ。取り戻したいの。元のイリアの姿を。戦争が、始まる前の」

「そう。でもそれは難しい事よ」


 ミナ。ロボットの側に立つ女性が言った。


「今あなたが言った事。それがあなたの本音なのねマヤ。でも今の状態のあの星を、戦争が始まる前のイリアに戻すなんて事は、不可能に近いわ。それは分かってるわよね、マヤ」


 マヤはこっくりと頷く。


「……分かってる。分かってるからこそ、出来る事から始めたいの。小さな事でもいい。動いてみる事が大事だって、博士達もおっしゃっていた」

「それで地球に? でもあなたはまだ子供なのよ。そんな危険を冒さなくても……」

「私が自分で決めたの。博士達も最初は反対したわ。でも私の覚悟を知って、サポートして下さると言ってくれた。だから私はここへ」

「そう」


 ミナはちょっとうつむき、ため息をついた。

 圭一と中島は二人のやり取りを座ったまま静かに聞いている。

 何だか、話に入れない雰囲気だ。 

 二人の問題というより、イリア全体の事を考えた話し合いなのだろう。

 簡単に口を出していい事じゃない。


「しっかりしている子だと思っていたけど、ここまでとはね。いいわ」


 ミナはロボットに命令し、その腕を下ろさせる。


「ビームは、止めにしといてあげる」

「ミナさん……」

「で、地球に来て、肝心の答えは見つかったの?」

「自然を愛し共存する事。そしてもし敵であっても話し合ってみる事」

「フッ」


 腕を組みマヤの答えを待っていたミナは腕を外し、リラックスした様に笑った。


「さすがねマヤ。話し合いの場を作るいう事は、相手の考えを知るという事。それによって開ける道もあるわ」

「今気付いたの。戦い合うだけじゃ、お互いに疲れるだけだって」

「今でも後でも、気付く事が大事よ。わたしもそう思ってた。〈敵〉に捕まった時、はっきり言ってどうなるのかと思ったわ。殺されるのかもって事が頭によぎった。でも、世話役の彼は優しかった。彼も戦争を終わらせたいと思ってたんだって。こんな事続けた所で、何も生まれないって」

「ミナさん、それじゃ……」

「ええ。いつの間にかわたし、彼に惚れてた。彼を連れてあなた達の所に戻るつもりよ。わたしがここに来れたのは、彼の意志。あなたに会えるように、彼が敵の目を盗んで手引きしてくれたの。このロボットは、護衛役よ」

「そうだったの……。良かった、本当に」

「あなたの意志を確かめる為に、こんな茶番をして、ごめんなさいね」

「ええ」


 マヤは嬉しくて、ミナと握手しようと立ち上がる。

 ミナもマヤに手を伸ばした。

 その時、


 バシュッ。


 ロボットのビームが、ミナの胸を貫く。

 マヤも圭一も中島も、一瞬の出来事に体すら動かなかった。

 崩れ落ちて行くミナ。

 マヤは涙目で叫んだ。













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