真実
「……!!」
マヤと圭一は縛られている中島と彼の父親を発見して身構えた。
中島は何かを訴えようとしているのか、「う~う~」とうめき声を上げている。
しかし猿ぐつわのせいでその言葉は上手く聞き取れない。
父親の方は圭一達をじっと見て動かない。
息子がナイフを突き付けられているのに。
もしかすると恐怖で固まってしまっているのかもしれない。
女性は再びマヤに問いかけた。
「マヤ。あなたは何の為に戦争を止めたいの? あなたの本音を、聞かせてちょうだい」
マヤはその質問には答えず、まず中島君達を解放するように頼む。
女性は首を振った。
「残念だけどそれはまだ出来ないわ。あなたが質問に答えてくれるのが先よ」
「何故そこまでして、私の答えが聞きたいの?」
「それがあの人の願いだから」
「あの人?」
あの人って誰?
マヤは訝しむ。
女性はナイフを握る手に力を入れた。
「答えるの? 答えないの?」
「待って! 私が戦争を止めたい理由は……」
その瞬間、圭一が女性の手首を掴んだ。
「事情は分からないけど、人質を取るのは、良くない事だと思う」
「くっ、どきなさい!」
女性はもう片方の腕で圭一の肩を押して、何とか離れようとする。
中島が立ち上がり、体当たりした。
「……!」
女性は転ぶ。
ナイフが落ちた。
その床に落ちたナイフを圭一が拾い、中島と彼の父親のロープを切る。
ついでに猿ぐつわも。
「中島、大丈夫か?」
「ああ、圭一サンキュー。助かったぜ。でも……」
中島は近くに居た父親と距離を取る。
「中島君?」
「マヤちゃん。この人は俺の父親じゃない。父さんは今日母さんと一緒に出掛けてて、俺は留守番なんだ」
「えっ?」
このお父さんも偽物?
倒れていた女性が起きる。
「そう。潜んでいたのはわたしだけじゃないわよ」
パカッ。
偽物の父親の身体が割れた。
中からロボットが現れる。
ロボットは腕を伸ばした。
女性がロボットの側に立つ。
「どうするマヤ。ロボットがビームを放つわよ」
中島君の家でそんな物を放たれる訳にはいかない。
マヤは大人しく静かに座った。
それを見ていた圭一と中島も、彼女の側に来て座る。
「そう、いい子ね。それじゃ話の続きをしましょう」
「ええ、ミナさん。私が惑星イリアの戦争を止めたい理由。それは両親の敵じゃない。みんなの願いを、叶えたいの」
「みんなの願い、だけじゃないでしょ?」
「そう、ね。みんなの願いじゃない。私自身の願いでもあるわ。取り戻したいの。元のイリアの姿を。戦争が、始まる前の」
「そう。でもそれは難しい事よ」
ミナ。ロボットの側に立つ女性が言った。
「今あなたが言った事。それがあなたの本音なのねマヤ。でも今の状態のあの星を、戦争が始まる前のイリアに戻すなんて事は、不可能に近いわ。それは分かってるわよね、マヤ」
マヤはこっくりと頷く。
「……分かってる。分かってるからこそ、出来る事から始めたいの。小さな事でもいい。動いてみる事が大事だって、博士達もおっしゃっていた」
「それで地球に? でもあなたはまだ子供なのよ。そんな危険を冒さなくても……」
「私が自分で決めたの。博士達も最初は反対したわ。でも私の覚悟を知って、サポートして下さると言ってくれた。だから私はここへ」
「そう」
ミナはちょっとうつむき、ため息をついた。
圭一と中島は二人のやり取りを座ったまま静かに聞いている。
何だか、話に入れない雰囲気だ。
二人の問題というより、イリア全体の事を考えた話し合いなのだろう。
簡単に口を出していい事じゃない。
「しっかりしている子だと思っていたけど、ここまでとはね。いいわ」
ミナはロボットに命令し、その腕を下ろさせる。
「ビームは、止めにしといてあげる」
「ミナさん……」
「で、地球に来て、肝心の答えは見つかったの?」
「自然を愛し共存する事。そしてもし敵であっても話し合ってみる事」
「フッ」
腕を組みマヤの答えを待っていたミナは腕を外し、リラックスした様に笑った。
「さすがねマヤ。話し合いの場を作るいう事は、相手の考えを知るという事。それによって開ける道もあるわ」
「今気付いたの。戦い合うだけじゃ、お互いに疲れるだけだって」
「今でも後でも、気付く事が大事よ。わたしもそう思ってた。〈敵〉に捕まった時、はっきり言ってどうなるのかと思ったわ。殺されるのかもって事が頭によぎった。でも、世話役の彼は優しかった。彼も戦争を終わらせたいと思ってたんだって。こんな事続けた所で、何も生まれないって」
「ミナさん、それじゃ……」
「ええ。いつの間にかわたし、彼に惚れてた。彼を連れてあなた達の所に戻るつもりよ。わたしがここに来れたのは、彼の意志。あなたに会えるように、彼が敵の目を盗んで手引きしてくれたの。このロボットは、護衛役よ」
「そうだったの……。良かった、本当に」
「あなたの意志を確かめる為に、こんな茶番をして、ごめんなさいね」
「ええ」
マヤは嬉しくて、ミナと握手しようと立ち上がる。
ミナもマヤに手を伸ばした。
その時、
バシュッ。
ロボットのビームが、ミナの胸を貫く。
マヤも圭一も中島も、一瞬の出来事に体すら動かなかった。
崩れ落ちて行くミナ。
マヤは涙目で叫んだ。




