敵か味方か
中島の父親がマヤの秘密を知っていると喋り出した時、コーヒーのカップを持とうとした圭一の指もそこで止まった。
この人には言っていないはずなのに。
息子である中島も、両親には知らせていないと話していた。
一体何処から情報が漏れたんだろう。
マヤが醸し出す雰囲気で、なんとなく分かってしまったか。
圭一が最初に感じた様に、不思議な少女だなあって。
「マヤ……」
隣のマヤを見る。
圭一以上に緊張しているのは彼女だろう。
さっきから何も話していない。
口が半開きになっている。
ただ目だけはしっかりと中島の父親を見ていた。
その父親が喋る。
「答えられないのかい? 大事な事だよ。何故君が戦争を止めたいと願っているのか」
「それは……」
「仲間達との約束だから? それとも両親の願いだったから?」
「……っ」
どうして、そこまで知っているんだ。
思わず圭一が口を出す。
「おじさん。中島……。高志から聞いたんですか?」
「いや。高志は何も言っていない。なんとなく、ね」
「なんとなくで分かる事?」
マヤの顔つきが変わった。
怒っている様な、疑っている様な。
「おじさま、じゃないわね。私も圭一も中島君も話していないもの。二人とも約束してくれた。私に危害を加える地球人がいるかもしれないから、秘密にしておこうって」
「秘密? わたしは家族だぞ」
「もし中島君があなたに私の事を話しているんだったら、私が戦争を止めたい理由も分かるはず。一緒にロボットを蹴散らしてくれたんだから」
「……く」
「おじさまだったら、私に何もしないだろうけれど、中島君は多分、ご家族を守りたいのよ。あの一件があったから。圭一のご両親については、仕方なかったのよ。ロボットが攻めて来る前だったし、地球に着いたばかりで、頼れる人が少なかったから」
「……そう」
それは聞き覚えのある中島の父親の声じゃなかった。
圭一がギョッとした顔をする。
どうなっているんだ。
「外に出よう。わたしもあまり騒がれたくない」
その声のまま、中島の父親の姿をした者は立ち上がる。
レジで三人分の代金を払った。
建物の外へ。
通り過ぎる人はいるが、誰も圭一達の事を見ていない。
「丁度いいな。ここなら」
まるで何かの映画を見ている様に、中島の父親の顔が変化していく。
グニャッと潰れたと思ったら、二十代くらいの女性の顔が現れた。
髪は長い銀髪。
脇の髪をかけて、両耳を出している。
「ひ……っ」
悲鳴を上げそうになった圭一の口をマヤの手が押さえる。
「落ち着いて圭一。駐輪場へ」
小さい声で囁き、彼の手を取って走った。
中島の父親に化けていた女性は、
パッ。
彼女達を追いかける様に、一瞬でその場から消えた。
駐輪場の圭一達。
訳が分からないまま、圭一はマヤに聞いた。
「どうなってるのマヤ。中島のおじさんが女の人に……。僕は、何を見たの?」
「彼女は私達の星の、敵側の人間。写真や映像で見た人物の姿に変身する事が出来るの。私が関わった地球人の事を、調べていたんだわ」
「関わったって……」
「ええ。急いで中島君の家に行きましょう。捕まってるかもしれない」
「行かせはしないわよ」
いきなり目の前に、あの女性が立ち塞がった。
息を切らせている様子もない。
瞬間移動でもして来たかの様だ。
「……やっぱり、追いついて来たのね」
「ええ。わたしの能力を知ってるでしょ? マヤ」
「……」
マヤは黙る。
圭一はどうしていいのか分からず、マヤと女性の顔を交互に眺めた。
「いいのマヤ? 彼氏が戸惑っているわよ」
「そうね。圭一にはきちんと説明するつもり」
「そうしなさい。自転車で逃げている暇は無いわよ」
女性が一歩近づく。
マヤはホットパンツのお尻のポケットから光る小石を探った。
ロボット戦で使うはずだった小型の閃光弾。
それを女性の足元に放つ。
パン。
圭一達以外、誰も居なかったのが幸いした。
女性は目をくらます。
その隙に圭一とマヤは自転車に乗って逃げた。
目指すは中島の家。
走りながらマヤが圭一に説明する。
「彼女はもともと、私達の仲間として戦ってくれていた。変身能力と、瞬間移動の能力を使ってね。でもある日、敵に捕まってしまって、そのまま……」
「君の言う、敵の仲間になったって事?」
「……多分。私達も、早く彼女を助け出せなかった。それが悪かったのかも」
「マヤ……」
「とりあえず今は、中島君の家に急ぎましょう。彼女がいつからおじさまに化けていたのか分からないけれど、彼の家に行けば何かが掴めるはず」
「分かった」
自転車はスピードを上げる。
目をくらませたとはいえ、女性が瞬間移動の能力を持っている限り、自分達より早く中島の家に着いている可能性もある。
あるけど。
到着してみないと分からない。
玄関前に二台の自転車を止めた。
ピンポンを鳴らす。
反応は無い。
玄関扉に耳を近づけ物音が聞こえるか確かめてみても、人の声すらしない。
留守なのか。
圭一がもう一度呼んだ。
「中島、おい、中島!」
やっぱりシーンとしたまま。
「居ない、の?」
マヤがドアノブに手をかけた。
カチャッ。
鍵が開いてる。
これはおかしい。
意を決してドアを開けると、中島の靴がちゃんと揃えて置かれていた。
他の家族の靴も。
家の中に居る。
「失礼しま~す」
圭一とマヤは頷き合い、家の中に上がらせてもらう。
居間の扉を開けた時、そこにはロープで体を縛られ、口に猿ぐつわをされた中島と父親の姿があった。
そして、
「遅かったわね」
中島の首元にナイフをちらつかせ、マヤ達を見て笑う女性が待っていた。




