第八十八話
「話は五年前、戦争終結までさかのぼります。そのころは各地で孤児が沢山出ました。蛮族達に襲われた結果です」
工場から出て海が見える場所まで来た三人、人がいる気配がないので気兼ねなく話せる上に工場から出る煙も海風のお陰か幾分ましに感じる。
「政府も大打撃を受けたトゥールスとドレスリンの復興にお金を裂きました。ですがその恩恵を受けられない子供も当然いて…」
「だからクラウちゃんは…」
「先ほど火力の制御が目的と言いましたが…子供たちの保護も目的の一つです。私の買い取った特許を使って銃の開発を進め、改良も加え、作った銃はどうにか軍で正式採用され、今では収益もかなりのものです。孤児になった子供達もかなりの数を雇って銃やそのほかの武器の生産を始めました」
「………」
「私はこうするしか、策が浮かびませんでした」
「そうだったんだ…」
「今はどうにか、あの子たちに満足にご飯を食べさせてあげられています。キマイラさん。貴方が人間を恨んでいることは知っていますが。どうか…」
クラウはキマイラの方に向き直り、深々と頭を下げた。
キマイラのほうは目を細め、工場の方へ視線を向ける。
子供たちの姿はあまり見られないが…
「…今を生きる人間に罪は無い。のうのうと生きる奴らを時折恨めしくも思うがな。ただ一つ言わせてくれ」
「なんでしょう?」
「…この煙と臭いをどうにかしろ。子供の身体にも良くはない」
「は、はい!分かりました!」
彼女は快く頷いた。
「行くぞ、ミリー。他にも聞こうと思ったが、ここに居たくない」
「…まあ気持ちはわかりますが。でも聞かないと。クラウちゃん、銃を流してる人に心当たりは?それともう一つ…」
ミリーは背中から本を取り出した。
ヴィクトリアから一時的に借りた、あの本である。
「…これは?」
「ヴィクトリア様からお借りしたの。べズビル山で見つかった物だって」
「見せてもらっても?」
そう言いながらミリーから本を受け取るクラウ。
ぱらぱらと頁をめくっていくと、彼女の表情が一変した。
「これを何処で!?他にもあるんですか!?」
彼女はミリーに詰め寄り、胸元を掴んで問い詰めてきた。
「お、落ち着いて!正確な場所は私も知らないの!」
「まずい…非常にまずいです」
「おいクラウ、一体何なんだその本は?」
「説明は後です!ヴィクトリア様に連絡をしないと…お二人は付いてきてください!」
そう言って工場の方へと走っていくクラウ。
状況が全く呑み込めない二人だったが互いに顔を見合わせると、クラウの背中を追いかけた。
「ヴィクトリア様に繋いでください!マグワイヤ少将です!」
先ほどまでいた部屋まで来るとクラウは部屋の壁に取り付けられている箱のような物をいじり、隣に紐と一緒に付いている筒にむかってがなり立てている。
「あれは何だ?」
「電話ですね。最新型の。遠くの人に言葉を伝える物です」
「ほう…」
興味深そうにみつめるキマイラ。
「…はい…はい、ですからあの本のありかを…分りました」
「しばらくはこれでも飲んで待ってますか。さっきの飲み残し…」
「これは何だ?泥水か?」
「さあ?」
クラウが話している間、二人は先ほど彼女に出してもらった飲み物に口をつける。
完全に冷え切っている上、苦くて二人とも顔をしかめた。
「…では、そのように。くれぐれも『アレ』は他の人間の目に触れないように……何ですって!?」
「一体何を話しているのか分からんな」
「そうですね…苦酸っぱい…」
電話と話をしているクラウがなにやら驚いた声を上げている。
二人には全く聞こえていないためのほほんとしているが…
「…私がそちらに向かうまで、誰にも触れさせないでください!では後程」
ようやくクラウは電話を終えると部屋の隅に掛けてあった深緑色の上着を羽織り、魔術で空間を歪ませた。
「行きましょう。キマイラさん、ミリーさん」
「説明しろクラウ。その本は何だ?」
クラウは暫く俯いて考えこんだあと、意をけっして口を開いた。
「『三号兵器』…この本はその種です」
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