第八十五話
「…なんの用だ?」
嫌そうな顔を全面にだしながら、キマイラが尋ねた。
「そんな顔をするなよ。私たちは戦友だろう?」
「お前に税金以外でも面倒事を押し付けられなければ少しはそう思えたかもしれんがな」
「代価は払ってるだろう?ああそうだお前、少し外してくれ。こいつらだけで話がしたい」
ヴィクトリアは護衛にそう言うと、不服そうにしつつも彼はその場を離れた。
「さてと、そら土産だ」
ヴィクトリアは懐から酒瓶を取り出すと、キマイラに投げつけた。
「トゥールス産の上物だ」
「そうか」
酒瓶の栓を素手で無理やり抜くと、杯に注がずそのまま煽った。
「キマイラさん、せめて座ってから」
「ああ」
飲みながらいつものようにロッキングチェアに座ると、机に足をかけて彼女の話を聞き始めた。
酒瓶の中身は琥珀色の酒、葡萄酒とは違った風味と強い酒精があった。
そして隣ではあまりの行儀の悪さにミリーが額を押さえて頭を痛めている。
「で?俺に酒を持ってくるために来たのか?」
「ああ用事な。頼み事…いや相談か?」
彼女は後ろに隠していた鞄を机に置くと、中に入れていたものを机に出した。
「なんだこれは?」
出されたのは一冊の本と木製の杖のような何かに鉄の筒が付いた物…
「まずはこれだ。『本』」
「見ればわかる。それがどうした?」
「これが見つかったのはニ週間前だ。とある集団がべズビル山に登った」
「べズビル山?」
「ウッディーネとサマラスの境にある山だ。帝国民には霊峰と呼ばれ頂上付近は常に雪で覆われ、危険な場所だ。これまで登頂した人間はいないとされていた」
「ほう?」
「で、その集団が頂上付近まで登った時にとあるものを見つけた。雪で隠された小さな人工の洞窟と、そこに保管されていた大量の本だ」
「これがその本の一部という訳か」
ヴィクトリアは黙って頷くと続けた。
「これまで登頂したことが無いとされていた危険な山に大量の本を抱えた状態で登って何日かかって作ったのか分からないがおまけに洞窟まで掘ってる。こんなことが出来るのは魔術師ぐらいだろう」
「…かもな」
「仮に魔術師が保管したものだとしたら絶対ただの本じゃない。これの正体を調べてほしい」
「…いいだろう。俺も多少は興味がある」
「で、次はこれだ。これに関しては絶対に引き受けてもらう。お前もある意味無関係じゃないからな」
「なんだと?」
彼女は本を仕舞うと、もう一つの物。
杖のような物を指さした。
「こっちは?」
「『七式長銃』というものだ。矢の代わりになる武器だ」
「こんな杖にしか見えない物がか?」
嘲るようにキマイラがそう言うとむっとしたような顔で彼女は銃を抱えた。
大きさは縦にすれば彼女の首に届くほどだろうか?それなりに大きい。
「なめるなよ?鎖帷子ぐらいなら余裕で貫ける。おまけに撃たれたら傷の手当ても矢で撃たれた時よりも面倒になる上致死率も高い」
「で、この武器がどうした?」
「この武器は旧式なんだがな。これの改良型、それが新大陸で流通している」
「情報漏れか?」
「ああ、その通りだ。何処かに密偵か…売買している人間がいる。お前はこいつを捕まえてほしい」
「そんな面倒なこと出来るか。おまけにその様子だと情報もろくに無いんだろう?断る」
「いいや受けてもらう。何がなんでもな」
「断る」
頑として譲らないキマイラに彼女はため息をついた後、静かに喋りだした。
「…この銃の正式名称だが…」
「何を言おうが俺は…」
「『マグワイヤ長銃七型』だ」
「……」
彼女の言葉に、キマイラは黙った。
「マグワイヤ…って」
「聞いたことがあるな?キマイラ」
「………」
「なんだ分からないのか?だったらもう一つ教えてやる。この銃を設計、製造しているのは『マグワイヤ造兵廠』と呼ばれる会社だ。でこの会社の代表の名前は、『クラウ・マグワイヤ』」
キマイラは酒瓶を机に置き、頭を抱えた。
「…引き受けてくれるな?」
「…分かった。だが一つ頼みがある」
「何だ?報酬なら無論くれてやるぞ?」
「いやそれとは別だ」
キマイラはこれまで見たことも無いほど爽やかな笑みを浮かべつつ…
「クラウの居場所を教えろ」
怒気を含んだ声でそう言った。




