死の生命 6
「どれだけの異形であろうとも、生きていることには変わらない! 突けば死ぬ! 斬れば止まる! 焼けば灰になる!! 敗北の可能性を考えるな。私達はこの厄災を断ち切るんだ!」
先陣を切って、正面から本能に任せて走るキメラ達へ突撃するエミル。
その無謀さすら見える勇敢な背中を眼にした団員は、地面を踏む足、武器を握る手に自然と力がこもり始めた。
「お前ら! 副団長がああ言ってるんだ。俺達も続くぞ!」
「私達の責務を果たす時だ! 全て斬り捨てろ!」
「おう! 我らの本分を示す時だ!!」
エミルの行動と共に叫んだ言葉が反響し、一人一人の意志を強く刺激し、戦意を高揚させる。
そして、待機していた団員達は、その副団長の期待に応えようと、街への危険を退けようと、それぞれの理由を持って門を離れ、無数に湧き出るキメラ達との総力戦を開始した。
剣技と技術、魔法を使えない種族がそれを使う為に作られた魔法具。異形には決して無い積み上げられ成熟した力を以て、有象無象の化物達を斬り、射抜き、潰し、燃やし、撃退していく。
その一方、姿形、強さに至るまで全てがバラバラであるB.O.A.H.E.S.から生まれたキメラ達も、ただ黙って殺され退けられるだけではない。
個体によっては火を噴き、甲羅の如く硬質な身体で攻撃を耐え、ヒグマのような腕力で薙ぎ倒し、馬にも勝る脚力で蹴り倒す。一体一体が新種の生物のような多様さに、真っ先に対峙したネフライト騎士団は細かな対策をリアルタイムで求められることとなった。
それから少しだけ遅れ、門の内側で最後の準備を整えていたラントとアリシアが、その渦中へ飛び込もうと全神経を研ぎ澄ませ集中する。
「アリシア、突っ込む前に少しだけ聞きてえ」
「なんだよ、怖気づいた言い訳か」
「なわけねえだろ。………いいや、忘れた」
「お前なぁ……まあいいか」
本当は何か聞こうとしたのだろうが、唐突など忘れで話題はとても短い時間で切り上げられた。
それがいい塩梅に働いたのか、防衛戦のような光景を前にガチガチに緊張することもなく、ちょうどいい具合に気持ちが解れる。
「「それじゃあ、いくぞォ!!」」
心構えは整った。二人は右足を一歩前に踏み出し、次々と戦いにやってくる人々を背に、抉れるような力強さで地面を蹴った。
土埃を上げながら鎌鼬のように突っ走り、二人は視線のずっと先で暴れる一体のキメラに目標を見定めた。
「ぐああっ!! なんだこいつ、刃が通らない!?」
「一旦下がれ! 今まともに相手すると危ないぞ!」
四人程の甲冑を身に纏った騎士が戦う、二つの頭部を持つケルベロスのような巨大なネズミ。腹部ではうねうねと、イソギンチャクのような口が蠢いている。
体表面が見えない変化を起こしているのか、携えた剣を突いて振り下ろしを繰り返すが、一向にその剣撃が通る気配は無く、堅いわけでもないのに血の一滴すら流れない。
巨大を活かして暴れる相手に手をこまねいている状態が続いては埒が明かない。四人は一旦距離を開けたその時、隙間をラントが風を巻き起こすように駆け抜けた。
「でぁりゃあああああ!!!」
その勢いを保ったまま飛蝗のように飛び上がり、全身を大きく捻って自らを奮い立たせる叫びを上げながら、握り拳を右側頭部の眉間へと叩き込んだ。
不安定な脳を揺らし、口を開けて涎を垂らしながらのけ反るネズミ。腹部の口を大きく晒された大きな隙を狙い、アリシアが矢尻が紅く輝く弓を放ち正確に射抜く。
一瞬の肉が焼けるような音と小さな煙。直後、巨大ネズミは全身を燃やしながら爆裂した。
「うっしゃ、まず一体!」
「わかりやすかっただけなんだから、油断すんなよ」
「当たり前だろ」
最初に上げた成果など目もくれず、二人は次の目標を倒す為に再度走り出した。
「おい、今のってまさか、エヴァンさんの……」
「いや、今はそれを気にしてる暇はない。次の敵を倒すぞ!」
どこかで見たような顔だと、甲冑の一人の思考が巡ったが、命の危機が差し迫っている乱戦時にそんなことを気にしている暇はないと仲間が注意し、四人は改めて戦いの中へと戻っていった。
「おりゃあ! またまだぁ! この程度なのかよ!」
相手の生死も考える必要もなく、全力で自分の力を震えるということもあって、これまでずっと鍛え続けてきた身体能力と自慢の土魔法を豪快に奮って異形のキメラ達を薙ぎ払い吹き飛ばしていくラント。
「これ、埒が明かないんじゃないの」
その側で、無数の翼を持ったキメラや素早くちょこまかと動くような目障りなタイプの敵を中心に撃ち抜き、火球や反応式の火槍トラップのような直接的な物からトリッキーな物まで、今までに学んだ様々な炎魔法と磨いた弓術を駆使して確実に数を減らしていくアリシア。
さらにはエルフやドワーフ、獣人や人間、冒険者、無数の精鋭がこの撃退戦へと加わっていき、次々と屍が増えていく。
状況こそアルフヘイム側が優勢で進み、徐々に押していっているが、キメラや異形の数も留まることを知らず、休憩の間すら与えられることはなかった。
「多すぎんだろいくらなんでも! 卵でも産んでんのか!?」
その実力からとてもスムーズに蹴散らし続けているラントでも、思わず愚痴が溢れてしまうほどの数。
拳と魔法で何度も何体も撃退し続けていたその時、ラントの全身に見えない刃がいくつも突き刺さるような気配が襲いかかった。
「――――!? なんだ今の……!!」
それを感じ取った方向、オルデア山の山頂方面へと視線を移動させる。
同じような気配を他にも感じ取った者がいるのか、アリシアも含めて複数の者が一斉にその視線を移動させ、無数の視線が一挙に山頂方面へと集中した。
「アリシアも何か感じたのか」
「ああ…………たぶん、何かとんでもないのが来る。全身がピリピリするような、たぶん、悪魔みたいなのが」
そして、その気配の禍々しい正体が姿を現した。




