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龍王の娘  作者: 瑞佳
第五章 皇女を廻る恋
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レイカとテジャ





現在の後宮の主は本来龍王の伴侶であるアオイだが、一月程後宮に暮らしたが肌に合わなかったようで龍王に頼み込み元の結界の家で暮らし始めてしまう始末で


本来、王妃としての務めを果たさなければならないが、龍王も皇女レイカもアオイに大甘な人間でアオイ至上主義者


アオイの代わりに後宮の主に皇女レイカを据える。 


何しろ、後宮自体も本来の機能は無く側室など置かれる予定もないので大丈夫だが、王妃としての公式の場には出なければならないのだが、大勢の龍族や人間の前で卒倒しそうになるアオイ……過保護な龍王は王妃としての公式の場を免除してしまい体外的に拙いので、それらを全てレイカが代行している。


初めの頃は龍族達の王妃の国政に対する放棄だと攻める声が立ち上がるが


四神国随一の美女と誉れ高いレイカが、度々王妃代行として現れると徐々にそんな不満な声も消えて行ってしまた。


だが、アオイの方と言えば、これではいけない思いがあり


少しづつ王妃としての仕事をしようと努力しようとするが、過保護な龍王親子に阻まれてしまい、それが当り前になってしまうのだった。


アオイが隠遁の王妃になってしまったのは本人だけが悪いのではないと言う事


そしてレイカは後宮で皇女として優雅に過ごすが、日に一度はアオイの元を訪れたり、アオイが後宮に遊びに来たりと自由に過ごしていた。







春の園遊会が行われる事になり後宮も慌ただしい、王妃アオイと皇女レイカの衣装の用意に余念がない。三人の侍女達はこの時とばかりに張り切り連日商人を呼び寄せて衣装と宝石を物色するのだった。


レイカはあまり着飾る事に興味も無く、幼い頃より侍女達に着せ替え人形のようにされていたので、全て任せていた。


しかし母親の衣装となると話が違って来る。侍女達と嬉々として衣装選びに参加し、龍王に一切口出しをさせないまま取り決めたので、暫らく不機嫌な龍王の相手をする羽目になる側近達。 度々訪れる父王の執務室でそれを見て、少し気の毒だったかしら?と笑顔で側近達を労るのだった。


そんな中にユンロンは含まれていない


何故か頻繁に王の執務室を訪れるがユンロンはまるで避けるかのように現れず、会えるのは龍王と共に出席する公式の場で挨拶程度


以前は月に数度、帝王学の教えを乞うていたが、皇女として公式に認められてからは、代わりの人間が教育係として付けられてしまい、更に会う機会が減ってしまったのだ。



明らかに避けられてしまっていると感じ、自分からなど会いに行けないレイカ


そこで目を付けたのがテジャだった。


ユンロンの補佐官を務め、羨ましい事に毎日顔を合わせているのだ。


なので頻繁にテジャを呼び止めユンロンの事を聞きだしていたのだが、どうやら噂になり初めたせいで、テジャに迷惑を掛けてしまったようで怒られる。


それからはこうやってテジャの非番の日の夜にコッソリ訪れているのだが


独身男性の部屋を女の身で訪れるのは、はしたないと言う意識はあるが愛おしい人の様子を少しでも知りたいので来てしまう。


それにテジャは私を女として見ない稀有な存在


下手をすると皇女としても敬っていない気がする……


「皇女の私を怒るなんてテジャぐらいね。でもそんな人も必要なんだけど」


テジャは友人としてズッと側に居て欲しい存在


だけど人間なので長生きしたとしても、後せいぜい三十年の命しかないのだ


誰か龍族の姫と婚姻を結んで欲しいと思うが無理だろう


龍族の姫が態々命を削って人間と添うなど殆ど無いらしいけど、遥か過去に龍族の姫が人間の男と恋に落ちたが親族に猛反対され禁を犯し玄武国に逃げ込み、慈悲深い亀王が憐れに思い婚姻を結び末長く幸せに暮らしたと言う話をファン様から教えてもらった。それくらい、貴重な龍族の姫と人間の婚姻は困難な事らしい


反対にその逆は数百年に一度の割合であるらしく、近年ではサンおじ様のお兄様のトゥロン夫妻。奥方のランさんは私と同じ黒髪で人間では有り得ないほど絶世の美女。私もつい見惚れる程で、どうやらランさんの御先祖様に異界から落ちて来た黒髪と黒い瞳の少女が御先祖様のせい


母様より以前に異世界トリップして来た人間がいたなんて驚いてしまった。


その事を母様に話すと


「ランさんなら結婚式をファン様に見せて頂いたから顔を知っているよ。とっても綺麗な女性で驚いちゃったけど…… まさか日本人の血まで引いていたなんて……」


何故か悲しそうな顔をする??


「どうしたの母様?」


「ランさんを一目見て思ったんだ…… きっとレイの伴侶は私でなく、この人がなるはずだったんじゃないかって。 その話を聞いたら尚更…何故かそう思ってしまったんだ」


「でも現実は王妃は母様なんだから、気にする必要なんてないよ」


「そうだね…」


母様がこの世界に落ちて来てしまい、手違いで龍王の伴侶になってしまったが為、非道な父様にここに閉じ込められたのだと、誰も教えてくれないがなんとなく感じていた。


何故そんな事になったのか不思議な話


「そう言えば母様どうやってこの世界に来ちゃったの? 大沢のおじい様に海に落ちたのは聞いてたんだけど」


「私も不思議だったんだけど、海に落ちた後に必死に掴んだのがこの契約の指環で、気が付いたらこの国の海辺の村に打ち上げられたのを助けてもらたんだ」


「何それ?? それじゃあ契約の指環が太平洋の海を漂っていたの??」


契約の指環はあの忌々しい天帝が王位に就いた時に渡される大事な神器が異界の海にあるなどあり得ない話


「レイにも一度聞いたんだけど…分からないって言われて、それっきりかな」


どうやら父様に誤魔化されてしまったようだが絶対に疾しい秘密の匂いがするのだが、知らない方がいいような気がした。


過去の父の悪行など知らない方が精神衛生上良いのに間違いない


母様さえ父様との過去に口を噤んでいるのだから


これ以上知れば親子関係修復に破綻を期すような気がする。


絶対そうだと確信するので追及は止めておく


母様もどうでもいいようだし


現在は新婚のようにラブラブなのだから、羨ましい限り


私も何時かユンロン様となりたいけど


避けられている現在では、無理かもしれないと挫けそう







そして今夜もテジャの部屋を訪れ愚痴をこぼす。


「今度の園遊会でユンロン様は私を見てくれるかしら」


「さあな。俺はお前の所為で龍族のボンボン達に睨まれ命が幾らあっても足りん。当日は俺に一歩も近ずくなよ」


殺意の籠った目で睨まれ、釘を刺されてしまう


「分かってるわよ…… でも、ユンロン様に近ずく良い機会だけど、他の人達が寄って来るかと思うと気が重いは…」


この園遊会が私の婚約者候補を集めたものだと直ぐにピンときた。


ユンロン様以外に考えられないけど、もしかしたら男達に囲まれ少しは私を気にしてくれていないか反応を知りたかった。


だからこんなバカらしい宴に出る気にもなったのが本音


「そう言えば知ってるか?」


テジャが意地悪そうに見て来る。


「何を?」


「今度の宴には多くの龍族の姫も呼ばれているだろう」


「それがどうしたの」


「噂じゃ陛下が中々婚姻をなされないので焦れてユンロン様の見合い目的もあるらしいぞ」


「え…… そんな事……聞いて無い……」


ユンロン様がお見合い


自分の事ばかり考えていて、他の可能性なんて考えてもいなかった


龍族の姫なら美しいに決まっている


もしユンロン様が何処かの龍族の姫を見染めたら


「そんなの…嫌…… うっう……うぇーん……」


そう考えただけで胸が潰れそうに苦しくなり、涙が零れてしまう


それを見た途端


原因を作った本人がうろたえ始め慰めるように言う。


「うっ…  泣くなこのバカ。 噂だから鵜呑みにするなよ はぁ…」


困ったように溜息をつくテジャ


まさか私が泣くとは思ってもみなかったのだろう


恋する乙女は不安定なんだから取扱いに注意して欲しい


「噂でも 沢山の姫がいれば一人ぐらいユンロン様の目に留まるかもしれない… ひぃっく… 」


ネガティブな考えばかりが浮かぶのだ


「お前以上の綺麗な女は俺は知らんぞ」


珍しく私を誉めるテジャだが、何の慰めにもならない。


「うっう……ユンロン様の好みでなかったら意味無いじゃない」


ユンロン様の好みは母様


似ているのはこの黒い髪だけで、他は全く似ていない


振り向いて貰えるなら母様の姿のままでいたかったと今は後悔する始末


有り得ない……


「一層の事、ユンロン様に胸の内を告白してしまえばどうだ。 案外上手く行くかもしれんぞ?」


私から告白しろと、とんでもない事を言いだすデリカシーに欠ける男


そんなの絶対の無理


「そんな事出来ないよ… 私は皇女だし… 次期龍王だし… 誰も断れないじゃない…」

私から求婚すれば丞相の地位にあっても断るのは難しい


「チッ 面倒な二人だな」


「二人??」


何故二人なの?


「そんなガキくさい感情は捨ててしまえ。 本当にその男が欲しいなら奪ってでも手に入れればいいだろ…むざむざ他の女に奪われ後悔するよりましだ」


「私は嫌… そんな愛なんかいらない。 そんな事を言うテジャは、本気に恋なんてした事あるの」


「俺が…恋… 確かに無いな。 そんな感情が入り込まない程に俺の心は、憎悪しか満たされていない」


ゾッとする程の冷たい笑みを浮かべるテジャ


未だに魯州の龍族を恨んでいるようで、その執念深さが少し怖い


「そう言えば…今日父様に招待客の名簿を見せて貰ったんだけど魯州のメイファンロンと言う青年の絵姿を見せて貰ったんだけど瞳の色が金色だった」


小さい頃テジャが憎んでいると言っていた龍族の少年の瞳が金色だと言っていたのを思い出した。


あの時、龍族で金の瞳を持つのは龍王とその少年だと言っていたテジャ


二人共その頃は本当に龍王が私の父親だなんて思いもよらなかった


「奴が園遊会に来るのか!!」


私の肩をガッシリと掴み真剣な目で確認をとる。


「うん… 多分私の婚約者の有力候補者みたい」


沢山ある中で三人の絵姿を見せられたのでその意図がありありと分かってしまうが、父様は集団見合いを隠している心算らしい


とても賢王と誉れ高い男とは思えない


こういう面に鈍く常人とは違うのだと納得するしかないのだが


「そうか… メイファンロンが… 」


ニヤリと悪人のように笑うテジャ


「何を考えてるの…」


「勿論、復讐だ」


「でも、結構昔の話だし復讐なんて後味が悪いから勧めないよ」


私も感情の赴くまま父様を封じた


だけど…それは、とても大きな悲しみしか生まなかった…


あんな思いは二度と味わいたく無い


「俺はこの時の為だけに生きて来た! 父を無実の罪で殺され、母はあのゴミのよな貧民街で辛酸を舐め、生きる為にその身を卑しい男達に体を売ってまで俺を食わしてくれたんだ! そしてボロボロな体で死んでいった…そして死に間際に漸く父の所に行けると微笑んで死んでいったよ…」


まるで私がその憎むべき龍族のよう睨みつけられて言葉をぶつけられてしまう


テジャの母親がそこまでしていたなんて知らなかった


貧民街では身を売るなど当り前な場所だが、州の高官の妻で何不自由なく優雅な暮らしをしていた女性には身を切り裂く様な事だったろう


テジャもそれまでは人間では上流階級に属する人間


信じていた存在から見捨てられ、底辺まで堕とされたのだからこそ、憎しみが大きいのかもしれない


だけど、テジャの憎しみは尋常ではないような気がした


「テジャ、まさか殺す心算なの…」


人間が龍族を殺せば唯では済まない


「殺す? 殺すなんて生ぬるい…それよりも酷い恥辱にまみれて地獄に突き落してやるさ……」


その目は狂気に満ちて私が知るテジャでは無かった。


本気だ


テジャは人間だが頭はすこぶる良い、何かとんでもない事をしそうで恐ろしい



「そんな事してもテジャの御両親は喜ばないよ」


私は必死に止めようとするが、冷笑し歯牙にもかけない


「レイカ、お前のような甘い考えなど俺には通じない。貧民街で俺が何をして生きて来たのか知らないだろ? 本当の俺は、学問所が開かれる前は盗みもしたし、男に体も売った。それに人殺しだってして来たんだ。たった十一歳のガキだった俺はそこまで身を堕としていた…俺がそこまでして生き這い上がって来たのは何時か復讐をする為! それが俺の生きる目的、生きる理由だ」


「テジャ」


衝撃的な告白に血の気が引く


貧民街の子供達の劣悪な環境は知っていたのに


一番の友達だったチュウリンちゃんも小さいのに、親に人買いに売られていなくなっっても、他の子は気にも留めない


子供達も生きるのに必死だった


それでもサンおじ様はマシになったのだと教えてくれたのに


やっぱり私には、今だにあの場所の過酷さを知らない甘ちゃんなのだ思い知る。


その頃から私は何も出来ない自分が悔しく涙が出てくる。


「レイカ、お前は俺に借りがあるはずだ… 協力して貰うぞ」


泣く私に、先程とは違い冷たい目を向けるテジャ


「嫌よ」


涙を流しながら睨み拒否する。


「なら、園遊会で奴の首を取らして貰うぞ」


「駄目!」


そんな事出来るはずがない。


沢山の警備がなされる中で人間のテジャがメイファンロンの首を取るなど難しい


しかも高い神力を持つメイファンロンがムザムザ首を討ち取られるっ訳が無く、テジャの無駄死にしかならない


テジャを死なすなど出来ない


数少ない心を許せる友人なのだ


「俺は殺したい訳ではない、苦しめたいだけだ。 俺に無茶をさせたくないなら協力しろ」


自分の命を盾にするの!


「テジャは卑怯よ」


「当り前だ。この身は既に汚れきっているんだ」


自虐的に口を歪める…だけどその姿は痛々しく映ってしまう


「分かったは…… でもテジャに殺しだけはさせない」


「有難う……レイカ」


そう言って私を初めて抱き締めてくる。


それは心が冷え冷えとする冷たいもの


初めて感謝されるが、こんな形の物など望まなかった。


テジャの心には復讐しかない


それを止める事が出来ないならば


なるべくテジャを傷つけたくない想いが強くなる。


「私は何をすればいいの…」


「今夜からじっくり考える……十日後また来てくれ」


「うん… それじゃあ私はもう帰るね」


「そうだな… レイカ、これだけは覚えておいてくれ。これは俺の最期の願いだ……俺を裏切るな」


「私を見くびらないで。 友を決して裏切らない」


「それでこそレイカだ」


そう言って一見信用しているように見えるテジャ


でもその瞳は冷たい


きっと心の底では信用されていないのかも知れない


所詮テジャにとって私は龍族なのだ



迂闊だった


メイファンロンの事を教えなければ、何時ものようにテジャにサッサと帰れと追い出されて渋々帰るのに


今日だけは逃げるようにテジャの部屋から瞑道を潜る。


そして何とかテジャが復讐を思い留まる手立てがないか考えなければ


誰にもこんな事は相談出来ない


母様にも、ファン様にも、父様にも


そしてユンロン様にも


自ら開いてしまったテジャの狂気を何とか止めたいと思うのだった。







ランのご先祖様の異世界トリップしてきた少女の話、青龍国物語 「龍神の少女は恋い慕う」 http://ncode.syosetu.com/n9917bb/があります。興味があるお方はご一読下さい。これから登場するシャオチンロンにも関係あります。

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