第15話 理を求める夜の歩み
月が雲間に隠れる。闇が深まる。
進の目は前を見据えた。微動しない。
「理を」
男谷精一郎の言葉が蘇る。型の先にある理。
彼は左腕を振る。風を切る音がする。
家の影が見える。窓に灯りはない。
進の歩幅は変わらない。確信が歩調を決める。 左腕の熱が布団の中でも消えない。種次は天井を見つめた。
「明日からだ」
窓の外で虫の音が切れる。夜の静寂が部屋を包む。
拳を握りしめる。皮のひび割れが布に触れる。
左腕の筋が微かに脈打つ。気の塊が抜けた跡が疼く。
堀田新之助の顔が瞼の裏に浮かぶ。認証という二文字が頭を巡る。
彼は布団の端を拳で叩いた。固い畳の感触が伝わる。
明日の朝、石臼場で披露する突きを脳裏で再現する。
左腕が反応する。肩甲骨が布団に沈む。
男谷精一郎という名が胸の奥で響く。
種次は左腕を挙げた。闇の中でその輪郭を確認する。
十年分の石の痕跡が掌に刻まれている。
布団の中で体を翻す。次の鍛錬計画が頭を駆け巡る。
吊るす石の重さ。突きの角度。呼吸の間合い。
全てが左腕の感覚で組み立てられる。
月が窓から差し込む。左腕の影が壁に揺れる。
種次は目を閉じた。微かな笑みが口元に浮かぶ。
明日は新しい始まりだ。十年の閉塞が今夜終わる。
長身が布団の中で伸びる。骨が鳴る。
左腕だけが熱を持ったまま、眠りに落ちていく。
彼の呼吸が深くなる。夢に剣聖が立つ。 土間の闇が全てを飲み込む。進は布団の中で微動だにしなかった。
「俺の左だ」
拳を開く。掌から熱が消えることはない。
左腕の筋が低く唸る。気の塊が抜けた跡が脈打つ。
男谷精一郎の言葉はもう、脅威ではなかった。
長身が布団に沈む。骨の軋みが響く。
彼は左腕だけを布団の外に出した。夜気が熱を冷ます。
呼吸が深くなる。肋骨が膨らむ。
十年分の石の痕跡が、掌の皮膚に眠っている。
瞼の裏に、吊るされた石が揺れる。
左腕が反応する。肩甲骨が畳を押す。
明日、堀田の前で突け。
認められれば、道は開ける。
「行く」
言葉は吐息となって消えた。
進は目を閉じた。微かな笑みが残る。
左腕の熱が、ゆっくりと体内へ溶けていく。
筋肉の緊張が解ける。腱が伸びる。
深い闇が訪れる。夢もない。
ただ、確信だけが胸の奥で輝く。
武器としての己の身体が、深い眠りへと沈んでいく。
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