蛮邪
吹雪が荒れるように舞い散る。
まさかこれほどだとは思っていなかった。
幻の六角竜だなんて、簡単に捕まると思っていた。報酬が高額なのは、ここまで来るのが大変だから。個体数もかなり少ないらしいし、あまり怯える必要はない。そんな風に、自分を勝手に納得させていた。
そして、それが大きな間違いだということは、船を降りた時にようやく理解した。
だが、もう引き返せない。
目が凍りそうな程、指が動かなくなるほど、呼吸すら辛くなるほど。ただ、寒く、寒く、寒い。
俺の生まれ育った村も冬は雪が降っていた。それなのに、同じ雪だとは信じられない程冷たく、触れるだけで体温が奪われる。
想像以上に過酷な環境だった。こんな場所に生命なんて存在するのか疑わしいほどに。
吹雪が収まった頃には、どこに居るのか分からなくなっていた。雪に埋もれたのか、足跡は消えていた。これでは引き返すこともできない。
おぼろげで信憑性の無い記憶を頼りとして、雪原を進む。
不気味な程に生物の気配を感じない。見つけたのは幹のように太く丸い足跡だけだ。
少し経った頃だろうか。近くにあった岩場から血の匂いがした。岩場の上に目をやると、白い尾が見えた。歪なトゲが乱立した、異様に長く不気味な白い尾。
奴が全身を露わにするとすぐに魔獣だと分かった。ずんぐりとした大きな体は家のように大きく、一本の毛も生えていないのだ。
六角竜とは格が違う。魔獣に遭遇するなんて思ってもいなかった。
恐怖心で、とにかくその場を後にした。
逃げられるだけ逃げようとした。
そうすれば、案外なんとかなるだろうと。そう思っていた。
自分の腕が千切れたことに気づいたのは、奴の舌が自分より前に出た時だろうか。
凍てつく大気によって、熱くも思える激痛は、感覚と共に徐々に消えていった。
その後、奇跡的に生き延びたものの、俺は腕を失った。
あの頃は奴を恨んでいたが、今となってはどうでもいい。なんせ、ここ数年でようやく気づいたんだ。
人間はただ狡猾なだけの小動物に過ぎないってな。
魔獣...地上の生物とは異なる起源を持つ生物群の総称。魔界で進化した系統であり、強い魔力への依存が特徴。地表に現れる魔獣は、ごく一部である。




