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【全62話完結済み】幼なじみと異世界転移したら俺だけ禁忌の闇属性だった——だけど、この力の代償を俺はまだ知らない  作者: 夕凪航


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王女の行方

 急報は、夜明け前に届いた。

「近衛騎士リーシャ——行方不明」

 伝令の声が、テントの中に響いた。

 体が動いていた。考えるより先に。ベッドから飛び起き、影喰みの剣を影から引き抜いていた。

「行く」

「待て」

 ユウスケの手が肩を掴んだ。強い手。

「一人で行くな。情報がない。罠かもしれない」

「待てない。リーシャが——」

「だから待てと言ってる。ガレスと同じになるぞ」

 その言葉で——足が止まった。

 師匠は単独で動いた。城に乗り込んだ。そして消えた。

 同じ失敗は——できない。

「……リクト」

「分かっています」リクトが既に水晶盤を起動していた。シェルの甲羅が高速で明滅する。「リーシャさんの最後の位置情報を追跡します。近衛騎士団の通信記録から——」

 三分。

「見つけました。王都。王城の地下区画。ナンバーズ製造施設の隣接区域です」

 ——地下。あの、学園の地下で見た施設と同じ場所。

「ワタル」ユウスケが言った。「俺たちも行く」

「いや。全員で動いたら脱走だ。軍法会議になる」

「お前一人でも同じだろ」

「一人なら——闇で忍べる。見つからなければ、行っていないのと同じだ」

 ユウスケが俺を見た。数秒。それから——拳を差し出した。

「帰ってこい」

 拳を合わせた。

「ああ」


    ◇


 王都。夜。

 闇の鎧を薄く纏い、影に紛れて走る。影の支配。自分の存在を影に溶かす応用。完全に消えるわけじゃないが、暗がりにいる限り、気配がほぼ消える。

 ノクスが先行して偵察する。闇属性同士の共鳴で、視界を共有できる。ノクスの赤い目が闇の中を見通す。

 王城。裏口。衛兵の交代時間。リーシャと忍び込んだ夜の記憶が——今、役に立つ。

 地下への階段を降りる。空気が変わる。魔素が濃い。頭が痛い。

 廊下。金属の扉が並んでいる。ナンバーズ製造施設。あの学園で見た地下と同じ構造。同じ冷たさ。同じ——虚ろな目の人間たちが、硝子の向こうに横たわっている。

 ノクスが「クゥ」と低く鳴いた。右の通路の奥。

 走った。


 部屋があった。鍵がかかっている。影喰みの剣で斬った。錠が落ちる。

 中に——リーシャがいた。

 椅子に拘束されている。手首と足首に魔素の枷。意識はある。だがナンバーズ化の準備段階——体に魔素管が繋がれていた。まだ注入は始まっていない。間に合った。

「リーシャ!」

 リーシャが顔を上げた。目が大きくなった。

「ワタル……なぜ——」

 枷を闇の剣で斬る。魔素管を引き抜く。リーシャの体を支える。

「ちょっと眠れなくて散歩してたら、偶然」

「……嘘つき」

 リーシャの目が——潤んだ。

「こんなところまで散歩する馬鹿がどこにいるのよ」

「ここにいる」

 リーシャが——笑った。涙を流しながら。泣きながら笑う顔を、初めて見た。

「……ほんとに、馬鹿」

 目を拭った。一度だけ。それで終わり。次の瞬間にはもう、リーシャの目が戻っていた。戦う目。

 暁光剣がベッドの脇に置かれていた。リーシャが握る。白い光が刀身に走った。

「帰るぞ」

「言われなくても」


    ◇


 脱出経路。来た道を戻る。リーシャが先を知っている。「こっちよ。衛兵が少ない通路」。

 走る。廊下を曲がる。階段を上がる。

 ——声が聞こえた。

 立ち止まった。

 国王の書斎。扉が半開きだった。中から光が漏れている。

 見るな。今は逃げろ。頭ではそう思った。

 でも——足が止まった。

 扉の隙間から、中が見えた。


 国王が立っていた。背を向けている。机の上に魔素通信装置がある。空中に光の像が浮かんでいた。

 人影。通信相手。フードを被った人物。声が聞こえる。

「大儀式の準備は順調だ」

 国王の声。

「予定通り進めろ」

 通信相手の声。低い。冷たい。

「ナンバーズの増産は計画通り。闇属性の転移者は前線にいる。必要になれば回収する」

 ——俺のことだ。

「転移者の闇は、大儀式の触媒に最適だ。あの力は——木から生まれた力だからな」

 木。

 丘の上の——木。

「世界を維持するためだ。犠牲は必要だ。エレアの時と同じように」

 エレア。ガレス師匠の仲間。「必要な犠牲」と呼ばれた女性。

 通信相手がフードを少しずらした。その顔が——

 

 魔王アザレア。


 国王と——魔王が、手を組んでいた。


 リーシャが俺の腕を引いた。「行くわよ! 今は——」

 走った。全力で。

 城を抜けた。夜風が頬を打つ。心臓が破裂しそうだ。

 リーシャが隣で走っている。暁光剣を握りしめている。

「聞いたわね」

「ああ」

「父上が——魔王と」

 リーシャの声が震えていた。怒りと悲しみが混じっている。

 学園時代に書斎に忍び込んだ時、リーシャは「父上が怖い」と言った。前線にいた時の手紙に「父上の様子がおかしい」と書いた。

 ——その答えが、これだ。

 父親が、魔王と手を組んで、戦争を管理して、人を犠牲にしていた。

 リーシャの父が。この国の王が。


 王都を離れた。月明かりの道。二人で走る。ノクスが上空を飛んで警戒している。

「ワタル」

「ん」

「……ありがとう」

 小さな声。あの月明かりの廊下と同じ声。あの時と同じ——プライドが邪魔して素直に言えない声。

「聞こえない」

「……二度は言わないわよ」

 同じやり取り。あの時と同じ。でも——二人とも、あの頃より強くなった。


 前線に戻った。仲間が待っていた。

 全てを話した。国王とアザレアの共謀。管理された戦争の真実。ナンバーズの目的。俺の闇が「大儀式の触媒」として狙われていること。

 テントの中が静まり返った。

 フタバが泣いていた。声を殺して。ハルカがフタバの肩を抱いていた。リクトが眼鏡を外して目を押さえていた。ユウスケの拳が白かった。

 リーシャが——俯いていた。

「父上が……こんなことを」

 誰も責めなかった。リーシャの父が黒幕だと分かっても、誰もリーシャを責めなかった。

 フタバがリーシャの手を握った。「リーシャのせいじゃないよ」

 リーシャの肩が震えた。声を出さずに。


 ——この戦争は、全部嘘だったのか。

 守るべき国が。信じるべき王が。戦う理由だと思っていた全てが。

 足元から——崩れていく。

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