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第19話:続・生徒会と「止揚」―力と対話の調和―

生徒会室の窓から月明かりが差し込み、テーブルの資料を青白く照らしていた。ジーナがペンを走らせる音だけが静かに響く。


銀灰色のショートカットがランプの光を受けて輝き、細い指先が紙の上を慎重に動いていく。時々顔を上げて天井を見つめ、考えをまとめているようだった。


エマは銀色の髪を耳にかけ、メモを取りながらジーナの様子を見守っている。ミルは前のめりに座り、栗色の髪を後ろに流しながら数字を書き込んでいた。ルーシーは背筋を伸ばし、集中してジーナの筆記を見つめている。


ついにジーナがペンを置いた。その音を合図に、全員の視線が彼女に集まった。


「マキャベリアに対して、強い姿勢を示しながらも対話の道を探る。『拒絶も譲歩もしない』新しい道を切り開く。これが私たちの基本方針だった」


ジーナは立ち上がり、一人一人に視線を配った。


「その方針のもとで、最も有力な逆提案は、ローレンティアの共同開発だ」


地図を指さし、ローレンティアの位置を示す。


「ローレンティア鉱山を四カ国の共同管理下に置く。ただし、所有権はフィロソフィアのまま。各国の人口に合わせて鉄鉱石を割り当て、価格にも上限を定める協定を結ぶ」


青緑色の瞳が鋭く光った。


「こうすれば、マキャベリアは私たちが鉄鉱石を独占するという疑念を払えるだろう」


エマが最初に口を開いた。


「素晴らしい案です!単なる譲歩でも拒絶でもない。両方の考えを高めた新しい選択肢ですね」


ミルも立ち上がり、計算用紙を掲げた。


「数字からも理にかなっています。マキャベリアにとっても、戦争の費用を考えれば共同開発の方が得になるはず」


ルーシーが黒髪を耳にかけながら言った。


「言葉の使い方も明確です。具体的な条件を示すことで、誤解の余地がありません」


みんながジーナの案に感心する中、彼女は少し厳しい表情を見せた。


「ただ、大きな問題が一つある」


部屋の空気が再び緊張した。


「この提案は、マキャベリアが『交渉』というゲームを選ぶことが前提です」


ルーシーが冷静に指摘した。


「その通りだ」


ジーナは窓際に立った。月の光が部屋を銀色に照らしている。


「共同開発はマキャベリアにも利益をもたらす。だが、彼らには力による併合という選択肢も残されている。どうすれば、力で奪うことが割に合わないと納得させられるだろうか」


みんなが黙り込む中、エマが立ち上がった。


「逆に、共同開発の魅力を高めてはどうでしょう?高品質な鉄鋼の作り方を教えるとか」


ミルが即座に反応した。


「それは危険です。マキャベリアの武器作りを助けることになりかねません」


ジーナがうなずいた。


「マキャベリアは昔から力を尊び、弱さを軽蔑する文化を持つ。だから私たちも何らかの力を見せる必要がある」


ミルがノートに数字を書きながら言った。


「兵力で比べると私たちは1対2から3の不利です。どう考えても劣勢です」


重苦しい空気の中、テルが思い切って口を開いた。


「実際に強い必要はないんじゃないか?相手が俺たちを強いと思い込んでくれればいいんだ」


全員の視線が集まった。その注目に少し緊張しながらも、テルは続けた。


「俺を使ってほしい」


腰の剣に手を当てながら言葉を続ける。


「この前見たと思うけど、俺は『雷の剣』が使える。これがフィロソフィアの一般的な技術だと思わせればいい」


エマがうなずいた。


「確かに!ロゴス王の軽量大砲の前例があるから、『雷の剣』がフィロソフィアの最新技術だと言えば説得力があります」


ジーナは一瞬目を閉じて考え込み、やがて新たな閃きを宿した瞳を開いた。


「では、こういうのはどうだろう。合同訓練という名目で、マキャベリアから精鋭兵士を招く。練習試合で『雷の剣』を見せ、その威力を実感させる。帰国した兵士たちが噂を広げてくれるだろう」


部屋の空気が一変した。


「これなら直接的な脅しではなく、親善行事として実施できます」


エマが安堵の声を上げた。


「少ない費用で最大の効果が得られます。数字で見ても最高の選択肢です」


ミルが自信を持って言った。


全員がうなずく様子を見て、ジーナは満足げに立ち上がった。


「では、これを最終案として提案書にまとめよう」


ルーシーが立ち上がり、優雅に一礼した。


「私が提案内容を、正確な言葉で文書にします」


テルは腰のエミールの剣に手を当てた。この剣が戦争を防ぐために役立つことになればいい。


エマがテルに近づき、小さな声で言った。


「『雷の剣』、すごくかっこいいと思います」


青い瞳が優しく輝き、銀色の髪が肩に流れる。


「本当に?なんか恥ずかしいんだけど...」


「エレキテル」のことを思えば、どうしても素直には喜べなかった。


「恥ずかしがることはありません。あなたの力が、戦争を防げるかもしれないのですから」


挿絵(By みてみん)


エマの言葉に、不思議と勇気が湧いてきた。彼女の微笑みには、理性の国の少女らしい知性と温かな励ましが込められていた。


窓から見える夜空に星々が瞬く中、テルたちは新たな挑戦への一歩を踏み出していた。『雷の剣』でもし戦争を防げるなら、テルは喜んでその役割を引き受けよう。


ジーナの言う「止揚」――対立を超えた高次の解決策。彼らはそれを目指して、この危機に立ち向かおうとしていた。


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