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第20話:テルと『名前』──女王の前で堂々と名乗る方法──

生徒会の計画案が完成したのは夜明け前だった。みんな疲れ切っていたが、顔は晴れやかだった。


気がつくと、テルは生徒会室の机に突っ伏して眠ってしまっていた。ジーナの声で目が覚める。もう正午を過ぎていて、日差しが眩しかった。


「テル、大ジャンヌが私とテルを連れて、女王陛下に会いに行くって言ってるんだ」


ジーナの銀色の髪が日光でキラキラと光っていた。いつもは冷静な彼女の青緑色の瞳に、少し緊張の色が見えた。テルの肩には、いつの間にかシルクの肩掛けがかけられていた。ラベンダーの香りがして、エマのものだとすぐに分かった。


顔を洗って意識をはっきりさせた後、三人は馬車で王宮へと向かった。緊張で背筋がピンと伸びる。


挿絵(By みてみん)


「女王陛下ってどんな人なんですか?」


テルが思い切って聞くと、大ジャンヌは窓の外を見ながら穏やかに笑った。


「テオリアはいい奴だよ」


親しげな言い方に、ジーナが少し驚いた顔をした。


「あ、ジーナには話してなかったな。私とテオリアは幼なじみなんだ」


大ジャンヌは懐かしそうに微笑んだ。普段はラフな服装だが、今日は正装していて、とても美しく見えた。


「小さい頃から男の子と喧嘩しても負けたことがなかった、おてんばだったな」


「強い人なんですね」


「ああ、でも強いだけじゃない。哲学者としても優秀で、この国を治めるのにふさわしい人だ。彼女が女王で本当によかった」


大ジャンヌの言葉には深い敬意が込められていた。馬車が揺れる中、ジーナは不安そうに青いマントの端をいじっていた。


「でも、女王陛下が私たち生徒にこんな大事な問題の解決策を求めるなんて...」


ジーナの声は緊張で震えていた。


大ジャンヌは優しく彼女の肩に手を置いた。


「テオリアももちろん自分の考えを持ってるよ。でも、若い世代に真剣に考えてほしかったんだと思う。勉強は暗記じゃない。実際に自分のこととして知識を使って初めて身につくものだからな」


ジーナの表情が少し沈んだ。


「じゃあ、これは教育のための宿題ってことですか...」


「いや、そうじゃないさ」


大ジャンヌは優しく微笑んだ。


「テオリアは本当の議論を大切にする。真理に近づくには議論が必要だと思ってる。君たちはその相手に選ばれたんだから、がっかりすることはない。むしろ名誉なことだよ」


馬車が大きな門をくぐると、目の前に王宮が現れた。白い壁に青い屋根、塔の先には金色の旗が風に揺れている。中庭には色とりどりの花が咲き、噴水の音が心地よく響いていた。


ジーナが小さな声で何かつぶやいている。


「ジョルジーナ・フレデリカ・ヘンデルと申します。本日、陛下の前に...」


自分の名前を何度も練習しているようだった。


テルは急に冷や汗をかいた。自分にはこの世界風の名前がないことに気がついたのだ。「東方から来た」と言っても、名前があまりにも変だと、別の世界の人間だとバレるかもしれない。


こっそりスマホを取り出し、サンデラにメッセージを送った。


『この世界風の名前を考えて。今すぐ』


すぐに返信が来た。


『ナオテル・イフォンシス・デカペンテ』


今度はちゃんと答えてくれた。テルは初めてサンデラに感謝した。


王宮に入ると、赤い絨毯が敷かれた広い廊下が続いていた。壁には歴代の王様の肖像画が飾られ、天井からは美しいシャンデリアが下がっていた。


「女王陛下のお部屋です」


扉が開くと、思ったより質素な部屋があった。広いけれど、必要最低限の家具しかなく、壁には世界地図と星の図が飾られているだけだった。大きな窓から陽の光が差し込んで、部屋全体を明るく照らしていた。


中央に座っていた女性が立ち上がった。


挿絵(By みてみん)


長い金髪を上品に結い上げ、知的な雰囲気の女性。テオリア女王だった。真珠のように白いドレスは派手ではないが、とても上品だった。紫色の瞳は澄んでいて、優しさと賢さが一緒に見えた。美しいけれど親しみやすい雰囲気があり、唇には微笑みが浮かんでいた。


「よく来てくれたわね、ジャンヌ、そして王立学院のみなさん」


女王の声は思ったより優しく、温かかった。


大ジャンヌが一歩前に出て、丁寧にお辞儀をした。


「陛下、例の件について、王立学院の生徒会からの提案を持ってまいりました」


女王は微笑むと、ジーナを見た。


「あなたが生徒会長のジョルジーナさんね。前からお話は聞いていたわ」


ジーナは緊張しながら一歩前に出た。


「ジョルジーナ・フレデリカ・ヘンデルと申します。本日、陛下の前に来ることができて、とても光栄です」


女王は次にテルを見た。優しくも鋭い紫色の瞳が、まっすぐテルを見ている。テルは一歩前に出て、深くお辞儀をした。


「ナオテル・イフォンシス・デカペンテと申します。お世話になっております」


なんだかビジネスメールみたいな言葉しか出てこない。恥ずかしくて体が熱くなった。


「なるほど、デカペンテということは、ナオテルさんは15代目にもなる名家の出身ということですね」


女王は微笑みながら言った。テルはその意味が分からなかったが、とりあえず頷いておいた。胸がドキドキするのを感じながら、冷静なふりをした。

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こちらは「ライト版・挿絵入り」です。 「完全版」はこちら
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