キャラメイクに30分って普通だよね
本日発売され、既に売り切れ続出のVRMMO、『フリーライフ』。
あらかじめ予約していたお陰で、俺や大学の友人達はすんなりと手に入れる事が出来た。
世界的有名企業が手を組み共同開発したこのゲームは従来のVRMMOとは違い、五感がそっくりそのまま再現されていて、大変自由度の高いゲームだと世間では話題沸騰中である。
舞台は剣と魔法の世界。
専制君主制の国々が建ち並び、様々な種族が共存している、ラノベ小説などでよく見る異世界だ。
プレイヤーはその世界で様々な職に就いて、自由に生活を送る。正にフリーライフなのだ。
公式サイトの情報では、住人にはAIが埋め込まれていて、新密度という数値がプレイヤーとの間に設けられるらしい。
つまりは固定された台詞をずっと繰り返す村人Aのようにはなっていないということ。そして仲良くなれば何かが起きるということが想像出来るだろう。
その他にもまったく新しいシステムが数多く導入されているらしく、俺はわくわくしながらヘルメッド型のハードをすっぽりと被り、ベッドに横たわった。
《ようこそ『フリーライフ』へ!》
気が付くと、俺は白い空間に立っていた。いや、正確には俺の思考だけが浮いていた。
キャラメイクしてないのだから当たり前なのだが…脳内に直接語りかけてくるような滑らかな女性の声に、ここが現実だと錯覚してしまいそうになる。
《まずは貴方自身の名付けをしてください》
声がそう言った途端、目の前に少し透けた画面が出てきた。
ふよふよ浮いていて、近未来を感じる見た目。アニメ映画に出てきそうだ。
それにしても、名前かぁ…。他のゲームだったらネタ系がほとんどだけど、『フリーライフ』は楽しみたいしな。本名の翔一から取って『ショウ』にしよう。
《ショウ様でよろしいですか?》
入力もしていないのに、と驚いて浮いている画面を見ると、いつの間にかショウと入力されていた。
これはスゴい。思ったことがそのまま反映されるなんて、便利だと思ったけど、同時に恐くも思った。
開発は有名企業ばかりだし、悪用されるとは考えにくいけれど。
心の中ではい、と答えると、声は次の手順を説明し始めた。
やっぱり丸聞こえのようだ。
《生年月日を登録してください》
このゲームは18歳未満は利用出来ないことになっている。ちなみに言うと性別も本来のものに固定だ。
理由は『フリーライフ』はリアル過ぎるから。方法によっては空を飛べることもあるので、ゲームと現実を区別出来ない可能性のある18歳未満は購入出来ないし、遊べない。
性別固定の理由も、リアル過ぎる故。現実では男なのに、ゲームでは女だと色々、混乱することがあるだろうと運営が固定化した。
俺はネカマじゃないし、今年で20歳なので何の問題もない。
《生年月日を公開しますか?》
………どうしよう。
別にどっちでも良いんだけど……。…あ、よく見たら画面の端に後で変更出来るって表示されてる。じゃあ、とりあえず公開で良いか。
公開します、と。
《利用規約に同意してください》
声と共に画面に表示されたながーーーい利用規約。軽く流し読みしてから、同意しますと心の中で呟いた。
《──……ありがとうございます! それでは貴方の外見を決めていきましょう!》
白い空間が突然変わって、目の前に1人の青年が現れた。
青年の回りには『髪』や『目』、『体型』や『声』などの項目がシャボン玉みたいな感じでぷかぷか浮いている。
外見パーツは数多く存在し、CMでは『組み合わせは50億通り以上!』と声高らかに宣伝していた。
俺はさっそく自分の外見を作り始め、完成したのは体感で30分ほど経った後だった。
《キャラメイクを終わりますか?》
はい、と念じれば、自分の思念体が青年の身体に吸い込まれるのが分かった。
こんな感覚まで再現されてるなんて、作り込まれてんなぁ…。
ぱち、と目を開けると、今まで作っていた青年の身体が、自分の身体になっていた。
健康的な肌色に、後ろで1つに纏めた青色の髪。深い海のような瞳にはかなりこだわった。
あまりにも美形に作ると虚しくなるので、顔はそこそこ。いわゆる優男風に仕上げた。
身長も同様で、120センチから200センチまで自由に変えられるけど175辺りで自重。リアルでの俺は170にすら届いていないので、景色が違って新鮮だ。
《職業を選択してください。職業は教会で変更出来ます》
透けた画面にいくつもの職業が表示される。
=========================
選択可能職業
『剣士』
『魔導師』
『魔法剣士』
『格闘家』
『槍使い』
『弓使い』
『盗賊』
『従魔使い』
『錬金術師』
『薬師』
『鍛冶師』
『木工師』
『裁縫師』
『料理人』
※条件を満たすことにより、新たな職業が解放されます。
=========================
結構あるな…。戦闘職と生産職に別れているみたいだけど、変更出来るんなら最初は戦闘職の方がやりやすいかも。
俺的には『従魔使い』と『料理人』が何よりも気になる。……あいつらとPT組めば素材集めもなんとかなるかな?
んー…。まぁ、好きなのを選ぼう。
「従魔使いで」
《初期職業は『従魔使い』でよろしいですか?》
「はい」
声を出して答えてみたけれど、本当に自分の身体みたいだ。軽くジャンプしてみても、実際の身体と何の違いも違和感もない。
《──初期設定が完了しました。ショウ様のIDは○○△になります》
『フリーライフ』ではプレイヤーにIDが配られるので、名前が被っても大丈夫だ。これからどんどんプレイヤーも増えるだろうし、その仕様はありがたいのだろう。
ロード中、と画面に表示され、辺りが暗くなった。
《…現在実装されている都市は、エイコクにある10の都市です》
ほとんどのゲームでロード中なんかに出る豆知識などは、『フリーライフ』では女性が声に乗せて届けてくれるらしい。
ただエイコクって……英国…? いやそんなまさか…。いくらなんでもカタカナにするだけの安直過ぎる名前を付けるわけが…。
《…次回のアップデートは5/14を予定しています。第4の都市、シヨンと第5の都市、ゴリンの間で起きるイベントの他、自然が溢れる隣国フランセイが解放されます》
仏蘭西か? 花の都なのか? 相当の資金を注ぎ込んで造り上げたゲームな筈なのに、その名前で良いのか運営よ。
《…のんびり世界を散歩してみましょう。面白いものが見付かるかも知れません》
うん。どのみち、街は歩きたいって思ってたんだ。ある程度お金が貯まったらゆっくり散歩してみよう。
そう俺が決心した時、ロードが終わったのか辺り一面がパァァっと光に包まれた。