【第37話】 青空へ響け!
「ご、ごめんなさい」
「あなた、人をイライラさせる天才ね。わらわは隊列を作れと言ったの。聞こえなかった? それとも理解できないの? チンパンなの?」
姿形は幼い子供なのに出てくる言葉はとても高圧的で傲然たる態度も合わさってかギャップがすごい。
というか、ちょっとムカついた。
「ご、ごめんね。ソフィアちゃん、隊列といわれても分からないから教えてくれないかな?」
「ソフィアちゃん?」
しまった。
無意識につい幼い外見に合う言葉をそのまま発してしまった。
ギロリとソフィアちゃんが鈍い目を光らせる。
「たかが早く生まれただけの存在が気安く呼ばないで! もう忘れたのかしら? 最初に言ったようにソフィアでいいといったでしょう? そうね、もとの世界に戻ったらいいお医者様を紹介してあげるわ」
皮肉めいた、いい笑顔でソフィアが満足げにクスリと笑う。
う~ん、殴りたい! この笑顔。
けど、今は仲間? 割れしている場合ではないのは、周囲の言葉から十二分に伝わっている。
困った私に助け舟を出すように香霧さんが話に割り込んだ。
「隊列はね。僕の『共有する侵犯』においての安全性を優先するために決めているんだ」
『共有する侵犯』、たしか香霧さんと手をつないだ人、またその人と手をつないだ人、五人まで手をつなぎ合わせた人を透明にする魔法だったはず。
「一番前は当然、魔法発動者の僕として二番目にルーファスさん。三番目にソフィアさん、四番目にリーダーで五番目に桃華さんになるんだ」
「私が最後尾ですか?」
「うん。悪いけど僕らは大体顔が割れているからね。その点、君はアルフェルたちにしか知られていない。言い方悪くて申し訳ないけど最悪、不測の事態で君だけ魔法が解けてもすぐにどうこうされることはない。それに」
「そうなったとしても、おまえを守るために俺が四番目にいるってわけだ」
リーダーが香霧さんの話に割り込む。
「そういうこと。残った僕らはそのまま安全に目的地へ到達して、リーダーとの合流を待てばいい寸法さ。さ、時間がない。早速、手をそれぞれつないで」
香霧さんの言葉に同意すると、香霧さんを先頭にみんなが直線に並ぶ。
香霧さんとルーファスさん、ルーファスさんとソフィア、ソフィアとリーダー、そして、リーダーと私とそれぞれが手をつなぐのを香霧さんが確認する。
「ジョブスさん、こっちは準備できました。僕が魔法を使い次第にいつものようにお願いします」
「分かりました。えっと、桃華さんでよろしいんですよね。ご無事を祈っています」
「え? あ! えっと、ありがとうございます」
急に声を掛けられて、慌てたが笑顔の彼に釣られて私も笑顔で返せた気がする。
「準備はいいですね? いきますよ! 夢幻に浮かぶ境界よ。狭間に揺蕩う揺り篭よ。我らは有であり無、霧現の調べにて、その存在を逸脱せよ! 『共有する侵犯』」
香霧さんの声が響き渡ると、眩い光が身を包んだ。
けど、取り立てて、変った様子はううん、正面の壁がポッカリと穴が空いたかのようになっていた。
「僕の『修復可能な突貫工事』で壁を開けておきました。すぐに元に戻るので早めに出てください」
「ありがとう。では、行って来るよ」
「はい。みなさんがご無事で帰ってくることを祈ってます」
「いってきます」
私も香霧さんに続いて、ジョブスさんに声を掛けた。
――けど、なんの反応もなく私はリーダーの手から伝わる誘導に従って歩き始める。
前にいるリーダーはなにが面白いのか可笑しそうに笑っている。
「やると思った。おさらいのためにおまえ、もう一度、香霧の説明を思い出してみ」
むう、リーダーに馬鹿にされたまま従うのは癪だけど、記憶をさかのぼってみる。
たしか接触部分を離してはいけないのと――あ!
「思い出したか? 俺らの声は外部には聞こえないんだよ。だから、見てみ」
促されるままに視線を前に向ける。
そこはもう外だった。
建物の外、太陽が燦燦と輝き風が髪を撫でる。
空を見上げると天使が幾人か飛んでいた。
「首輪を着けていない人間を見ると、ハイエナのように飛んでくる天使が降りて来ないってことは、うまく香霧の魔法がバッチシ効いてる証拠ってことだ。だから、やつらのそばにいってもテンパるなよ」
珍しいリーダーの真顔に思わず気圧されて頷く。
すると、今度は前の二人から笑い声が上がった。
「なにいってんのよ。チンパンジー、全部、あなたが過去にやったことじゃない。いつもより喋らないなと思ったら、天使にばれないためとか」
「うむ。我らに近づいてくる天使に気付かれたと勘違いして、接触部分を離し、挙句に「おまえら、先に行け」とばれてない我らの存在までアピールしてくれたこともあったな」
香霧さんに至っては、肩をぷるぷると震わせてる。
二人同様思い出し笑いなのか、それとも、被害をもっとも被った怒りなのか私の位置からは判断がつかない。
いずれにしても二人の話を聞いた上で私のやるべきことはリーダーに危機感を訴えることだ。
「そんな非難めいた視線おくんなよ。めっちゃテンサゲなんですけど、で~じょ~ぶって」
「なんていうか、リーダーに言いたいことは私に対しておまえがいうか!? って感じなんですけど」
「「それな!」」
ルーファスさんとソフィアが実感込めた言葉の同意をしてくれた。
瞬間、大きな声が香霧さんから上がった。
「わはははははははっ!」
それは清清しいほどの呵呵大笑だった。




