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エゴイズム ~それをいったら戦争です!~  作者: パラサイト
【第2章】お城の中は安全地帯?
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【第11話】 打算ノ構図

 間を置いて、トトさんが私の方へ振り向く。

 スカートの裾をちょこんと上の方へ摘み、お辞儀する。

 西欧文化のお嬢様のたしなみ、カーテシーだ。


 それはメイドさん大好きなお兄さんたちなら、一発で悩殺できる破壊力と優雅さを伴っていた。

 それに、このお城とこれほどマッチするしぐさはないと私は断言できる。


 ――ただ、上目使いで私を見るトトさんの瞳には好意ではなく、強い敵気心が宿っているように見えるのは気のせいかな? まるで害虫をみるような視線。


「トウカ様、先ほどは失礼いたしました。遅くなりましたが、自己紹介をさせていただきます。わたくし、トト・エーデルフィンと申します。以後、お見知りおきを」


 まるで上流階級のお嬢様を前にしてるようで、一挙一動に目を奪われる。


「そして、ようこそおいでになられました。主を含め、私共も歓迎いたします。何かご不明な点やご不便なことがありましたら、遠慮なくお申し付けくださいませ」


 至極丁寧なあいさつに見惚れてた。

 ――数秒、頭がお留守になっていた私は慌てて自己紹介を行った。


「ご、ご丁寧にありがとうございます。私、悠木桃華といいます。トウカでいいです。アルくんには危ないところを何度も助けていただいて……」


 トトさんの放つ優雅かつ気品溢あふれるオーラにあてられたせいか、少しでも丁寧に話そうとするも慣れないことはするものではないとはよく言ったもの。

 言葉が詰まってしまい、グダグダである。


厚顔無恥こうがんむちとは分かっているんですけど、行く当てもないのでアルくんの好意に甘え、お邪魔させていただいてます」


 私が話している間、トトさんは私の口から『アルくん』の単語が出るたびにギロリと鋭い眼光を送ってくる。

 まるで、なにかを非難しているみたいだ。

 正直、こ、怖いんですけど。


「ほほぉ、おまえさん。トウカという名前か? ワシはてっきり、苺柄じゃから、イチゴじゃと思っていたワイ」


 私とトトさんの間に、にゅっとマーリンさんが割り込んだ。

 おかげでトトさんの視線から逃れられることができた。


 ――た、助かった~。

 マーリンさん、私が困っているのを見かねて、フォローしてくれたのかな? 意外といい天使かも――ちょっと、エッチだけど。

 マーリンさんの気遣いに感謝すると同時的にあることに気付く。


 ん? 苺柄? マーリンさんの言葉の意味を理解すると、私はバッとスカートを押さえた。

 この! このエロジジイ!!! 人の! 乙女の!!


「おお! 今度は真っ赤なリンゴになりおったわい。ほっほっおっ? おっ!? 坊ちゃま、なにを?」


「マーリン、ちょっと」


 アルくんが、にこやかにマーリンさん(エロジジイ)の後ろからロープの襟首をつかむ。


「坊ちゃま、なにを? なにを?? なにをををおおおぉぉぉーーーっっ!?」


 マーリンさんが、アルくんに引きられて、バタンと玄関ホール側の扉の奥に消えていった。

 直後、なんとも表現しづらい阿鼻叫喚あびきょうかんの声が分厚い扉をまたいで、私の耳に届いた。


 響く叫び声とは別に、私の耳が別のモノを捉える。

 それはとても気分が高揚しているように聴こえる鼻歌だ。

 事実、鼻歌を歌う人物、トトさんはマーリンさんの断末魔にも似た悲鳴が聞こえる度に恍惚こうおつの顔つきを浮かべる。

 私の視線に気付いたトトさんは厳格さを取り戻し、私に一礼する。


「こほん……申し訳ありませんでした、トウカ様。マーリンがとても失礼なことをしたみたいで、我が主がただいま、処理をしているのでもうしばらく、主がお戻りになるのをお待ちください」


「あ、いえ、なんかえっと、大丈夫なのかなぁ? ってぐらい悲鳴が聞こえて、逆にちょっと心配なんですが」


 私の言葉に、トトさんは安心してください。

 なにも心配ありませんと初めて、優しく諭すように告げる。


「心配なんかいりませんよ。きっと、五臓六腑ごぞうろっぷを引き裂いて、輪廻りんねの輪を砕き、生まれてきたことを後悔するぐらいのことしかされてませんよ」


「はははっ、ソウデスカ」


 心配を通り越して、冥福を祈るレベルですか。

 ――今も絶え間なく絶叫は聞こえてくる。


 それはそれとして、今はそれよりもチャンスではなかろうか? トトさんの機嫌も良さそうだし、これは親密になれる機会かもしれない。


「あの、トトさん」


 チャンスとはいえ、苦手意識を植えられた私はおずおずと控えめに話しかけてしまう。


「なんでしょうか? トウカ様」


「その……トウカ様って呼ぶのをやめて、もっと普通にしゃべって欲しいです。最初にマーリンさんやアルくんとしゃべっていたみたいに」


 刺さるような鋭い眼光が再度、突き刺さる。

 アルくんがこの場にいないのもあるのか、今回は明確に知覚できるほどの敵気心だ。


 辺りがシーーンと静寂に――――包まれなかった。

 相変わらず、マーリンさんの絶叫は続いている。

 扉の向こうから微かに「頑張れ! 頑張れ! ワシ」と絶叫と鼓舞こぶする声が混じって聴こえる。


 ――ありがとう。マーリンさん、最後のほうは、なにを言っているのか分からないけど、私も頑張ってみるね。

 勝手にせい! という声が聞こえた気もするが、気のせいだろう。


 トトさんは明晰めいせきな声で続ける。


「……そういうわけには参りません。主に丁重な御持おもしを任された以上、お客人であるトウカ様を呼び捨てにした上に、ないがしろにするなど、とてもできません」


 ――私、ないがしろにしてくれって言ってないわよね? というか、ドマゾや放置プレイ好きな人くらいでしょう。

 そんなことされて喜ぶのは――。

 私は違うわよ――いや、ホント。


ないがしろは困るけど、アルくんのように、マーリンさんやトトさんとも友達になりたいの。ダメ……ですか?」


 トトさんは驚きで目を見張っていた。


 私、なにか変なことを言ったかな?


「……友達……ですか? このわたくしと……?」


「うん。ダメかな?」


 初めて抱く感情の置き場所が分からないように、トトさんは複雑な表情をしている。


「トウカお姉ちゃんがイイって言っているのならそれでいいよ。言っただろ? 僕と同じように接しろって。つまり、僕がそれでOKを出しているようなものさ。……友達になる、ならないはトトが決めることだけどね」


 食堂の両開きの扉が開くと同時にアルくんが会話に混じってきた――正確には、蟹の様に口元から泡を吹いているマーリンさんの襟元を引きっての登場。


 あんな状態で大丈夫なのかな? ちょっと、心配だけど今は、マーリンさんのことは放置しよう――。


 なんとなく、あの天使は出鱈目でたらめっぽい存在な気がするからだよ? 冷たいわけじゃないよ?


 トトさんは、アルくんの言葉を受け、なにか思案してたみたいだけど、それが終わったようで今は、私の方を向いている。


「……トウカ様、あなた様の申し出を心より感謝いたしますわ。このトト・エーデルフィン、お言葉に甘えさせていただきます」


 カーテシーを行い、一拍の間をおくとトトさんは言葉を続けた。

 

「ですが、友達の件は考えさせてください。この年になると、酸いも甘いもみ分けてはいても、未知なる事柄には臆してしまうものです。その点だけはご了承ください」


 この年という言い方をするほど、トトさんは年を召されてるようには見えないけど、濃密な人生経験を経た上での言葉なのかな?


「では、再度、確認させていただきますがトウカ様には普段のアルフェル様のように接することを、トウカ様は許可してくださるわけですね?」


「はい! よろしくお願いいたします」


 私は即、肯定した。

 友達になってもらえないのは残念だけど、口約束で友達になるもんでもないし、ここでお世話になるんだから、友達になるチャンスなんていっぱいある。

 今はその一歩を踏み出しただけでもヨシだよね。


 今回もアルくんのおかげだなぁっと思い、チラッと功績者であるアルくんを見てみる――まぁ、こんなもんでしょ? と、顔が言いたげでまるでそれは、及第点を取った生徒みたいだ。


 正面のトトさんは上機嫌で私を見ていた――トトさんも私と同じ気持ちなのかな?


 私はうれしくなって、これからの友好性を込めて手を差し出した。


「あらためてよろしくね、トトさん。けど、私は友達になるのを諦めたわけではないからね!」


「ええ! こちらこそ、よろしく。トウカ」


 私たちは握手を交わした。



 と、同時に私の首に違和感がはしる――!!!


 なんだろ? 違和感の正体を知るために首筋を触るとそこには――――首輪が巻かれていた――!!!

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