【第10話】 おじゃまします? それとも、されてます?
「うわぁ!」
外観もそうだけど、内装も豪華絢爛な装いだ。
まず目に付いたのは、赤絨毯が敷かれた大階段。
階段の両脇には鉄製の鎧の置物、壁にはさまざまな絵画が掛かってある。
左右にドアが二つづつあり城内の広さを窺わせる。
これぞ王道中の王道、まさに『THE西欧』といった感じのお城だ。
手を引いて、誘導してくれていたアルくんがフロア中央でこちらに振り返ると、つないでいた手を離した。
「いらっしゃい、トウカお姉ちゃん。僕のおうちにようこそ。妹さんを連れて、元の世界に帰るまで、自分の家だと思って好きなだけいていいよ」
「ありがとう。アルくん、お言葉に甘えるね」
もとより帰る場所も方法も何も分からないのが私の置かれた状況だ。
下手に動けば危険しかないこの世界でこの申し出は渡りに船である。
「うん! それじゃ、食堂へ行こう。おなかが空いたでしょ? ボクはペコペコ。さ、コッチコッチ」
「それじゃあ、遠慮なく」
アルくんの手招きに従い、気後れしながらも付いていく。
話に聞いていたトトさんの姿が見えないのは留守だからなのかな。
それに、この家の子息であるアルくんが帰ってきたのに、出迎えがないのもおかしく思える。
あれこれと思案する私をよそに、アルくんは左手前の両開きのドアを開けた。
扉の先には映画やゲームで見る縦長いテーブルがあり、掛けてあるテーブルクロスもシルクでできているのか輝くような艶を出しているように見える。
あまりにも場違いなところへ来てしまった気がして、居心地の悪さをアルくんには申し訳ないが感じてしまった。
そんな私の心境を知らずに、アルくんはこちらを向いて、にこやかに笑う。
「ちょっと待ってね。マーリン! トト! ただいま戻ったよ。友人も招いているから、豪勢なごちそうを今から頼むよ」
トトさんの名前は知ってるけど、マーリンさん? の名前は初めて耳にした名前だ。
お兄さんとは別々に暮らしてるっていってたし、ご両親を呼び捨てにするわけないからトトさんと同じ、お世話係りの人かしら? アルくんの呼びかけから数十秒たった気がする。
声に反応する気配はしない。
――――――??? なんか今、スカートの中に違和感が――? と感じた瞬間、スカートの下から生暖かい風が吹いた――いや、吹きかけられた!? 例えるなら、耳元に息をふぅっと吹きかけられたあの感覚が私の真下から――!!!
ゾクゾクゥと背筋が震える。
毛が逆立つような悪寒を返す様に、スカートの真下へと全力で躊躇いもなく足を振り下ろした。
グニュと何かを踏んだ感触が伝わる。
踏んだ正体は――
「うわひぃ~! お~いてててて。わしの命の泉が、活力がぁ~」
なにもない空間から声が聴こえ、私の足元の空間を侵食するよう徐々に姿形が現れ始めた。
やがてそれは真っ白いロープをまとって横臥してる天使のお爺ちゃんとなった。
何でこのお爺ちゃん、私のスカートの下にいるの!?
「マーリン、そんな所にいたのか?」
私のスカートの下はそんなところですか。
そうですか。
アルくんの声に反応し、マーリンと呼ばれた天使のお爺ちゃんがガバッと起き上がる。
つまり、それは当然――。
「坊ちゃま! ふおぉぉおーーー! なんじゃ、何が起きたのじゃ!? 真っ暗で真っ白じゃ! いい匂いがするのぉ! ここは楽園か?」
「キャーーーーーー!?!?!?」
スカートの中で、もぞもぞとうごめくマーリンさんを本当に天国へ行け! といわんばかりに、右足を思いっきり振りぬいた。
うう、もうお嫁にいけない。
マーリンさんは「ひょーーー」と叫びながら、蹴られた衝撃から床を滑り、アルくんの足元で綺麗に止まる。
「よっこいせ」と何事もなかったように立ち上がり、アルくんに会釈すると本当に何事もなかったように会話を始めた。
「おお! 坊ちゃま。お帰りなさいませ。いかがでしたかな? この町は」
「トラブルには巻き込まれたけど、目的は果たせたよ」
アルくんが私のほうを見る。
続けて、マーリンさんも私を見て頷いた。
「その様ですな」
「対応が必要な要素はまだまだあるけど、それらは後日にでも対応するとして、だ。マーリン、食事の準備を頼む。僕の友人が舌鼓を打つようなとびっきりのやつをね」
「かしこまりてですじゃ」
マーリンさんが恭しく会釈する。
「あと、さっきみたいなうらやま……こほん、レディに対して失礼な行為をしたら……僕、泣いちゃうよ? マーリンのこと、ホントのお爺ちゃんのように思っていたのに……」
ぐすんっと左腕で顔を覆うアルくん――ちなみに、右腕には鎖を持つ腕全体に光が集まり輝いている。
それは攻撃的な光に見えるけど――とりあえず、傍観しとこう。
乙女のカンがそういっている――いや、乙女のウラミかな?
「ぼ、ぼ、坊ちゃまがワシのことをそこまで……ジジイ感激!!! あっ! ティッシュ、ティッシュ(ごそごそ)ちーーーん」
マーリンさんは鼻をかんだティッシュをポケットにしまった。
きちゃないなぁ。
「ぼ、坊ちゃま、爺も坊ちゃまのこと、ホントの孫のように思ってますぞ! だから、その、爺の死亡フラグを回収してもらってよろしいでしょうか……?」
冷や汗を掻きながら、アルくんの右腕をジッと見て怯える。
――感動的なせりふのオンパレードなのに第三者から言わせてもらうと――シュールに尽きる。
「……いや、マーリンが反省してくれれば、僕もそれでいいと思ったんだけど……トトがさっきからGo! サインを出してるんだ」
トト? 何度かアルくんが呼称した名前だ。
その姿を拝見しようと、私は食堂を見渡してみる。
だけど、三百六十度見渡せど人も天使も見当たらない。
天使なら上空と思い立ち、仰ぎ見るけどやはり、食堂には私達三人以外に誰もいない。
トトさんはどこからアルくんにサインを送ったのだろう?
「くうぅぅ~~! クソババァの差し金とはっ! おかしいと思ったんじゃ。あのお優しい坊ちゃまが爺にこんな仕打ちをするはずがないと――」
「いや、コレは僕の意思だよ」
即答である。
「ぼ、坊ちゃま~~~~~~およよのよ~~~~」
ご、号泣である。
しかもフリではなく、ガチっぽい――マーリンさんはよっぽど、アルくんのことが好きなんだろう。
マーリンさんの号泣と嗚咽が木霊する中で、別の声が舞い込んだ。
「ほ~れ、もっと、年寄りの冷や水を流しんさい。いや、死に水かのぉ」
辺りを見渡してみるが――やっぱり、三人しかこの食堂にはいない――だとしたら、今の声の主は一体?
「トト、僕の友人が驚いているだろう。いい加減、姿を現せ。失礼にあたるだろう。マーリンも半分冗談だから、泣き止め」
――半分ということは、半分は本気でヤッちゃうぜってことだよね。
アルくんが声を掛けた方向の景色が何かおかしい。
――空間がマーブル模様のように歪みに歪んで、その中心からは――綺麗な女性が現れた。
年齢は二十代前半くらいだろうか。
腰まで伸びている金色の髪、怜悧さを宿す青い瞳、黒のワンピースの上に白いエプロン。
いわゆるメイド服を着こなす見目麗しい女性がそこにいた。
その美貌はまるで傾国の美女と表現しても誇張ではない。
ううん、背後の翼のことを含めると傾国の天使と呼ぶべきか。
「これは坊ちゃま、おかえりなさいませ。そして、お出迎えが遅れ、失礼いたしました。……おや? どうなさいました。ムスゥっとして、せっかくのハンサムなお顔が台無しでございますよ」
トトさんの指摘通り、私の目から見てもアルくんが不機嫌なのは表情から窺える。
「ええ、分かっております。このジジイが目障りなんでしょう? すぐに処理しますので、もう少々」
「トトッ!!」
トトさんの言葉をアルくんの尖り声が遮る。
その声を聞くや否や、勢いよく喋ってたトトさんも号泣してたマーリンさんも目を見開き、驚きに満ちた表情で主の次の言葉を待っていた。
「トト、マーリンの処理は後でいい」
対処じゃなく処理なんだ。
しかも、確定事項。
あ! またマーリンさん涙目になっている。
「僕はおまえたちの僕の友人への対応に怒っているんだっ! マーリンは平常通りだとしても、トト、僕は言ったよね? おまえの対応は僕の友人に対して失礼にあたると……」
アルくんは私のことで不機嫌になっていたんだ。
うれしくもあるけど、ちょっとだけ恐縮してしまう。
「なぜ、姿を現した際にトウカお姉ちゃんに非礼をわびない? いいか! 僕の友人であるトウカお姉ちゃんに対しては僕と同じように接しろ!! これは命令だ!! わかったな? トト、マーリン」
主の主命を承知したマーリンさんが深々とアルくんにそして、私に頭を下げた。
トトさんは私を一瞥すると、マーリンさんと同じようにアルくん、次に私に頭を下げ、「「了承しました。我が王よ」」とマーリンさんとトトさんの声が重なった。




