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エクストリームガールズ!!  作者: 井村六郎
夏期激闘編
24/40

第二十四話 ゴールデンゴージャスを守れ!!~友香の覚醒~

 時刻は、18時55分。

 六面相小僧が予告した時間まで、あと五分です。


「あと少しだ。気合いを入れろ」


 勝希ちゃんが愛奈ちゃん達に、警戒するよう促します。

 ここまで、特に異変は起きていません。怪しい気配も感じず、いつもと同じ、要家の屋敷に見えます。

 しかし、油断してはいけません。六面相小僧は、間違いなくもうこの屋敷に忍び込んでいます。



 一方その頃。

 ここは、友香ちゃんの屋敷の離れ。ここはこの屋敷のセキュリティーシステム全てを管理している、コントロールルームです。当然ですが、中にも外にも多数の警官を配備して、厳重に警備しています。

 そう、多数の警官を配備して。


「あーあ。今日合コンの予定だったのに……」


「文句言わないの。仕事なんだから」


 桃野さんと美魅さんも、今回の警備に協力しています。他の警官と一緒にモニターを見ながら、怪しいものが映っていないか、監視中です。

 と、後ろのドアが、音もなく開きました。


「!?」


 気配に気付いた桃野さんが、驚いて振り向きます。しかし、時既に遅し。桃野さんは黒いライダースーツを着た男性から、首筋に手刀を喰らい、気絶してしまいました。


「桃野!!」


「何だお前は!?」


 美魅さんと警官達は、すぐに謎の男性を取り押さえようとしますが、逆に返り討ちに遭い、全員気絶させられてしまいます。


「こちらシステムコントロールルーム。配置に着いた」


 男性はコントロールパネルの前に座ると、インカムを取り付け、システムを操作しながら、どこかに連絡しました。


「了解。こちらも配置に着いた」


「こちらもだ」


「では計画通り、時間を待って照明を落とせ」


「時間稼ぎは、最低五分が限界だろう。時間がないから、さっさと終わらせろよ」


 インカムから、無数の声が入ってきます。男性はその声を聞きながら、腕時計を見て時間を確認します。


「カウントを開始する。10、9、8……」


 時計を見ながら、カウントをする男性。


「3、2、1、0!」


 カウントがゼロを迎え、犯行予告の時間になりました。それと同時に、男性はコンソールのキーを押し、素早くシステムコントロールルームから出て行きました。

 コントロールルームの外には、警備に就いていた警察官達が、全員倒れていました。




 ◇◇◇◇




「な、何!?」


 愛奈ちゃんは驚きます。突然屋敷中の照明が消えて、真っ暗になったからです。


「非常用のランプも点かない!? まさか、システムコントロールルームを、乗っ取られたざますか!?」


「何だと!? 警備は何をしていた!?」


「コントロールルームは、たくさんの警察に警備してもらっていたざます!」


「馬鹿が!! 重要な場所の警備の人数は、最小限に留めておけと言っただろうが!!」


「ちょっと! 今はそんな事言ってる場合じゃないでしょ!?」


「浩美先生が、危ない!」


 勇子ちゃんと友香ちゃんが、怒号を飛ばす勝希ちゃんをなだめ、愛奈ちゃんが浩美先生を助けに走ります。


「愛奈!! どこ!? こんなところ走り回ったら危ないわよ!!」


「平気!! 道はちゃんと覚えてるから!!」


 真っ暗で愛奈ちゃんがどこにいるかわからず、勇子ちゃんは手探りで部屋を出ようとしますが、愛奈ちゃんは道を覚えているからと、構わず走ります。


「おわぁ!?」


 と、愛奈ちゃんは足が急に動かなくなり、しかしどうにか転ばないようにバランスを整えました。


「ゆ、床がネバネバしてる! 何でぇ!?」


 いつの間にか床には、ネバネバのトリモチが撒かれており、愛奈ちゃんの足は床に貼り付いてしまっていました。


「このっ! 取れないっ! 浩美先生ーっ!!」


 愛奈ちゃんは粘着拘束から逃れようともがきながら、浩美先生の名前を呼びました。



「愛奈さん……どうしたのかしら……」


 浩美先生は、19時を過ぎても見回りに来ない愛奈ちゃんを心配しています。

 ちなみに、この部屋はコントロールルームから独立したセキュリティーの為、コントロールルームからの操作では照明が落ちません。ベッドルームからの操作しか受け付けず、だからこの部屋だけは明るいままでした。


「!!」


 少しして、隠し扉が開きます。


「浩美先生!!」


「愛奈さん!!」


 それから、愛奈ちゃんが飛び込んできました。


「六面相小僧が侵入してきて、お家中が真っ暗にされちゃったの! ここにいたら危ないから、すぐあたしと一緒に来て!」


 外の状況を簡潔に伝える愛奈ちゃん。浩美先生が外を見ると、確かに真っ暗です。


(……おかしい)


 ですが、浩美先生は愛奈ちゃんを信用出来ませんでした。

 言っている事に間違いはありません。が、それは問題ではありませんでした。


(この子は、愛奈さんじゃない!!)


 根拠はありません。しかし、浩美先生の中の何かが、この愛奈ちゃんを信用してはならない。この愛奈ちゃんは偽者だと、そう告げていたのです。


「浩美先生?」


「えっ? あ、大丈夫です。急いで逃げましょう!」


「うん!」


 すぐに決断を下さなかった事を、妙に思われたようです。浩美先生は何でもない風を装って、偽愛奈ちゃんが背を向けた隙に、布団の上に置いてあるスイッチに手を伸ばしました。


「だめだよ? 人なんて呼んじゃ」


 しかし、浩美先生の試みは、読まれていたようです。偽愛奈ちゃんは言葉で浩美先生を制し、浩美先生はスイッチを押す手を止めてしまいました。

 偽愛奈ちゃんは浩美先生の方を振り向きます。


「おかしいなぁ? 完璧に変装したはずなのに」


「やっぱり、六面相小僧だったんですね!? 動かないで下さい! もし変な事したら、すぐこのスイッチを押します! そうしたら、本物の愛奈さんと勝希さんが飛んできますから!」


「知ってるよ。ベッドルームに盗聴機を仕掛けて、全部聞いてたから。でも、この暗闇じゃ、簡単にはこの部屋まではたどり着けないよ。ちょっとした仕掛けもしてあるから、ここに来るには頑張っても、もう少し掛かるんじゃないかな?」


「そ、そんな……!!」


 すぐには愛奈ちゃん達は来れない。その言葉に動揺して、浩美先生は反応が遅れてしまいました。

 偽愛奈ちゃんが浩美先生のすぐ目の前まで接近し、顔面にスプレーを吹き掛けてきました。


「あ……」


 スプレーは催眠ガスでした。浩美先生はスイッチを押す事も出来ず、眠ってしまいます。


「終わった?」


 浩美先生が倒れるのを見計らって、一人の女性が入ってきました。


「ああ。お前のおかげで簡単に侵入出来た」


「あんなの楽勝よ。じゃ、次の仕事に取り掛かるわね」


「頼む」


 偽愛奈ちゃんは野太い男の声になると、外に待機している一人の男性と一緒に浩美先生を連れていき、代わりに女性が入りました。



「くう~っ!」


 愛奈ちゃんは、相変わらずトリモチと格闘しています。しかし、どんなに足を引っ張っても、足踏みしてみても、トリモチは愛奈ちゃんの足に絡み付いていて、足を引き戻してしまいます。ねばねば、にちゃにちゃ。


「もう! どうしたら取れるの!? あ、そうだ。はああああああああああああああああああああ!!!」


 愛奈ちゃんは全身から闘気を放出させました。愛奈ちゃんの全身が、赤く輝きます。


「愛奈!!」


 同時に周囲が明るくなり、手探りで部屋から出てきた勇子ちゃん達は愛奈ちゃんの姿と、愛奈ちゃんを捕まえて動けなくしているトリモチの存在を確認します。


「このトリモチ、たぶん六面相小僧が撒いたんだと思う。愛奈、抜け出せそう?」


「ふんぬっ!」


 愛奈ちゃんは友香ちゃんの問い掛けに、行動で答えます。愛奈ちゃんが右足を持ち上げると、先程までしっかりと愛奈ちゃんの右足を捕まえていたネバネバの糸が、あっさり切れました。

 力を解放した愛奈ちゃんは、トリモチでも止められません。


「すぐ行くからね、浩美先生!!」


 愛奈ちゃんはトリモチの上を歩いて進みます。他のみんなは、友香ちゃんの念力で浮かべてもらって、トリモチを渡りました。

 そして、隠し部屋へ。


「浩美先生!!」


 愛奈ちゃん達は、部屋の中で下着姿で倒れていた浩美先生を発見します。


「大丈夫ざますか!? しっかりするざます!!」


「浩美先生大丈夫!?」


 栄子さんと勇子ちゃんが、浩美先生を助け起こしました。


「ごめんなさい……ゴールデンゴージャスを、盗まれました……」


「ゴールデンゴージャスはもういいざます。浩美先生が無事に済んだ事が一番いいざますから」


 栄子さんはゴールデンゴージャスを盗まれた事を気に病む浩美先生を、毛布を掛けながら慰めます。


「大変……でも今すぐ追いかければ、まだ見つけられるかもしれないわ!」


「行こう!!」


 六面相小僧がゴールデンゴージャスを盗み出して、まだそんなに時間は経っていないはずです。勇子ちゃんと友香ちゃん、栄子さんは外に出ようとします。

 しかし、なぜか愛奈ちゃんと勝希ちゃんだけは、その場を動こうとしません。


「何してるのよ二人とも!? 急がないと六面相小僧に逃げられちゃうわよ!?」


 勇子ちゃんが急かしても、二人は動きません。じっと、浩美先生を見ています。


「ど、どうしたんですか?」


 あまりに見つめてくるので、浩美先生はおどおどしながら訊ねます。

 すると、愛奈ちゃんが信じられない事を言いました。


「あんた誰?」


 それを聞いて、浩美先生は驚きます。勇子ちゃんもです。


「誰って、浩美先生に決まってるじゃない! なに意味のわからない事言ってるの!?」


「違う。この人は浩美先生じゃない」


「私も同意見だ」


「勝希も!?」


 なんと、愛奈ちゃんだけでなく、勝希ちゃんまでもが、この浩美先生を浩美先生ではないと言うのです。


「どんなに急いでも、私達が駆け付けるまで、ゴールデンゴージャスを脱がせて逃げるには、時間が足りない」


 愛奈ちゃんは直感で気付きましたが、勝希ちゃんは論理を立てて気付きました。

 そうです。愛奈ちゃん達が異変に気付いてここに来るまでは、五分程度しか経っていません。その間に隠し扉を開けて先生を気絶させ、ゴールデンゴージャスを脱がせて逃げるには、どう考えても時間が合わないのです。必ず愛奈ちゃん達と鉢合わせします。

 そこから導き出される答えは、一つでした。


「六面相小僧は単独犯ではなく複数犯。仲間にゴールデンゴージャスを浩美先生ごと盗ませ、代わりに別の仲間を浩美先生に変装させ、この隠し部屋に配置する。ゴールデンゴージャスを安全な場所で脱がせてから、また入れ替わるという作戦だったのだ」


「……チッ!」


 作戦を見破られた偽浩美先生は、すぐ逃げようとします。泥棒家業をやっているだけあって、その動きは素早いの一言。


「逃がさん!」


 しかし、相手が最悪でした。勝希ちゃんはそれを遥かに上回る速度で、偽浩美先生の逃げる先に回り込み、腹に当て身を喰らわせて気絶させました。

 それから、偽浩美先生の顔へと手を伸ばし、マスクを剥ぎ取りました。やはり、浩美先生と全く違う顔です。


「すまない。私の読みが浅かった。まさかここまで連中に見境がなかったとは……」


「あんたは悪くないわ」


「それより、早く六面相小僧を追い掛けようよ!」


「どうやってだ。お前でもわからんというのに」


 愛奈ちゃんは浩美先生の居場所がわかりません。それは、浩美先生が眠らされているからです。浩美先生が心の中で強く愛奈ちゃんを呼べば、愛奈ちゃんはそれに気付きます。しかし、呼べない状態ではそれは無理です。


(どうしよう……)


 友香ちゃんは、かつてないほど焦っていました。


(私のせいで浩美先生が……お母さんのゴールデンゴージャスが……!!)


 本来なら自分が解決しなければならない事を、友達に任せ、しかも失敗した。その事で、どうすればいいかわからず、混乱しています。

 それは、まだ小学生の友香ちゃんにとって、極限状態と呼べるもの。



 そして、彼女はまだ成長途中。進化を求める本能は、この極限状態で友香ちゃんに新たな力を目覚めさせました。




「!?」


 突然、友香ちゃんは頭痛を覚えました。それはもう凄まじい痛みで、立っていられないほどです。


「はぁ、はぁ……!!」


「友香!? どうしたの!?」


「友香!!」


 勇子ちゃんと栄子さんは、頭を押さえて倒れ込む友香ちゃんを支え、声を掛けました。


「う……ううっ……!!」


 頭痛は治まるどころか、どんどんひどくなっていきます。


(こ、これは……?)


 しかし、頭痛が悪化するごとに、友香ちゃんの脳裏に映像が浮かびます。

 その映像の中には、眠らされた浩美先生と、それを連れて外に出る偽愛奈ちゃん。そして、浩美先生に入れ替わる偽浩美先生が映っていました。


「くうっ!」


 そこで、映像が消えます。友香ちゃんはみんなに、今自分が見たものを伝えました。


「今私が見たのは、たぶん、この部屋に残っていた、残留思念だと思う」


「残留思念だと? ではお前、サイコメトリーが使えるようになったのか!?」


 人間は強い思いを胸に抱くと、その思いが自分がいる場所に残るといいます。それが、残留思念です。サイコメトリーとは、その残留思念を読み取る超能力の事です。

 友香ちゃんが新しく目覚めさせたサイコメトリーは強力だったので、残留思念を映像として、より鮮明に読み取る事が出来たのでした。


「すごいよ友香! これなら浩美先生を追い掛けられるよ!」


「私は今から浩美先生とゴールデンゴージャスを取り返しに行くから、お母さんはこの六面相小僧の仲間を警察に引き渡しておいて」


「……本当は親である私がやるべき事ざますけど、任せるざます。その代わり、この女はしっかりと警察に引き渡しておくざます!」


「お願い」


 友香ちゃん達は、六面相小僧の仲間の女性を栄子さんに任せると、サイコメトリーを使いながら、どこかに逃げたであろう六面相小僧を追い掛けました。


「こっち!」


 友香ちゃんは残留思念を読み取り、六面相小僧の逃走経路を割り出します。


「あっ……」


 と、友香ちゃんはある場所で立ち止まりました。


「どうしたの?」


「……ここに黒いワゴン車があるはずなのに、ない……」


「何?」


 勝希ちゃんは調べます。よく見てみると、車の轍が残っており、つい先程までここに停まっていた事が伺えます。


「一足遅かったか……!!」


「でもどこに行ったのかわからないんじゃ……」


 六面相小僧は、浩美先生からゴールデンゴージャスを脱がせて捨てる為、安全な場所に停まります。しかし、そんな場所はどこにでもあります。


「うっ!」


 せっかく浩美先生を助ける方法が見つかったのに、友香ちゃんはまたしても極限状態に。そんな友香ちゃんの脳裏に、新たな映像が浮かびます。



 それは、どこかの橋の映像。その橋の上を、黒いワゴン車が通り過ぎます。



「今のは……」


 友香ちゃんは今見た映像の内容を、愛奈ちゃん達に教えます。


「今のはたぶん、州部里橋だと思う」


 州部里橋とは、ここから商店会に繋がる、大きな橋の事です。しかし、ここは州部里橋ではないので、州部里橋の映像が映るのはおかしい事です。

 つまり、今見たものは残留思念ではなく、これから起きる出来事と、それが起きる場所。友香ちゃんは、未来を見たのです。


「サイコメトリーの次は未来予知か」


 なんと友香ちゃんは今夜だけで、二つも新たな力を覚醒させました。

 商店会の反対側には、広大な土手があります。そこで浩美先生を捨てるつもりなのでしょう。


「じゃあ州部里橋に回り込んで、待ち伏せだね!」


「待て高崎。未来予知は、まだ不確定要素が強すぎる能力だ。必ず当たる保証はない」


 愛奈ちゃんはもう待ち伏せするつもりですが、勝希ちゃんが待ったを掛けます。

 未来予知は、ざっくり言ってみれば占いと何ら変わらない能力なので、外れる可能性もあるのです。未来が見えたからと、全ての情報を鵜呑みにするのは、この状況では危険すぎました。


「あたしは大丈夫だと思うなぁ。だって友香の力だよ?」


 愛奈ちゃんはといえば、友香ちゃんを全面的に信用しています。


「私も同意見ね。第一、他に方法がないわ」


 勇子ちゃんも、愛奈ちゃんに同意しました。勝希ちゃんは、まだ渋っているようです。


「勝希――」


 そんな彼女に、友香ちゃんは言いました。


「――信じて」


 信じて欲しい。友香ちゃんが望んでいたのは、ただ一つだけです。


「……仕方ない。松下が言うように、他に連中を追い詰める手立てがないのも、事実だからな」


 勝希ちゃんは、ようやく折れました。


「ありがとう」


「じゃあ早速、州部里橋に向かって出発! いさちん、掴まって!」


「きゃっ……!」


 愛奈ちゃんは勇子ちゃんをお姫様抱っこすると、そのまま州部里橋に向かって飛んで行きます。


「よし、行くぞ!」


「うん」


 勝希ちゃんと友香ちゃんも、飛びました。六面相小僧の一味が渡りきるまでに、なんとしても辿り着かなければなりません。


「浩美先生の為なら、飛行機より速く飛んじゃうんだからね!」


「私の事もちょっとは考えてよ!」


 勇子ちゃんは風圧に耐えながら、愛奈ちゃんに文句を言いました。





 ◇◇◇◇





 一方。


「……んっ……?」


 浩美先生は、目を覚ましました。


「ここは……」


 それから、今まで自分に起きた事を思い出します。


(そうか、私捕まっちゃったんだ!)


 両手と両足を縛られている事に気付き、どうにか外そうともがきます。

 しかし、怪力の愛奈ちゃんや勝希ちゃん、念力が使える友香ちゃんならいざ知らず、非力な浩美先生では、とてもロープを引き千切れません。


「リーダー。お姫様が起きたみたいだよ」


「お? ずいぶん早いお目覚めだな。まだ着いてないのに」


 浩美先生を見張っていた男性が、別の男性に声を掛けます。

 このワゴン車には、浩美先生を除いて五人の人間が乗っていました。

 長身の男性、筋肉質な男性、女性が二人、そして、小学生くらいのとても小柄な男性。長身の男性がリーダーと呼んだのは、この小柄な男性です。


「俺達に盗ませない為にそいつを着てたんだろ? その勇気に敬意を表して、特別に教えてやろう。俺が本当の六面相小僧だ」


 その言葉を聞いて、浩美先生は反射的に理解しました。六面相小僧とは一味を意味する言葉であり、また同時にこの男性の事を差すという事を。

 それなら、六面相小僧の変装が、妙にバリエーション豊かな事にも説明が付きます。盗みに入る度、違うメンバーにその都度変装させればいいのですから。


「さて、それじゃあもう少し眠っててもらうぜ」


 六面相小僧はスプレーを取り出しました。


「こいつはさっき吹き付けたのとは違う。新しく作った、眠らせた相手の記憶を消すスプレーだ。こいつを使う必要はないかと思ったが、実験台になってくれよ」


 その為にわざわざ自分の正体を教えたのでしょう。浩美先生が逃げられないよう、長身の男性が浩美先生の頭を押さえます。


(愛奈さん!!)


 浩美先生は心の中で、強く愛奈ちゃんを呼びました。


「ん?」


 今はちょうど、州部里橋が見えてきたところ。と、筋肉質な男性が、何かに気付きます。

 車のライトが、州部里橋の入口を照らしていました。そしてそこには、愛奈ちゃんが仁王立ちしています。


「あ、あいつは!!」


 愛奈ちゃんの事は、この町では有名です。当然、六面相小僧一味も、愛奈ちゃんの事は知っていました。

 慌ててブレーキを踏み、Uターンしようとしますが、もう遅い。愛奈ちゃんは右手を向け、小さく圧縮した闘気を、指先から弾丸のように発射。タイヤを撃ち抜きます。


「友香」


 コントロールを失って突っ込んできたワゴン車を、真正面から受け止める愛奈ちゃん。


「大当たりだよ!!」


 その勢いで飛び上がり、フロントガラスごと長身の男性を殴り飛ばし、気絶させました。


「浩美先生は返してもらうからね!!」


「くそっ!!」


 筋肉質の男性が、入ってきた愛奈ちゃんを取り押さえようとします。

 が、実力は天地雲泥の差です。みぞおちを殴り飛ばされて、あっさりと気絶しました。

 六面相小僧達は、仲間が足止めしている間に脱出します。


「そこまでだ!!」


「泥棒なんかしてないで、真面目に働きなさい!!」


 しかし、勝希ちゃんが飛び蹴りで長身の男性を、勇子ちゃんがスーパーハリセンのツッコミで女性二人を、それぞれ無力化しました。


「お、お前らがいるという事は、あいつはバレたのか……!!」


 六面相小僧は動揺しています。そんな彼を、友香ちゃんは念力で空中に高く浮かべました。


「うおあ!?」


「私は今、すごく怒ってる。今まで生きてきた中で、一番怒ってる。だから――」


 友香ちゃんも浮かび上がり、六面相小僧の前まで移動します。


「――行ってきて。地球一周旅行」


「は!?」


 意味のわからない事を言われて、六面相小僧はさらに動揺しました。対する友香ちゃんは、念力を右の拳に込めて、


「必殺、フルパワーサイキックパンチ!!」


 全力で六面相小僧を殴りつけました。


「うおおおおおおあああああああああああああああ!!!」


 友香ちゃんに殴られた六面相小僧は、ソニックブームを起こしながら、後ろに向かって飛んでいきます。いや、背中が赤熱してます。


「いさちん! 友香! 勝希ちゃん!」


 ワゴン車から、浩美先生と一緒に愛奈ちゃんが出てきました。


「浩美先生!」


「皆さん! 来て下さったんですね!」


「六面相小僧との読み合いに負けた責任を取らねばならんからな」


「……っていうかさ、友香は何してんの?」


 愛奈ちゃんはいつまで経っても降りてこない友香ちゃんに、疑問を抱きます。



 と、



「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 今しがた彼方へ飛んでいったはずの六面相小僧が、友香ちゃんと真反対の方角から戻ってきました。本当に、地球を一周してきたのです。


「げぶっ!!」


 戻ってきた六面相小僧に裏拳を喰らわせ、叩き落とす友香ちゃん。


「これぐらいで勘弁してあげる。あとは警察の仕事」


 どうやら、怒りは収まったようです。友香ちゃんはゆっくりと降りてきました。


「うひゃ~。友香ってこんなに怖かったんだね……」


「いつも友香の怒りを味わってるくせに、わからなかったの?」


 勇子ちゃん呆れてます。まぁ今回は、今までのそれと比較にならないくらい激しいんですけどね。


「つ、捕まって……たまるか……」


 おっと。六面相小僧、これだけ強烈な怒りを浴びながら、まだ気絶していませんでした。


「うちの娘に何をする」


「がっ!」


 しかし、さりげなく現れた石動さんに踏みつけられて、今度こそ沈黙しました。


「友香パパ!?」


「どうしてここに!?」


 愛奈ちゃんと勇子ちゃんは驚きます。

 今まで全く触れていませんでしたが、当然栄子さんは今回の件について石動さんに電話していました。驚いた石動さんは、仕事で行っていた西表島から、急いで走ってきたのです。ええ、文字通りの意味で。


「間に合わないかと思ったんだが、この辺りが騒がしい事に気付いてね。間に合ってよかったよ」


「あ、あはは……」


 浩美先生は、苦笑いするばかりです。

 ともあれ、怪盗六面相小僧は愛奈ちゃん達の活躍で逮捕され、その不敗神話に終止符を打たれました。


「あたしは夏休みでも平常運転だから、何かあったらすぐ頼ってね!」


「はい! そうさせてもらいますね」


 慌ただしいスタートを切った、笑特小学校の夏休み。休みだろうとそうでなかろうと、愛奈ちゃんと浩美先生のラブロマンスはノンストップです。


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