第二十三話 ゴールデンゴージャスを守れ!!~怪盗六面相小僧~
笑特小。
夏の暑い日差しの中、同じく暑い体育館で、今日は一学期の終業式です。
進行役の先生が、次の項目を読みます。
「校長先生の挨拶」
(来たよ……)
勇子ちゃんはうんざりしました。校長先生の挨拶となれば、たいていどこの小学校でも、そんな気分になるでしょう。
そうなる理由は、だいたい校長先生のお話が長いからです。しかし、笑特小の生徒達は違います。この学校の校長先生のお話は、とても短いのです。
にも関わらず、早く終わって欲しい。いや、校長先生の挨拶自体なくして欲しいとさえ思う理由は、すぐわかります。
檀上に、ちょび髭のおじさんが上がりました。それと一緒に、肌が黒いおじさんも横に立ちます。
やがて、ちょび髭のおじさんが言いました。
「お鼻がボーン!」
意味不明です。あまりに意味不明な言動に、体育館の空気が凍り付きました。
そのすぐ後に、肌の黒いおじさんが言います。
「みなさん、おはようございます。校長の吉照です」
(今の自己紹介かよ!!)
何度も聞いた言葉ですが、勇子ちゃんは心の中でツッコミを入れました。
この学校の校長先生、吉照さんは、日本人の中でも独自の言語と動作でコミュニケーションを取る、吉々族という希少な一族の人間です。
吉々族のコミュニケーションは、地球に存在する全コミュニケーション法の中で最も難解とされており、聞いている感じでは滅茶苦茶な日本語を喋っているようにしか聞こえません。
そして、今それを通訳した肌黒のおじさん、言話通さんは、世界一の通訳さんです。その通訳のし方は独特で、相手がどんな意味を話しているのか、自分がどんな言葉で話せばいいのか、なんとなくわかるそうです。
そんな人だから、吉校長先生の通訳が出来るのは、この人しかいないのです。
「毛髪」
両手を挙げてぐにゃぐにゃさせる変なダンスをしながら、吉校長先生は挨拶を続けます。通さんが訳して、生徒達に伝えます。
「一学期最後の日を、みなさんと無事に迎えられた事、私は校長としてとても嬉しく思います」
(今の短い単語にそんだけの意味あったのかよ)
今すぐツッコミたくてたまりませんが、勇子ちゃんは必死に心の中だけに留めます。
「ケータイバカ。バカバカ」
今度は、腰を振りながら言いました。
「明日からいよいよ夏休みですが、くれぐれも、問題を起こさないよう、ルールを守って、楽しく過ごして下さい」
「アイヨアイヨ天使。パワーボム」
今度は、首を上下に激しく振ってから、言いました。
「みなさんに何かあると、ご家族もつらいですが、私達教師もつらいのです。無事故で、夏休みを楽しんで下さい」
「ペンギン、シロクマ、ライオン」
今度は、両手を左右に広げて、ぐにゃぐにゃさせています。
「みなさんの喜びは、私達にとっても喜びです。夏休みは一年に一回ですから、この夏だけの、最高の思い出を作って下さい」
透さんが訳してから、吉校長先生は、両手を下ろして、ゆっくり言いました。
「ただし、宿題を忘れないように。以上です」
「ただし、宿題を忘れないように。以上です」
「今の訳す必要なかったじゃん!!」
遂に耐えきれなくなった勇子ちゃんがツッコミました。校長先生は吉々語しか話せないというわけではなく、断片的に普通の日本語も話せるので、時々こうなります。
他の生徒や教師は顔を伏せていますが、全員同じ事を思っていました。
◇◇◇◇
友香ちゃんの家。
お母さんの栄子さんは今日は休みで、一人紅茶を飲んでいます。
「今頃笑特小では、校長先生の挨拶をしているざますね。あの校長先生、少しばかり奇抜なお方ざますけど、人柄はよい方で安心しましたざます」
吉校長先生について知った時は、こんな校長のいる学校に自分の娘を入れて大丈夫かなどと思ったものですが、特に何も問題はなく、友香ちゃんも楽しんでいるようなので、安心しました。
「奥様。郵便受けにこのようなものが」
と、ドアがノックされ、メイドさんが入ってきました。その手には、一通の封筒が握られています。
「まぁ、誰からかしら?」
栄子さんは封筒を受け取りました。封筒には、『要栄子様へ』と書いてあるだけで、差出人などが一切書いてありません。
差出人不明の封筒を破り、栄子さんは中に入っていた手紙を読みます。
全文読み終わった時、栄子さんはそこに書いてあった内容にショックを受けて、手紙を落とし、
「キャーーーーーーーー!!!」
両手で頬を押さえて、けたたましい声で悲鳴を上げました。
◇◇◇◇
「いや~、相変わらず何言ってるか全然わからなかったね! いさちんがツッコンだのも頷けるよ」
「あれでよく校長になどなれたものだ」
「いい人なのは間違いないんだけどね……」
「通訳がいなかったら、おかしい人にしか見えない」
教室でそんな会話をしながら、浩美先生が来るのを待っている愛奈ちゃん達。本当にあの人、通さんがいなかったらどうするんでしょうね。
「皆さん、席に着いて下さい」
そこへ、浩美先生が来ました。生徒達は、自分の席に戻ります。それからお知らせのプリントや、夏休みの宿題についてのプリントなどを配り、簡単な説明をしました。
「皆さん、今日までお疲れ様でした。明日からいよいよ、お楽しみの夏休みです。しばらく皆さんにお会い出来ないのは残念ですけど、私の分まで、たくさん楽しんで下さいね!」
今日まで自分と共に過ごしてくれた事、真面目に授業を受けてくれた事へのねぎらい。そして、夏休みに送り出す言葉を掛ける浩美先生。今日は愛奈ちゃんも、緩みきった顔ではなく、真面目な顔で話を聞いています。
と、浩美先生のお話が全部終わったところに、ちょうどチャイムが鳴りました。
「起立!」
日直の生徒が、号令を掛けます。
「礼!」
『ありがとうございました!!』
こうして、一学期最後の号令は終わりました。生徒達は、次々と帰り始めます。
「浩美先生!」
そんな中、愛奈ちゃん一人が、浩美先生のそばまで駆け寄ります。
「はい。愛奈さん」
いつものように、笑顔で応対する浩美先生。
「……またね!」
「はい!」
多くは話しません。だって、会いに行こうと思ったら、いつでも会えますから。
愛奈ちゃん達と別れて、友香ちゃんは家に帰ります。
「……?」
やがて見えてきた、見慣れた友香ちゃんの家。しかし今日は、何だか違う物も見えます。
「警察?」
家の前に、たくさんのパトカーが停まっているのです。嫌な予感を覚えた友香ちゃんは、家に向かって駆け出しました。
「お母さん」
「友香! 待っていたざます!」
家に着いてみると、栄子さんが警察から事情聴取を受けています。それ以外にも、あちこちに警察がいました。
「どうしたの? この騒ぎは何?」
「これを見て欲しいざます」
そう言って栄子さんが渡したのは、今朝届いたあの手紙です。友香ちゃんは手紙を受け取って、内容を読みました。
◇◇◇◇
「で、どうしたの?」
三十分後、愛奈ちゃん、勇子ちゃん、勝希ちゃん、浩美先生のいつものメンバーが集まりました。
「なんか愛奈が、親友のピンチとか言って呼び出してきたんだけど」
勇子ちゃんはちょっと迷惑そうです。浩美先生は、かなり困惑していました。友香ちゃんから電話で用件を聞いた愛奈ちゃんが、慌ててみんなを呼び出したのです。
「これを見て」
友香ちゃんは浩美先生に、自分も読んだ手紙を渡します。浩美先生は読み上げました。
『今夜19時に、ゴールデンゴージャスを頂きに参上します。怪盗六面相小僧』
「怪盗六面相小僧!? それって、あの!?」
浩美先生は驚きました。
怪盗六面相小僧とは、二年ほど前から話題になっている、凄腕の怪盗の事です。
まぁ一番話題になっているのは、ツッコミ所満載の名前ですが、そのおかしすぎな名前に反して、実力は本物。二年間警察から逃亡を続け、盗みを成功させ続け、しかも変装の達人である為に、正体は誰にもわからないとの事です。
ある国に現れた時は身長二メートルの大男で、またある都市に現れた時は小学生くらいの少年。またまたある館に現れた時は、マスクを着けた女性だったとも言われています。
「ゴールデンゴージャスというのは、あれか……」
勝希ちゃんは知っているようです。というか、前に栄子さんがテレビに出た時に紹介しました。
栄子さんは、世界で一番高級なドレスを作るというテレビの企画に出演した事があります。その時に作ったのが、ゴールデンゴージャスというドレスです。
「友香は、あたし達にゴールデンゴージャスを守って欲しくて、電話したんでしょ?」
「うん」
友香ちゃんからすれば、警察より愛奈ちゃん達の方が信用出来ます。だから、愛奈ちゃん達を呼んだのです。まぁ本当は愛奈ちゃんだけ呼ぶつもりだったんですが、六面相小僧の話を聞いて早合点した愛奈ちゃんが勝手に他のみんなを呼んだんですけどね。
「じゃあ、目的の品が近くにある方がいいね。ねぇねぇ友香ママ! ゴールデンゴージャス見せてよ!」
「えっ?」
「だって、いざという時守らなきゃいけないものが近くにないと、大変だよ?」
「……」
栄子さんは愛奈ちゃんの要求に、少し渋りました。何せ、ゴールデンゴージャスは狙われているのです。そう考えると、人目に見せるのははばかられます。
「……愛奈ちゃんなら大丈夫ざますね」
しかし、栄子さんは許可する事にしました。愛奈ちゃんは強いし、何かあったら守ってくれると思ったのでしょう。
「やったぁ! 生ゴールデンゴージャスだぁ!」
「本当によろしいんですか?」
浩美先生は確認します。ゴールデンゴージャスは、間違いなくこの家にとって一番の財産です。子供が相手とはいえ、おいそれと一般人に見せていいものではありません。
「ええ。それと、浩美先生にもご一緒して頂きたいざます」
「え、私もですか!?」
これは驚きです。栄子さんは許可した上に、浩美先生にも、ゴールデンゴージャスを見に来て欲しいと言いました。
「お願いざます!」
「わ、わかりました……」
しかも、お願いされました。栄子さんにそう言われては断るなど出来ず、浩美先生は承諾しました。
「せっかくだから、みんな来ていいざますよ。今夜が最後かもしれないざますから……」
「さ、最後だなんて、縁起でもない……」
栄子さんは勇子ちゃん達にも、ゴールデンゴージャスを見る事を許可します。盗まれるかもしれないので、娘の友達に見せてあげたいのです。
勇子ちゃんは大袈裟だと思いましたが、直後に、六面相小僧の盗みの成功率は、100%だという事を思い出しました。どんなに強固なセキュリティを用意しても、六面相小僧は狙った宝物を確実に盗んでしまうのです。
警察や愛奈ちゃんにもお願いしましたが、恐らく気休めぐらいにしかなっていないでしょう。
◇◇◇◇
「こちらざます」
愛奈ちゃん達が案内されたのは、栄子さんの自室でした。流石お金持ちだけあって、ベッドルームは広く、そして豪勢です。
栄子さんはベッドの隣に隠してあったテンキーを出すと、それに暗証番号を入力。すると、部屋の壁が開いて、隠し扉が現れました。
扉の奥の隠し部屋へと、愛奈ちゃん達を案内する栄子さん。その中央に、目的のゴールデンゴージャスは、マネキンに着せられた状態で安置されていました。
「おおう……」
それを見て、愛奈ちゃんは思わず呟きます。
そこにあったのは、金ぴかのドレスでした。金、金、金の、真っ金金のドレスです。金の手袋と、金のハイヒールもセットでした。本当に、全部金です。
それもそのはず。このゴールデンゴージャスは、特殊な製法で作り出した金の糸で織り込まれた、純金製のドレスなのですから。手袋とハイヒールも同じです。
「こ、これが、ゴールデンゴージャス……!」
「ま、眩しいです!」
ライトの光を反射して、黄金に輝くゴールデンゴージャス。あまりの眩しさに、勇子ちゃんと浩美先生は片手で顔を隠しています。
「付けられた価値は5000兆円。まったく、よくこんなものを作る気になったものだ」
勝希ちゃんにとって衣服などというものは、着れて、見栄えさえよければ、何でもいいのです。それにそんな高額な価値を付けるなど、常軌を逸しているとしか言えませんでした。まぁ勝希ちゃんほどではないにしても、大半の人がそう思うでしょう。
「お金持ちが考えてる事なんて、あたしにはわかんないや」
そういう愛奈ちゃんの頭の中は、お金持ち以上に考えている事がわからないんですけどね。
「このドレスを作る事は、私の服飾デザイナーとしての人生を懸けた、まさしく一世一代の挑戦だったざます。これこそ、間違いなく私の最高傑作」
しかし、栄子さんはプロの服飾デザイナーです。彼女からすれば真面目も真面目、大真面目です。愛奈ちゃんが浩美先生の為に気孔術に打ち込んでいるのと、同じ事なのです。
「そのドレスを、浩美先生、あなたに着て欲しいざます」
「えっ!? え、ええっ!?」
意味のわからない提案に、浩美先生はかなり困惑しました。しがない学校の先生に、5000兆円相当の純金製ドレスを着る相手になって欲しいなど、正気を疑う発言です。
「わ、私なんかで、いいんですか?」
「浩美先生だから、いいざます」
衣服とは、飾っておくものではありません。着てくれる相手がいて、初めて作った意味があるのです。栄子さんは、世界で一番高価なドレスを作ろうと思いながら、このドレスに相応しい人間に現れて欲しいとも思っていました。
「以前寸法を計った時の事、覚えて下さっているざますか? あの時お計りした寸法、このゴールデンゴージャスとぴったりだったざますよ」
「そうだったんですか!?」
そういえば、栄子さんは以前家庭訪問に来た時、あの服を着れるかもしれないと言っていました。あれは、ゴールデンゴージャスの事だったのです。
「私としても、最後に着て頂ける方が友香の先生なら、悔いはないざます。どうか着て欲しいざます」
浩美先生にお願いする栄子さんの目は、本気でした。元々『押し』に弱い浩美先生は、こういう覚悟を決めた本気の眼差しに、特に弱いです。
「わかりました。謹んでお受けします」
「ありがとうざます!」
栄子さんは感激して喜び、早速ゴールデンゴージャスを浩美先生に試着してもらいます。
あの時、計った通り、浩美先生の身体は、ゴールデンゴージャスにピッタリでした。
「おお……!」
愛奈ちゃんは感嘆の声を上げます。勇子ちゃんは言葉を失い、友香ちゃんや勝希ちゃんですら息を呑みました。
「わあ……!」
浩美先生も自分の身体を見ながら、同じ声を上げます。
「全部金で出来てるって聞いたから、絶対重くて動けなくなっちゃうって思ってましたけど、全然そんな事ないです!」
浩美先生は手袋とスカートを見ながら言いました。金だというのに、絹のようにとても軽く、しかも肌触りは布のそれで、金属質を一切感じさせません。
「材料だけじゃなくて、私の技術による加工も、価格に含まれてるざます。どんな技術で加工したかは、企業秘密にさせて頂くざますが」
こんな技術が漏洩したら大変な事になりますからね。いくら浩美先生でも、こればかりは教えられません。
「浩美先生すごい! まるでお嬢様みたい! 今すぐ結婚しよ!」
「話が飛躍しすぎ!!」
「ウェディング!!」
浩美先生の姿がとても美しかった為、愛奈ちゃんが案の定興奮しましたが、勇子ちゃんにツッコミを入れられて沈黙させられました。
「素晴らしいざます。私も正直に言って、生きている間にこのドレスを着られる人間を見つけられるとは、思っていなかったざますから、これでもう悔いはないざます」
まるで最後の別れであるかのように、目を細める栄子さん。その目を見て、友香ちゃんは愛奈ちゃんに言いました。
「お願い愛奈。私、絶対にお母さんが作ったこのドレスを、盗まれたくない。でも私、念力しか使えないから、私一人の力じゃ、守れそうにないの……」
他にもいろんな超能力が使えれば、愛奈ちゃんを頼る事はありませんでした。しかし、相手の力は未知数で、どんな手を使ってくるかもわからないのです。友香ちゃん一人の力では、とても防ぎきれそうにありません。
「友香!」
そんな友香ちゃんの両肩に、愛奈ちゃんは手を置きました。
「あたしと友香は親友でしょ? 友達が困ってるなら、助けるのが友達だよっ!」
「愛奈……」
愛奈ちゃんはこう見えて、友情に厚い女の子です。浩美先生のピンチにはもちろん駆けつけますが、友達のピンチだって絶対に見過ごせません。
「……仕方ないわねぇ。ほんとは怖いけど、愛奈が暴走しないように私も一緒にいるわ。今日から夏休みだし」
「勇子……」
「いさちん!」
「前道グループの娘が、世間を騒がす悪党を捕らえたとあれば、また私の家系に箔がつく。私も警護に当たろう」
「勝希……」
「私にも協力させて下さい。要さんには、いつもお世話になっていますから。といっても、私に出来る事なんてないかもしれませんけど」
「浩美先生……」
友香ちゃんとお母さんのピンチに、みんなすっかりやる気です。
「みんな、ありがとう」
「皆さん、ありがとうざます!」
これには普段あまり感情を出さない友香ちゃんも、栄子さんも一緒になって喜びました。
「で、肝心のどうやってドレスを守るかだけど、どうしたらいいかわかんない。浩美先生、何か作戦とかある?」
愛奈ちゃんは浩美先生に訊きました。こういう時は、大人の知恵の出番です。
「そうですね……やっぱり、まずは盗みにくい環境を作る事が大切だと思います。たくさん警察の人をこの部屋に呼んで」
「それでは逆効果だ」
「えっ?」
浩美先生の話に、勝希ちゃんが割り込みました。
「普通の泥棒ならそれでいいだろうが、相手は変装の達人だ。もう警官に変装して、この屋敷に紛れ込んでいる可能性がある。そんな状態でゴールデンゴージャス周りの人員を増やせば、かえって付け入る隙を与えてしまう。盗んでくれと言っているようなものだ」
「ちょ、ちょっと待ってよ! じゃあ、怪盗六面相小僧は、もうここに来てるって事!?」
「可能性の話をしただけだが、まぁそう考えるのが普通だろう。少なくとも、私が怪盗の立場ならそうする」
愛奈ちゃんは驚きました。勝希ちゃんの予想が的中しているなら、警察は誰も信用出来ません。今頃は、警備するふりをしながら、警官の数と、配置されている場所、巡回ルートを確認している、といったところでしょうか。
「警備するなら、私達だけで、それも必要最低限の人員を配置するべきだ」
「おお……勝希ちゃん名探偵みたい……」
どんな方法で変装しているかは不明ですが、六面相小僧は小学生のような低身長にも変装出来るので、愛奈ちゃん達がいるといっても安心は出来ません。
しかし、誰もそばにいないと、セキュリティーを破られてこの部屋に侵入された時、ゴールデンゴージャスを守れません。
「それなら、私はこのドレスを着たまま、ここにいます。私が見張っているだけでも、少しは状況が違います」
「浩美先生!? そんなの駄目だよ! 危ないよ!」
浩美先生の考えに真っ先に反応したのは愛奈ちゃんです。万が一の場合、浩美先生はたった一人で、六面相小僧と相対する事になってしまいます。
「ドレスを着たままの状態なら、いくら六面相小僧でも盗むのに手間取るはずです。その間に、愛奈さんが来て下さればいいですから」
「浩美先生……」
もちろん承知の上です。しかし今ゴールデンゴージャスを着れるのは浩美先生だけで、他に着れる人を探すには時間が掛かりすぎます。これは愛奈ちゃんを信頼しているからこそ出来る、一つの賭けでした。
「危険ではあるが、確かに有効だ。それなら……」
何かを思い付いた勝希ちゃんは、スマホを取り出して誰かに連絡した後、外に出ました。
数分後。
「待たせたな。浩美先生、何かあったらこれを押せ」
戻ってきた勝希ちゃんは、片手で持てるスイッチを浩美先生に渡しました。
「これは?」
「防犯ブザーのスイッチだ。このスイッチは、私が持っているこのブザーと連動している」
そう言いながら、勝希ちゃんはブザーを出します。このブザーは執事さんが持っている物なのですが、今日は執事さんと一緒に来ていたので、駐車場で待たせている執事さんを、スマホで呼び出して来てもらったのです。
しかし、この部屋の事を知っている人間は、出来るだけ抑える必要があるので、外でもらってきました。
「この部屋の事は、もう警察に教えたのか?」
「え、ええ……」
仕方ない事ですが、栄子さんはこの部屋の事を警察に教えた後です。それはもういいので、警察をこの部屋から遠ざけ、少数人数で、この部屋と浩美先生を守ります。
「今から一時間ごとに、高崎を確認に向かわせる。今夜19時を過ぎるまでは、高崎以外誰もこの部屋に来ない。それでいいだろう」
愛奈ちゃんが確認役になるなら、安全です。
「じゃあそのブザーは、私が持つね」
「お前は先生の危険を感じ取れるだろうが」
「あ、そっか」
勝希ちゃんは愛奈ちゃんと違って、浩美先生に危険が迫っても感知出来ません。だから、ブザーは勝希ちゃんが持ちます。
「じゃあ私はこの腕時計をお貸しするざます。一応ここには、外部との連絡用にインターホンを取り付けてるざますが……ブザー以外は使わない方がいいざますね」
栄子さんが浩美先生に、自分の腕時計を外して貸します。
それから、愛奈ちゃんにお願いして、椅子や雑誌、布団など、くつろげるものを部屋に運び込みました。犯行予告の時間までまだかなり余裕がありますから、これで暇潰しをします。
「じゃあ浩美先生、何かあったらすぐスイッチを押してね。あたしと勝希ちゃんが、すぐ駆け付けるから!」
「はい。ありがとうございます」
必要なものは全て用意しました。愛奈ちゃん達は浩美先生を残して、退室します。
「今14時か……」
浩美先生は腕時計を見て、現在の時間を確認しました。次に愛奈ちゃんが来るのは15時。
六面相小僧が現れるまで、残り六時間。
◇◇◇◇
「浩美先生大丈夫かしら?」
勇子ちゃんは心配しました。問題の部屋に警官は一切配置せず、玄関や他の部屋の出入口を警備させ、部屋はセキュリティ―のみが守っている状態。
とても不安ですが、六面相小僧が相手である以上、仕方ありません。しかし、愛奈ちゃん達はすぐ隣の部屋で待機していて、何かあった時の為に浩美先生に防犯ブザーのスイッチを持たせているので、大丈夫だとは思いますが。
「愛奈。時間」
「あれ、もう?」
友香ちゃんが時計を指差し、15時になった事を伝えます。愛奈ちゃんはこの一時間、ずっと修行をしていたので、促されるまで気付きませんでした。もっとも、身体を痛めない精神統一の修行ですが。
「愛奈ちゃん。暗証番号は覚えているざますか?」
「もちろんだよ、友香ママ!」
部屋を出てからすぐ、愛奈ちゃんは栄子さんから暗証番号を教えてもらいました。ちなみに、教えてもらったのは愛奈ちゃんだけです。これも、安全を考慮してでした。何せ相手は泥棒です。尋問して暗証番号を割らせようとするかもしれません。
「見回りは短時間で済ませろ。覚えているな?」
「記憶力はいい方だからね。それにしても、つらいなぁ……」
「我慢しろ。19時を過ぎるまでの辛抱だ」
すぐそばにいるのに、浩美先生とお話出来ないのはとてもつらいですが、友香ちゃんの為にも我慢しなければなりません。
「えーっと……」
テンキーに暗証番号を入力し、隠し扉を開く愛奈ちゃん。
「浩美先生!」
「愛奈さん」
浩美先生は部屋の中で、雑誌を読みながらくつろいでいました。
「大丈夫だった!? 変な人とか来なかった!?」
「大丈夫ですよ。愛奈さん以外、誰も来ませんでした」
セキュリティーが破られた痕跡もなく、浩美先生が誰かに乱暴された様子もありません。無事です。
「よかった……見回りは短めにして、って勝希ちゃんがうるさいからもう行くけど、何かあったら本当に呼んでね?」
「はい。遠慮なくブザーを鳴らしますね」
愛奈ちゃんは別れを告げると、何度も振り返りながら、部屋を出て、セキュリティ―を掛け直しました。
「まず一回目の見回りは、問題なし、と……」
浩美先生も、愛奈ちゃんが来て少し安心していました。
(それにしても、このドレス、すごいわね……)
腰掛けたり、寝転んだりしても、ゴールデンゴージャスにはしわ一つ付きません。金の糸という、服に使う素材としては実用性皆無の素材を、ここまでの一品に昇華させた栄子の腕は、驚嘆に値します。
「絶対に守らなくちゃ」
愛奈ちゃんが思っているように、浩美先生もまた誓いました。
◇◇◇◇




