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エクストリームガールズ!!  作者: 井村六郎
夏期激闘編
22/40

第二十二話 さらばレイジン、また会う日まで

前回のあらすじ


暴走するクリエイターリビドン。その力は凄まじく、レイジン達は追い詰められる。

参戦する愛奈達。果たして、元の世界に帰れるのか?

「やああああああっ!!」


「はぁっ!!」


 愛奈ちゃんと勝希ちゃんが飛び込み、棒人間達を蹴り飛ばします。


「輪路さん!!」


 勇子ちゃんは、レイジンの隣に並び立ちました。


「何やってんだ! こいつは俺達に任せろって言ったろ!」


「私だってこんな怖い事ホントは嫌ですけど、輪路さん達のピンチは見過ごせません。だって、ファンですから!」


「もしそれで元の世界に帰れなくなったらどうする!?」


 レイジンは警告しました。ここはレイジンの世界。黒城殺徒という危険すぎるリビドンが存在する、超危険な世界です。帰れなくなったら、一体どんな事になるか……。


「帰してくれますよね? 私が知ってる輪路さんは、そういう人です」


 しかし、勇子ちゃんは知っていました。やると決めたら、どんな障害が立ちはだかろうと、必ずやり遂げる。聖神帝レイジンの資格者廻藤輪路とは、そういう人間です。


「……ったく、生意気言いやがって」


「子供ですから」


「違いねぇ」


 輪路さんは、白銀の仮面の下で笑いました。


「これほどまでの力を得てしまっては、無力化は困難だ」


 ヒエンは告げます。ここまで強くなってしまうと、もはや上級リビドンです。成仏させずに無力化するというのは、かなり難しいでしょう。


「まぁ何とかするさ。例えば、心を折る、とかな」


 こうなったら、クリエイターリビドンを成仏させないギリギリの力で叩きのめし、抵抗する気が起きないよう、心を折るしかありません。


「やれるか、勇子?」


「はい!」


 レイジンの問い掛けに、勇子ちゃんは力強く返事します。並び立つ勇子ちゃんを、戦力外とは思いません。あのカルロス相手に、一撃浴びせるほどです。


「仕方ないな。露払いは任せろ!!」


 レイジンと勇子ちゃんを勝利に導く為に、奮闘を続ける二人とともに、ヒエンも戦います。


「はあああっ!!」


「やあああっ!!」


「おおっ!!」


 ヒエン、愛奈ちゃん、勝希ちゃんが、全力の攻撃を叩き込んで、棒人間三体を消滅させました。残る一体は、クリエイターリビドンを守るように、立ちはだかります。奇しくもそれは、クリエイターリビドンが一番最初に描いた一体でした。


「負けるか!!」


 クリエイターリビドンは、ペンに自分が持てる全ての霊力を込めて、空中に絵を描きます。

 彼が生前、棒人間の次に描いたのは、武器でした。まだ絵を描くのが下手で、キャラメイクが上手くいかなかったのです。

 先に武器を描けば、そこから自分が理想とするキャラの造形が出来るかもしれない。そう思ったのです。

 彼が最初に書いた武器は、巨大なエネルギーキャノンでした。それを思い出し、クリエイターリビドンはエネルギーキャノンを描写、実体化させ、棒人間に装備させます。

 手抜きにしか見えない棒人間が、妙に精巧に描かれたエネルギーキャノンを担ぐ。不釣り合いとしか言いようのない姿ですが、それが滑稽な見た目に騙されてはいけない危険な姿だという事を、レイジンは知っています。


「消し飛べ!!」


 クリエイターリビドンが叫ぶと、エネルギーキャノンにエネルギーが集まり始めます。


「喰らうか!! 俺の力を見せてやる!!」


 対して、レイジンはシルバーレオを掲げました。すると、レイジンの身体から六つの光る石が飛び出し、融合したのです。

 今出てきたのは、霊石。聖神帝の激情の爆発によって生まれる力です。作れる霊石の種類や数は聖神帝によって違いますが、レイジンが出せる霊石は、火、土、水、力、技、速さの六種類。

 それら全ての霊石を使った聖神帝、全霊聖神帝へと、レイジンは強化変身しました。現時点で出せる、レイジンの全力です。


「させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 ですが、レイジンを妨害しようと、カルロスが飛んできました。憎悪でパワーアップしたカルロスが、友香ちゃんの念力を突破したのです。


「危ない、逃げて!」


 カルロスはまっすぐにレイジンに向かって飛んでいき、友香ちゃんは逃げるよう言います。


「あ、ヤバい!」


 愛奈ちゃんは焦りました。レイジンと勇子ちゃんは、棒人間、及びクリエイターリビドンの撃破に、集中しなければなりません。

 かといって、リビドンにダメージを与えられない愛奈ちゃんでは、カルロスを止められないのです。


「俺が!!」


 飛び出そうとするヒエン。



 その時、



「愛奈さん! 松下さん達を守って! 頑張って下さい!」



 浩美先生が、愛奈ちゃんに声援を送りました。


「!! 浩美先生!!」


 その声援を受けた愛奈ちゃんは力を増し、


「うおおおおおおおおおおお!!!」


「お、おい!?」


 ヒエンを無視し、カルロスに向かって飛んでいくと、


「リビドンがなんぼのもんじゃああああああああ!!!」


 そのまま顔面を殴り付けました。


「ぐおがっ!!」


 カルロスは愛奈ちゃんの拳を受けて、地面に叩きつけられます。


「は!?」


 凶悪なリビドンであるカルロスが、幼女に殴り飛ばされる。シュールな光景に、ヒエンは目を疑いました。


「な、何だ、今のは!? この俺が、ダメージを受けただと!!?」


 カルロスは愛奈ちゃんに殴られた頬を押さえて、とてつもなく驚いていました。

 何度も言いますが、霊体であるカルロスは、物理攻撃によるダメージを受けません。

 しかし、カルロスの頬には、殴られた感触が、その痛みが、間違いなく残っていました。愛奈ちゃんはカルロスに、ダメージを与えたのです。


「馬鹿な!! あのガキにそんな力はなかったはず……!!」


 マンガを隅々までしっかり読みましたが、愛奈ちゃんが霊体と戦えるとは描いてありませんでした。


(いや待てよ? そういえば一回だけ、こいつは悪霊を倒した事がある。だがその時は、拳じゃなかったはずだ!)


考えるカルロス。


「やった! 手応えがあったよ! あたしってやれば出来るんだね!」


 愛奈ちゃんも、自分の攻撃がカルロスに通じると、気付いたようです。


「そういえば思い出したよ! 闘気なら通じるよねっ! 紅蓮情撃波ーーーー!!」


 それならもう怖くありません。一気に畳み掛けるのみです。愛奈ちゃんはカルロス目掛けて、紅蓮情撃波を放ちました。よくよく考えたら、愛奈ちゃんは悪霊を闘気で倒した事があります。


「うおあっ!!」


 吹き飛ぶカルロス。


「……ん?」


 しかし、今度は全く効いておらず、カルロスは普通に起き上がってきました。


「あれ!? どうして!?」


 愛奈ちゃんは再び焦ります。こちらとあちらでは幽霊の設定が違うから、効かないのでしょうか。


「もしかして……浩美先生! もう一度愛奈ちゃんを応援してあげて下さい!」


「えっ? は、はい!」


 何かに気付いた美由紀さんが、浩美先生にお願いします。


「愛奈さん頑張って下さい!」


「っ!! 浩美先生!! うおおおおおおおおおおおおおおおお!!! やるぞーっ!! 高崎流気孔術奥義、紅蓮情撃波ーーーっ!!!」


「ぐおああああああああああああああ!!!」


 浩美先生からの声援で、再度やる気を出した愛奈ちゃんは、もう一度紅蓮情撃波を撃ちました。カルロスの絶叫から察するに、今度は効いたようです。


「やっぱり! 愛奈ちゃんは浩美先生の応援で、いつも以上の力が出せるんです!」


 美由紀さんの予想は当たっていました。


「あの時と同じか……」


 勝希ちゃんはデジャヴを感じています。同じ方法で負けたのが、勝希ちゃんだからです。

 カルロスも、浩美先生からの声援で、愛奈ちゃんが急激にパワーアップする事は知っていましたが、まさか霊体に闘気以外の攻撃が通るほどパワーアップするとは思っていなかったので、完全に油断していました。こんな事、いくら知能犯のカルロスとはいえ、予想出来るはずがありません。

 しかし、これが愛奈ちゃんです。浩美先生大好きパワーで、設定さえもねじ伏せてしまいます。


「邪魔者は片付けたよ!! いさちん!! 輪路さん!! 思いっきりやっちゃって!!」


 愛奈ちゃんは二人に、クリエイターリビドンを遠慮なく倒すよう言います。

 それを聞いて、レイジンは身構えました。まだ、仕掛けません。


「これで終わりだ!!」


 クリエイターリビドンが叫び、棒人間が巨大なエネルギー弾を撃ちます。

 これです。レイジンはこれこそを、待っていました。


「オールレイジンスラァァァァァァァァッシュ!!」


 シルバーレオを振るい、霊力の斬撃を飛ばします。斬撃はエネルギー弾を両断し、棒人間に向かって飛んでいき、棒人間を巻き込みました。

 オールレイジンスラッシュ。自分の霊力に霊石の力全てを上乗せして放つ、全霊聖神帝レイジンの最強の技です。

 流石の棒人間もこれには耐えられず、消滅しました。


「バカな……クソッ!!」


 クリエイターリビドンは空中に逃れます。彼の技術の集大成を、さらに上回る力で破壊すれば、心を折れると思ったのですが、どうやらまだ足りないようです。


「他の人に認めてもらいたいっていうのはよくわかるわ。私だってときどきそう思うもん」


 その時、勇子ちゃんの声が聞こえました。クリエイターリビドンは驚いて周囲を見回しますが、勇子ちゃんの姿はありません。


「でもね、いくら認めて欲しいからって――」


 次の瞬間、勇子ちゃんが目の前に現れ、


「他作品のキャラに迷惑掛けてんじゃねぇぇ―っ!!!」


 全力でクリエイターリビドンを真上に、スーパーハリセンで打ち上げました。


「ぎゃああああああああああああああああ!!!」


 クリエイターリビドンは断末魔を上げ、螺旋を描きながら飛んでいきます。

 数十秒後、自由落下でべちゃっと地面に叩きつけられました。霊体だから痛みはないとはいえ、やっぱり痛そうです。


「くそっ! 今度こそ勝てると思ったのに!」


 既に勝機を逸したと見たカルロスは、仕方なく悪態をついて冥界に逃げ帰りました。





 ◇◇◇◇





「さあ、今すぐ私達を元の世界に戻しなさい!」


 クリエイターリビドンを降した勇子ちゃんは、彼を倒した本来の目的を果たす為に、詰め寄りました。


「わ、わかりました……」


 どことなく元気がないクリエイターリビドン。自分の全力を懸けて描いたキャラが破られ、勇子ちゃんから渾身のハリセンを喰らい、完全に心が折れたようです。


「ねぇいさちん。ちょっと早すぎない? 佐久真さん達と挨拶とかした方が……」


「悪いが、そんな時間はない。こいつはもう、リビドン化が解け始めている。急がないと、こいつの力が失われてしまう」


 あまりにもあっさりと帰ろうとする勇子ちゃんに、苦言を呈した愛奈ちゃんでしたが、翔さんが言う通り、勇子ちゃんの判断は正しいものでした。

 憎しみが存在の原動力となっているリビドン。その心を無理矢理負ったので、まだ憎しみは残ったままですが、それでもその感情は少しずつ消えつつあります。いつリビドン化が完全に解けてしまうかわからない今、一刻も早く帰還する事が、輪路さん達の為に出来る事なのです。


「これ以上輪路さん達に迷惑、掛けられないわ」


「……まぁ、そうだよね……」


 愛奈ちゃん、残念そうです。


「でも、勇子はもっと残念」


「よくわからないが、奴はこの作品のファンなのだろう? なら、我々よりも思い入れは強いはずだ」


 友香ちゃんと勝希ちゃんは、勇子ちゃんの気持ちを察しています。


「さあ、早く帰るわよ」


 勇子ちゃんは、これ以上留まっていたら別れがつらくなるとばかりに、帰還を急かしました。

 帰り方は簡単です。クリエイターリビドンが力を使うのに合わせて、四人が力をぶつけるだけ。つまり、来た時と同じ事をすればいいのです。


「皆さん、短い間でしたが、お世話になりました。この御恩は忘れません」


「いえ、私達の方こそ、ありがとうございました」


 せめてと、浩美先生と美由紀さんが挨拶します。

 愛奈ちゃんが闘気を、勝希ちゃんが暗黒闘気を、友香ちゃんが念力を、それぞれ拳に込め、勇子ちゃんがスーパーハリセンを取り出します。


「勇子!」


 その瞬間に、輪路さんが勇子ちゃんを呼びました。


「あー……その、なんだ。向こうでも、まだ俺のファンでいてくれたら嬉しい。本物に会って幻滅したかもしんねぇが」


「!!」


 振り向いた勇子ちゃんに、輪路さんはばつが悪そうに言います。

 輪路さんは、幽霊関係以外では、とても不器用な人です。今のは、何か言わなきゃいけないと思って、でもこれ以外に言う事が思い付かなくて、やっぱり言おうと、不器用ながらの、輪路さんなりの励ましなのです。

 もちろん勇子ちゃんは、輪路さんがこんな人だという事を知っています。だって、ファンですから。


「輪路さんは、私にとって永遠のヒーローです」


 だから勇子ちゃんは、そう返しました。

 その直後、クリエイターリビドンはマンガにペンを刺し、四人は力をぶつけ、愛奈ちゃん達はこの世界から消えました。


「……何だよ?」


 輪路さんは、美由紀さんがこちらを見て笑っている事に気付きます。


「いえいえ、何でも」


 美由紀さんは笑って返します。


「お前が永遠のヒーローだとよ」


「あの子の性格が歪まなければいいがな」


「うるせぇよお前ら!! ほら、最後の仕上げをするぜ!!」


 からかってくる三朗と翔さんに対して、輪路さんは強引にごまかし、クリエイターリビドンに向き直りました。

 そうです。最後の仕上げとは、クリエイターリビドンを成仏させる事です。


「やっぱり俺、成仏しなきゃいけませんか?」


 クリエイターリビドンは尋ねました。輪路さんは、少し言葉に詰まります。幽霊を成仏させる際、幾度となく聞いてきた問い掛けですが、やはりこたえるものがあります。


「ああ。残念ながらな」


 ですが、それでも成仏させなければなりません。


「……そうですか……」


 クリエイターリビドンは残念そうです。漫画家になるという夢を果たせないまま、成仏しなければならないのですから。

 しかし、さっきほどの抵抗はありませんでした。頭が冷えた今、自分が何をしていたのか、誰に協力していたのか、事の重大さと恐ろしさが、少しずつわかってきたからです。


「……だが……」


 と、輪路さんは続けました。


「お前のキャラが強かったのは確かだ」


 クリエイターリビドンが描いた棒人間に込められた想いを、輪路さんは確かに感じたのです。そうでなければ、輪路さんが苦戦するはずがありません。


「そうですか……ありがとうございます……」


 その一言で、クリエイターリビドンは報われました。彼がリビドンになった理由は、誰かに自分のマンガを認めてもらいたかったから。それも、殺徒やカルロスのような死者ではなく、生きている人間に。

 強かった。想いが伝わった。その一言を聞くだけで、充分だったのです。

 クリエイターリビドンは浄化の霊力を浴びる必要もなく、元の霊体に戻り、成仏して消えていきました。


「これで今度こそ、本当に終わりだ」


「ああ。結界を解くぜ」


 自分達が果たすべき責務を終えたと察した三郎は、カルロスから引き継いだ結界を解きます。


「ったく、承認欲求ってのは厄介なもんだ」


「そうですよね。誰かに認めてもらう為には、手段を選ばない人って多いですし」


 美由紀さんは輪路さんの呟きに同意しました。確かに、その通りです。手段も、頼る相手も選ばない。だから殺徒達黒城一派のような、危険極まりない集団に、その承認欲求に目を付けられ、利用されてしまうのです。


「そう考えてみると――」


 輪路さんは、美由紀さんをじっと見つめました。


「俺はかなり恵まれた方だな」





 ◇◇◇◇





 目が覚めた時、四人は勇子ちゃんの自室で、倒れていました。浩美先生も、自分の部屋で目を覚まします。


「やった! 帰ってきた! あたし達帰ってきたよ!!」


「どうやらそのようだな」


 愛奈ちゃんは帰還を喜び、勝希ちゃんは右手で頭を押さえながら起き上がります。


「そうだ、浩美先生が戻ってきたかどうか、確かめに行かなきゃ!」


 そして起き上がるが早いか、愛奈ちゃんは浩美先生の家に向かって行きました。


「……何だか、夢を見ていたみたい」


 友香ちゃんは、自分が特撮番組の世界に行っていたという事を、未だに信じられません。


「ううん。夢じゃない」


 しかし、夢ではありません。

 なぜなら、勇子ちゃんの服のポケットの中には、輪路さんにサインをもらった、レイジンのシールが入っていたからです。


(こっちも夢じゃありませんよ)


 直後に、頭の中にテアーラさんの声が聞こえて、勇子ちゃんは最悪の気分になりました。

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