第二十二話 さらばレイジン、また会う日まで
前回のあらすじ
暴走するクリエイターリビドン。その力は凄まじく、レイジン達は追い詰められる。
参戦する愛奈達。果たして、元の世界に帰れるのか?
「やああああああっ!!」
「はぁっ!!」
愛奈ちゃんと勝希ちゃんが飛び込み、棒人間達を蹴り飛ばします。
「輪路さん!!」
勇子ちゃんは、レイジンの隣に並び立ちました。
「何やってんだ! こいつは俺達に任せろって言ったろ!」
「私だってこんな怖い事ホントは嫌ですけど、輪路さん達のピンチは見過ごせません。だって、ファンですから!」
「もしそれで元の世界に帰れなくなったらどうする!?」
レイジンは警告しました。ここはレイジンの世界。黒城殺徒という危険すぎるリビドンが存在する、超危険な世界です。帰れなくなったら、一体どんな事になるか……。
「帰してくれますよね? 私が知ってる輪路さんは、そういう人です」
しかし、勇子ちゃんは知っていました。やると決めたら、どんな障害が立ちはだかろうと、必ずやり遂げる。聖神帝レイジンの資格者廻藤輪路とは、そういう人間です。
「……ったく、生意気言いやがって」
「子供ですから」
「違いねぇ」
輪路さんは、白銀の仮面の下で笑いました。
「これほどまでの力を得てしまっては、無力化は困難だ」
ヒエンは告げます。ここまで強くなってしまうと、もはや上級リビドンです。成仏させずに無力化するというのは、かなり難しいでしょう。
「まぁ何とかするさ。例えば、心を折る、とかな」
こうなったら、クリエイターリビドンを成仏させないギリギリの力で叩きのめし、抵抗する気が起きないよう、心を折るしかありません。
「やれるか、勇子?」
「はい!」
レイジンの問い掛けに、勇子ちゃんは力強く返事します。並び立つ勇子ちゃんを、戦力外とは思いません。あのカルロス相手に、一撃浴びせるほどです。
「仕方ないな。露払いは任せろ!!」
レイジンと勇子ちゃんを勝利に導く為に、奮闘を続ける二人とともに、ヒエンも戦います。
「はあああっ!!」
「やあああっ!!」
「おおっ!!」
ヒエン、愛奈ちゃん、勝希ちゃんが、全力の攻撃を叩き込んで、棒人間三体を消滅させました。残る一体は、クリエイターリビドンを守るように、立ちはだかります。奇しくもそれは、クリエイターリビドンが一番最初に描いた一体でした。
「負けるか!!」
クリエイターリビドンは、ペンに自分が持てる全ての霊力を込めて、空中に絵を描きます。
彼が生前、棒人間の次に描いたのは、武器でした。まだ絵を描くのが下手で、キャラメイクが上手くいかなかったのです。
先に武器を描けば、そこから自分が理想とするキャラの造形が出来るかもしれない。そう思ったのです。
彼が最初に書いた武器は、巨大なエネルギーキャノンでした。それを思い出し、クリエイターリビドンはエネルギーキャノンを描写、実体化させ、棒人間に装備させます。
手抜きにしか見えない棒人間が、妙に精巧に描かれたエネルギーキャノンを担ぐ。不釣り合いとしか言いようのない姿ですが、それが滑稽な見た目に騙されてはいけない危険な姿だという事を、レイジンは知っています。
「消し飛べ!!」
クリエイターリビドンが叫ぶと、エネルギーキャノンにエネルギーが集まり始めます。
「喰らうか!! 俺の力を見せてやる!!」
対して、レイジンはシルバーレオを掲げました。すると、レイジンの身体から六つの光る石が飛び出し、融合したのです。
今出てきたのは、霊石。聖神帝の激情の爆発によって生まれる力です。作れる霊石の種類や数は聖神帝によって違いますが、レイジンが出せる霊石は、火、土、水、力、技、速さの六種類。
それら全ての霊石を使った聖神帝、全霊聖神帝へと、レイジンは強化変身しました。現時点で出せる、レイジンの全力です。
「させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ですが、レイジンを妨害しようと、カルロスが飛んできました。憎悪でパワーアップしたカルロスが、友香ちゃんの念力を突破したのです。
「危ない、逃げて!」
カルロスはまっすぐにレイジンに向かって飛んでいき、友香ちゃんは逃げるよう言います。
「あ、ヤバい!」
愛奈ちゃんは焦りました。レイジンと勇子ちゃんは、棒人間、及びクリエイターリビドンの撃破に、集中しなければなりません。
かといって、リビドンにダメージを与えられない愛奈ちゃんでは、カルロスを止められないのです。
「俺が!!」
飛び出そうとするヒエン。
その時、
「愛奈さん! 松下さん達を守って! 頑張って下さい!」
浩美先生が、愛奈ちゃんに声援を送りました。
「!! 浩美先生!!」
その声援を受けた愛奈ちゃんは力を増し、
「うおおおおおおおおおおお!!!」
「お、おい!?」
ヒエンを無視し、カルロスに向かって飛んでいくと、
「リビドンがなんぼのもんじゃああああああああ!!!」
そのまま顔面を殴り付けました。
「ぐおがっ!!」
カルロスは愛奈ちゃんの拳を受けて、地面に叩きつけられます。
「は!?」
凶悪なリビドンであるカルロスが、幼女に殴り飛ばされる。シュールな光景に、ヒエンは目を疑いました。
「な、何だ、今のは!? この俺が、ダメージを受けただと!!?」
カルロスは愛奈ちゃんに殴られた頬を押さえて、とてつもなく驚いていました。
何度も言いますが、霊体であるカルロスは、物理攻撃によるダメージを受けません。
しかし、カルロスの頬には、殴られた感触が、その痛みが、間違いなく残っていました。愛奈ちゃんはカルロスに、ダメージを与えたのです。
「馬鹿な!! あのガキにそんな力はなかったはず……!!」
マンガを隅々までしっかり読みましたが、愛奈ちゃんが霊体と戦えるとは描いてありませんでした。
(いや待てよ? そういえば一回だけ、こいつは悪霊を倒した事がある。だがその時は、拳じゃなかったはずだ!)
考えるカルロス。
「やった! 手応えがあったよ! あたしってやれば出来るんだね!」
愛奈ちゃんも、自分の攻撃がカルロスに通じると、気付いたようです。
「そういえば思い出したよ! 闘気なら通じるよねっ! 紅蓮情撃波ーーーー!!」
それならもう怖くありません。一気に畳み掛けるのみです。愛奈ちゃんはカルロス目掛けて、紅蓮情撃波を放ちました。よくよく考えたら、愛奈ちゃんは悪霊を闘気で倒した事があります。
「うおあっ!!」
吹き飛ぶカルロス。
「……ん?」
しかし、今度は全く効いておらず、カルロスは普通に起き上がってきました。
「あれ!? どうして!?」
愛奈ちゃんは再び焦ります。こちらとあちらでは幽霊の設定が違うから、効かないのでしょうか。
「もしかして……浩美先生! もう一度愛奈ちゃんを応援してあげて下さい!」
「えっ? は、はい!」
何かに気付いた美由紀さんが、浩美先生にお願いします。
「愛奈さん頑張って下さい!」
「っ!! 浩美先生!! うおおおおおおおおおおおおおおおお!!! やるぞーっ!! 高崎流気孔術奥義、紅蓮情撃波ーーーっ!!!」
「ぐおああああああああああああああ!!!」
浩美先生からの声援で、再度やる気を出した愛奈ちゃんは、もう一度紅蓮情撃波を撃ちました。カルロスの絶叫から察するに、今度は効いたようです。
「やっぱり! 愛奈ちゃんは浩美先生の応援で、いつも以上の力が出せるんです!」
美由紀さんの予想は当たっていました。
「あの時と同じか……」
勝希ちゃんはデジャヴを感じています。同じ方法で負けたのが、勝希ちゃんだからです。
カルロスも、浩美先生からの声援で、愛奈ちゃんが急激にパワーアップする事は知っていましたが、まさか霊体に闘気以外の攻撃が通るほどパワーアップするとは思っていなかったので、完全に油断していました。こんな事、いくら知能犯のカルロスとはいえ、予想出来るはずがありません。
しかし、これが愛奈ちゃんです。浩美先生大好きパワーで、設定さえもねじ伏せてしまいます。
「邪魔者は片付けたよ!! いさちん!! 輪路さん!! 思いっきりやっちゃって!!」
愛奈ちゃんは二人に、クリエイターリビドンを遠慮なく倒すよう言います。
それを聞いて、レイジンは身構えました。まだ、仕掛けません。
「これで終わりだ!!」
クリエイターリビドンが叫び、棒人間が巨大なエネルギー弾を撃ちます。
これです。レイジンはこれこそを、待っていました。
「オールレイジンスラァァァァァァァァッシュ!!」
シルバーレオを振るい、霊力の斬撃を飛ばします。斬撃はエネルギー弾を両断し、棒人間に向かって飛んでいき、棒人間を巻き込みました。
オールレイジンスラッシュ。自分の霊力に霊石の力全てを上乗せして放つ、全霊聖神帝レイジンの最強の技です。
流石の棒人間もこれには耐えられず、消滅しました。
「バカな……クソッ!!」
クリエイターリビドンは空中に逃れます。彼の技術の集大成を、さらに上回る力で破壊すれば、心を折れると思ったのですが、どうやらまだ足りないようです。
「他の人に認めてもらいたいっていうのはよくわかるわ。私だってときどきそう思うもん」
その時、勇子ちゃんの声が聞こえました。クリエイターリビドンは驚いて周囲を見回しますが、勇子ちゃんの姿はありません。
「でもね、いくら認めて欲しいからって――」
次の瞬間、勇子ちゃんが目の前に現れ、
「他作品のキャラに迷惑掛けてんじゃねぇぇ―っ!!!」
全力でクリエイターリビドンを真上に、スーパーハリセンで打ち上げました。
「ぎゃああああああああああああああああ!!!」
クリエイターリビドンは断末魔を上げ、螺旋を描きながら飛んでいきます。
数十秒後、自由落下でべちゃっと地面に叩きつけられました。霊体だから痛みはないとはいえ、やっぱり痛そうです。
「くそっ! 今度こそ勝てると思ったのに!」
既に勝機を逸したと見たカルロスは、仕方なく悪態をついて冥界に逃げ帰りました。
◇◇◇◇
「さあ、今すぐ私達を元の世界に戻しなさい!」
クリエイターリビドンを降した勇子ちゃんは、彼を倒した本来の目的を果たす為に、詰め寄りました。
「わ、わかりました……」
どことなく元気がないクリエイターリビドン。自分の全力を懸けて描いたキャラが破られ、勇子ちゃんから渾身のハリセンを喰らい、完全に心が折れたようです。
「ねぇいさちん。ちょっと早すぎない? 佐久真さん達と挨拶とかした方が……」
「悪いが、そんな時間はない。こいつはもう、リビドン化が解け始めている。急がないと、こいつの力が失われてしまう」
あまりにもあっさりと帰ろうとする勇子ちゃんに、苦言を呈した愛奈ちゃんでしたが、翔さんが言う通り、勇子ちゃんの判断は正しいものでした。
憎しみが存在の原動力となっているリビドン。その心を無理矢理負ったので、まだ憎しみは残ったままですが、それでもその感情は少しずつ消えつつあります。いつリビドン化が完全に解けてしまうかわからない今、一刻も早く帰還する事が、輪路さん達の為に出来る事なのです。
「これ以上輪路さん達に迷惑、掛けられないわ」
「……まぁ、そうだよね……」
愛奈ちゃん、残念そうです。
「でも、勇子はもっと残念」
「よくわからないが、奴はこの作品のファンなのだろう? なら、我々よりも思い入れは強いはずだ」
友香ちゃんと勝希ちゃんは、勇子ちゃんの気持ちを察しています。
「さあ、早く帰るわよ」
勇子ちゃんは、これ以上留まっていたら別れがつらくなるとばかりに、帰還を急かしました。
帰り方は簡単です。クリエイターリビドンが力を使うのに合わせて、四人が力をぶつけるだけ。つまり、来た時と同じ事をすればいいのです。
「皆さん、短い間でしたが、お世話になりました。この御恩は忘れません」
「いえ、私達の方こそ、ありがとうございました」
せめてと、浩美先生と美由紀さんが挨拶します。
愛奈ちゃんが闘気を、勝希ちゃんが暗黒闘気を、友香ちゃんが念力を、それぞれ拳に込め、勇子ちゃんがスーパーハリセンを取り出します。
「勇子!」
その瞬間に、輪路さんが勇子ちゃんを呼びました。
「あー……その、なんだ。向こうでも、まだ俺のファンでいてくれたら嬉しい。本物に会って幻滅したかもしんねぇが」
「!!」
振り向いた勇子ちゃんに、輪路さんはばつが悪そうに言います。
輪路さんは、幽霊関係以外では、とても不器用な人です。今のは、何か言わなきゃいけないと思って、でもこれ以外に言う事が思い付かなくて、やっぱり言おうと、不器用ながらの、輪路さんなりの励ましなのです。
もちろん勇子ちゃんは、輪路さんがこんな人だという事を知っています。だって、ファンですから。
「輪路さんは、私にとって永遠のヒーローです」
だから勇子ちゃんは、そう返しました。
その直後、クリエイターリビドンはマンガにペンを刺し、四人は力をぶつけ、愛奈ちゃん達はこの世界から消えました。
「……何だよ?」
輪路さんは、美由紀さんがこちらを見て笑っている事に気付きます。
「いえいえ、何でも」
美由紀さんは笑って返します。
「お前が永遠のヒーローだとよ」
「あの子の性格が歪まなければいいがな」
「うるせぇよお前ら!! ほら、最後の仕上げをするぜ!!」
からかってくる三朗と翔さんに対して、輪路さんは強引にごまかし、クリエイターリビドンに向き直りました。
そうです。最後の仕上げとは、クリエイターリビドンを成仏させる事です。
「やっぱり俺、成仏しなきゃいけませんか?」
クリエイターリビドンは尋ねました。輪路さんは、少し言葉に詰まります。幽霊を成仏させる際、幾度となく聞いてきた問い掛けですが、やはりこたえるものがあります。
「ああ。残念ながらな」
ですが、それでも成仏させなければなりません。
「……そうですか……」
クリエイターリビドンは残念そうです。漫画家になるという夢を果たせないまま、成仏しなければならないのですから。
しかし、さっきほどの抵抗はありませんでした。頭が冷えた今、自分が何をしていたのか、誰に協力していたのか、事の重大さと恐ろしさが、少しずつわかってきたからです。
「……だが……」
と、輪路さんは続けました。
「お前のキャラが強かったのは確かだ」
クリエイターリビドンが描いた棒人間に込められた想いを、輪路さんは確かに感じたのです。そうでなければ、輪路さんが苦戦するはずがありません。
「そうですか……ありがとうございます……」
その一言で、クリエイターリビドンは報われました。彼がリビドンになった理由は、誰かに自分のマンガを認めてもらいたかったから。それも、殺徒やカルロスのような死者ではなく、生きている人間に。
強かった。想いが伝わった。その一言を聞くだけで、充分だったのです。
クリエイターリビドンは浄化の霊力を浴びる必要もなく、元の霊体に戻り、成仏して消えていきました。
「これで今度こそ、本当に終わりだ」
「ああ。結界を解くぜ」
自分達が果たすべき責務を終えたと察した三郎は、カルロスから引き継いだ結界を解きます。
「ったく、承認欲求ってのは厄介なもんだ」
「そうですよね。誰かに認めてもらう為には、手段を選ばない人って多いですし」
美由紀さんは輪路さんの呟きに同意しました。確かに、その通りです。手段も、頼る相手も選ばない。だから殺徒達黒城一派のような、危険極まりない集団に、その承認欲求に目を付けられ、利用されてしまうのです。
「そう考えてみると――」
輪路さんは、美由紀さんをじっと見つめました。
「俺はかなり恵まれた方だな」
◇◇◇◇
目が覚めた時、四人は勇子ちゃんの自室で、倒れていました。浩美先生も、自分の部屋で目を覚まします。
「やった! 帰ってきた! あたし達帰ってきたよ!!」
「どうやらそのようだな」
愛奈ちゃんは帰還を喜び、勝希ちゃんは右手で頭を押さえながら起き上がります。
「そうだ、浩美先生が戻ってきたかどうか、確かめに行かなきゃ!」
そして起き上がるが早いか、愛奈ちゃんは浩美先生の家に向かって行きました。
「……何だか、夢を見ていたみたい」
友香ちゃんは、自分が特撮番組の世界に行っていたという事を、未だに信じられません。
「ううん。夢じゃない」
しかし、夢ではありません。
なぜなら、勇子ちゃんの服のポケットの中には、輪路さんにサインをもらった、レイジンのシールが入っていたからです。
(こっちも夢じゃありませんよ)
直後に、頭の中にテアーラさんの声が聞こえて、勇子ちゃんは最悪の気分になりました。




