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第9章  12月(1)

久しぶりの桐生との時間、本来の掛け合いを嬉しく思うカワイイ?小春です^^。

さて、4月から始まったこの物語も、いよいよ12月に突入しました!

ラストに向かって、すべての事柄が収束していくのをお楽しみ下さいませ♪

☆☆☆

 いつの間にか朝晩の吐く息が白くなる日が増え、季節は移り変わっている。

 星杜学園はというと、学園内を巡る気の感じになんとなくの不安要素を感じさせながらも、ごくごく普通に時間が過ぎていた。

 12月の始めに実施された後期の中間テストでは、見事に早見坂は学年1位に返り咲くが、あれだけ自信たっぷりに本人が言い放った言葉を思い返せば、当然の結果ではあるのだろう。ただ、今回のテストでは、成績上位者の中に『陣聡介』の名前を見つけることはできなかった。

 不思議な事に、早見坂が首位に返り咲いたという事も、前回早見坂を陥落させた生徒の名前が上位者の中に無かったという事も、学園内で噂になることはなかった。

(生徒会長以外の生徒が、始めて学年トップをとった衝撃的な出来事の延長だよ!?)

 麻莉子ならば、もっと深い情報を持っているのだろうか。


 そんな12月に入ったある日の放課後。

「恭一、なんだって俺までがこんな事をしなきゃならないんだ?」

 ここは生徒会室。仏頂面で、文句を言いながらも手を動かしているのは、生徒会室では久しぶりに顔を見る桐生だったりする。早見坂・藍原さんに桐生と私の4人は、山と積まれた黒いフェルトを前に、格闘している最中である。それにしても、桐生と一緒の時間を過ごすのは、いったいどれくらいぶりなんだろう。

「私に文句をいう前にな、君のフィアンセである小春くんに文句を言って貰いたいところだな。なんたってこれは、小春くんたっての願いだからな」

 桐生の文句に対する、早見坂の答えなんだけど……いろんな意味でなんか間違ってるよ!?

(ここで私の名前を出しますかっ!?)

 桐生のマイナス100度の視線に、身も心も凍りつきそうになる。

(久しぶりなのに、そんな冷たい目で見なくてもさ……)

「それにな、誠也。前回の校則で配布された大福よりもパワーアップさせない事には、今回、私が発布する校則の効果が出ないんだ。ここは悪いがあきらめて、協力してくれ」

 私たちは、早見坂が中間テストで首位に返り咲いたのに伴い、新しい校則を発布するにあたって必要なグッズを製作しているところなのだ。

(桐生だって、最初から理由は説明されてるくせにさ。わざわざあんな目で見なくたっていいじゃん)

 自分の言葉が発端である事に、多少ヒケメを感じていた私は、あえて桐生言わずに、心の中でこっそり毒づく。

 そこへ、涼しげな声で藍原さんが、珍しく会話に割って入ってきた。藍原さんの指摘は、いつだってどんな時だって的確なんだ。

「はいはい、お二人さん。同じ内容の会話を繰り返すのは、これで何度目なの? 口よりも先に手を動かして頂かないと、いつまでもこの作業から解放されないわよ?」

 俺様タイプの二人をつかまえて、聞き分けのない幼稚園児を諭すかのように話す藍原さんの言葉が、妙に私のつぼにハマる。

(桐生と早見坂が説教される、の図??)

「クッ、クククッ……」

 私は下を向いて、笑いを堪える。

「小春」

 桐生の声が聞こえた。

「肩が震えているぞ」 

 どうやら私は、笑いを堪えられなかったようだ。

(桐生の、こんな言葉を聞くのも久しぶりだ)

 以前は、桐生の冷たい口調や言葉じりが気に入らなかったはずのに、意外とすんなり聞けるのが不思議だった。懐かしい、という感覚の方が近いのかもしれない。そういえば、桐生と話す機会なんて、ここのところずっと無かった。

「べつに」

 下を向いたまま、私は答える。

「それじゃ顔を上げてみろ」

 桐生の声が、一層冷たさを帯びたようだ。

「顔を上げるか上げないかは自分で決めるから、桐生には指図されたくない」

「なんだと? いい度胸だ、もう一度同じ事を言ってみろ」

「同じ事を言うか言わないかは自分で決めるから、桐生には指図されたくない」

(この感じ!)

「ほう。それは誰に向かってモノを言っているのか、分かった上での発言なんだろうな」

「さぁ? 誰にでしょうかねぇ」

 そう。私たちは、これまでずっとこんな調子の会話を交わしてきたのだ。なのに桐生と私の関係は、いつのまにかおかしな方向に進んでこなかっただろうか。

(桐生家の秘密とか、クローン人間の生成実験とか、わけのわかんないフィアンセとか)


「ぷっ」

「あはははははははは」

「うふふ」

 生徒会室に笑いの渦が起こる。

「それにしても、なんていうか、誠也は相変わらずだなぁ。もっと優しく話す事はできないのか?」

 早見坂が、私の味方をしてくれる。

「いえ、会長。私はこの話し方をする桐生がいいんです。優しくなんてされたら、返ってあちこち痒くなってきそうですし。ね、桐生もそう思うでしょ?」

 私は桐生に同意を求める。が、桐生の返事は。

「その前に。痒くなるというのが、どう意味なのか説明して貰おうか」

「説明するかしないかは自分で決めるから、桐生には指図されたくない」

 私はちょっとだけ悪乗りしてみせた。

「おまえとは会話にならん。時間の無駄だ」

 今日の桐生は、私が昔からよく知っている桐生だった。

「あらあら。今度は、桐生くんと波原さんのお2人の番かしら。でも、もうそろそろこの辺にしない? みんなでどんどん作業を進めなきゃ終わりそうにもないわ」

 藍原さんの言葉をきっかけに、生徒会室内の雰囲気が和らいだこともあって、私たちは銘々作業に戻る。

 

 前回のテスト後に、首位をとった陣が発布した校則を受けて、生徒たちの手に渡った大量の大福グッズ。その大福グッズから何やら怪しげな感じを受けた私は、確かに早見坂に全てを回収するようにと依頼はしたけれど……まさか自分がこんなハメに陥ろうとは。

 自分たちで制作した大福グッズを、前回の大福グッズとの交換を条件に配布するというのだが、早見坂いわく、『その効果を最大限に発揮するために、前回の大福グッズよりもグレードアップさせた新大福グッズが必須』とのこと。小林からの許可を得たのかは定かじゃないけれど、早見坂のことだから抜け目はないだろう。

 そして、その必須部分の手伝うために、否、手伝わされるために、本日私たちは駆り出されているというわけだった。

 バージョンアップ新大福を考案したのは藍原さんで、この度の大福は、布製で立体的である。大福型

に切り抜いた黒いフェルトに、綿を入れて布用接着剤で張り合わせ、目やしっぽをつけるだけの代物ではあるが、大福にさほど興味のない私でさえ欲しくなったぐらいだから、製作しながら、これはイケるんじゃないだろうか、と私も思っていた。


(んーーーー、難しくはないんだけどねぇ……)

 だだ、ひとつ。

 目をつける位置によって、全然大福に見えなくなることは非常に問題だった。

「小春、目の位置がおかしいぞ。それはもう既に大福じゃないだろう」

 案の定、桐生に突っ込まれまくる。

「うるさいな。あたしだって一生懸命やってるんだから、桐生は黙ってて」

「……ったく、お前という人間は、食べることにしか能がないのか?」

「なにそれ? 桐生、それってどういう意味? これと食べることと何か関係があるわけ!?」

「しのごの言ってないで、もういいから、そこにあるヤツをさっさと俺に寄越せ。おまえには任せておけない」

「はぁ? アンタ、なにさま??」

 桐生は、なにやらぶつぶつ言い続けている。

「全体の位置関係から目の場所を把握して、それを正確に指先に実行させるだけだというのに、そんな事もろくに出きないとは……いきあたりバッタリな性格が、如実に表れてるな」

「はいはいはい……」

「はい、は1回で良いと習わなかったか?」

「はいはい」

「だから、1回だ」

「……」

(ホント桐生らしいや)

 なんとなく嬉しくなってくる。

「完成目標数は、大事をとって全校生徒数なんだ。先はまだまだ長いんだから、小春、おまえももっと気を引き締めてかかれよ」


 一方で、実行委員を中心に創立記念前夜祭の準備も着々と進んでいたし、中庭にはそろそろ巨大クリスマスツリーもお目見えするらしい。

(入学したばかりの時に桐生から聞いた、巨大クリスマスツリーだよ!)

 Xデーが近づいているというのに、不謹慎だとは分かっていても、どうしたってこの季節はウキウキしちゃうのが女子高生の心理というものでしょう。


 日の暮れるのが早くなった12月、ふと視線をやった窓の外はすでに真っ暗だった。



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