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第7章  10月(4) 

4月に入学してから、10月も終わりになりました。

小春の周辺ではいろいろな事があり、いよいよ何かが本格的に動き出します。

孤独感を抱えながらも、小春の修業は続いていきます。


☆☆☆

 桐生がいなくても、私は、放課後に生徒会室で一人、修行に励む日々を送っている。龍底の出現するその日までに、増幅させた気のパワーを具現化させられるようになる――私には、そんな重い責任が課せられているのだから。 

 とはいえ、具現化できるようになったとして、その時がきた時に、その力をどう使えばいいのかなんて、今の段階では皆目見当もつかない。

(こんなんで大丈夫なんだろうか……)

 桐生も麻莉子も友哉も、もちろん私自身もちゃんと毎日登校して、これまでと同じように一緒の教室で授業を受けている。喧嘩をしたわけでもないし、それなりに会話だってあって、これまでと何も変わっちゃいない。変わってはいないはずなのに、私はなんとなく距離感を感じてしまっていた。

(それでいいんだ。私との繋がりが薄くなれば、麻莉子も友哉も巻き込まないで済む)

 だが、自分にそう言い聞かせるのは、寂しいといえば寂しかったりもした。

 そして、桐生が生徒会室に顔を出す事もめっきりと減り、たまに生徒会室で見かける事があったとしても、私と入れ違いに出て行った。考えてみれば、私との修行が無くなってしまえば、桐生が生徒会室に来る必要なんてそれ程ないんだろう。そんな桐生だったが、私とすれ違う時には、一言か二言声を掛けてくれてはいる。『小春、俺がいなくても修行はちゃんとやっているのか?』とかなんとか。

 たったそれだけの会話も成立しないような内容ではあっても、桐生の優しい思いが私に向かって大量に流れ込んでくるのを感じるのは、不思議と言えば不思議な事ではあった。


 そして今日も私は、一人生徒会室で修行をしている。気をうまく具現化できない時には、その気を例の石に蓄積させる作業に瞬時に変更させるのだが、どう見ても蓄積させている時間の方が具現化させようと試みている時間よりも圧倒的に長い。

「……ほんっと、うまくいかないったら」

 指先から放出した気は、なんとなく形になりそうで形にならない。それどころかすぐに空気中に拡散しそうになるので、慌ててその気を引き戻して石へと蓄積させる事になる。

 もうどれくらい、この繰り返しを続けてきただろうか。

「私にもできるようになるのかなぁ」

 桐生が気を具現化させた時の光景が脳裡に蘇ってきて、自分の不甲斐無さをますます痛感する。それと同時に、気持ちがポキンと折れそうにもなる。

「桐生の罵声って、意外と力を与えてくれてたんだな……」

 ぼそっと呟いて、はぁ、とため息をひとつついた時、生徒会室の扉が開いて、早見坂と藍原さんが連れ立って入ってくるのが目に入った。


「波原さん、御苦労さま。調子はどう?」

 藍原さんの声は優しい。

「それが、あんまりよくないんです」

 私に元気がないというのは、もしかするとかなり痛痛しく映るのかもしれない。一人で修行に励むようになってからは、早見坂や藍原さんが、ずいぶんと気にかけてくれているのを感じる。

(甘えるな、波原小春)

 私は、自分で自分を叱咤激励する。

「焦らなくても大丈夫よ。波原さんならきっと出来るようになるわ。桐生君もそう言っていたわよ」

 藍原さんの裏の顔?を知ってもなお、時々藍原さんが女神のように思えてしまう。やはり美人は得だ。

「ありがとうございます。できる限りの努力は惜しみませんけど……もしも間に合わなかったらと思うと……」

 藍原さんは、そんな私の手を取ってぎゅっと握りしめてきた。

「今は、余計な事は考えちゃダメよ、波原さん。あなたは一人じゃないの。私も会長も桐生くんも、あなたを応援して見守っているんだから」

 藍原さんのまっすぐな瞳が、私を見つめてきた。

(私が友哉だったら、心臓止まっちゃってたんだろうなぁ)

 こんな時に、なぜ友哉の事を思ったのか自分でも分らないまま、くすっと笑ってしまった。

「あら? 私、何か面白いことを言ったかしら?」

 藍原さんが不思議そうに小首をかしげる。

「いいえ。何も」

 藍原さんの優しい表情を見ていると、心の中がほうっと温かくなる。

(まだまだ頑張れる)


 早見坂が口を開いたのは、そんな時だった。

「ところで小春くん」

「はい」

「君に見て欲しいものがあるんだが」

 早見坂の言葉を聞いて私の手を放した藍原さんが、胸ポケットから5㎝四方くらいの黒い物を取り出す。それは、星杜の生徒ならば誰もが知っている、黒猫大福をかたどったものだった。

「これは大福ですね」

「そうだ。ここにあるのは、あの校則が発布された時に、琴音が中庭を星型に歩いて入手してきた大福グッズなんだが」


(ん? 何だか妙な)


「どうだろう、小春くん」

 とりあえず藍原さんから、それを受け取る。その大福は、黒い厚紙を切り抜いて作成したと思われるものだった。


(なんだろう……)


 私は雑念を追い払い、掌に乗せた大福に意識を注いでみる。

「ちなみに会長。このグッズはどれくらいの生徒が持っているんですか」

 私の問いに答えたのは、藍原さんだった。

「あの時は、本当に大変な人気で、男子生徒、女子生徒を問わず、みなが欲しがっていたわね。大福くんグッズの在庫はすぐに無くなったようだったけど、準備はたくさんしてあったみたいだから……そうね、ざっと8割以上の生徒さんは入手したんじゃないかしら。今でも持っているかどうかは別として」

 藍原さんの言葉を聞いて、私は愕然となった。桐生が、五芒星が表す意味と、逆五芒星が表す意味は正反対になると言っていたのを思い出したからだ。

 生徒たちが歩いて芝生がはげる事で浮かび上がった中庭の星型が、仮に五芒星をかたどるものだったとした場合、逆五芒星として見せるのが校則を発布した陣の目的だったのだとしたら、それが意味するところは。


『小春。逆さに五芒星を見る時には、実はそれは守護と反対の意味を示すことになるんだ。逆五芒星は、悪魔を降臨させて魔の力を得るとも言われている』


(悪魔の降臨……)

 それならば、その時に配られた大福グッズに、何か特別な役割が与えられていてもおかしくないのかもしれない。現に、今、私が感じているこの奇妙な感じはどうだ?

「8割……もですか」

「小春くん、どうした?」

「会長、これ、ただの黒い厚紙で作られた大福グッズのように見えますけど……」

 二人の視線が私に注がれる。

「この大福、何かに反応するんじゃないでしょうか」

「言わんとしている事が、私にはよく分からないが……何かに反応というのは?」

「分かりやすく言えば……この校則を発布した陣という生徒の言動などに反応するっていうか」

 早見坂の驚いた表情は、私の言葉が持つ意味の重さを理解したからなんだろう。

「それは……小春くんや誠也が持つ力を、陣も持っているという事なのか?」

「いえ、実際に持っているかどうかは私には分りませんけど……でもこの星杜学園に、桐生や私以外に、大地の気などと共鳴できる力を持つ生徒がいても、おかしくないわけですよね」

「……」

「そして私は、この大福グッズからは、よくない感じ、邪悪な思いみたいなものを感じる」

「確かに、桐生くんや波原さんの他にも、そういう生徒さんたちはいるでしょうね。ここは、初代学園長が気のあふれ出る特別な場所に建てた学園であり、そういう力を持つ人たちが魅かれて集まってくる学園なんですもの」

 藍原さんの言葉にも、早見坂は無言だった。

 大福にさして興味もなかった私は、新しい校則は守らないで終わったが、もしもあの校則が発布された時点で大福グッズを入手していたのなら、もっと早くにコイツがおかしな気配を持っている事に気付いていただろう。

(桐生も興味がなかったというワケか)

 桐生が、大福グッズを手に入れて浮かれる姿なんて、想像もできない。でもそういった事で、桐生も私も、重要な要素を、これまで見逃してしまっていたのは確かだった。

(それにしたって、この大福……)

 8割以上の生徒が持っていたのだとしたら、陣の影響をとれほど受けたことになるんだろう。

(もしも陣がクローン人間だったとして、彼の目的はいったい何なんだろう)

 鳥肌のたつ思いがした。

「そうか、そうなんだな」

 早見坂の表情が固い。

「小春くん、教えてくれ。こんな私でできる事は何かないだろうか」

 早見坂は、できれば自分の力でクローン人間の誕生を阻止したいと望んでいるはずだった。クローン人間が学園に及ぼすだろう危機を避けたいと、一番強く願っているのは彼なんだろう。


『なぁ、小春。クローン人間は、悪なんだろうか? どうしても、その存在は許されないんだろうか?』

『クローン人間だったとしても、ごく普通に平凡に生活しているのなら何が悪いというんだ? 本人が、クローン人間として生まれたくて、生まれてきたわけじゃないというのに』


 そして桐生のあの日の言葉が、私の耳には残っている。桐生が言いたかったのは、いったい何だったのだろう。


「会長。たったひとつだけ、会長にしかできないことがあります」

 私の言葉に、早見坂の瞳が強く光り、その表情にも強さが立ち現れる。

「分かった。私にできることがあるのであれば何でもしよう。小春くん、私への気遣いや遠慮は無用だから、忌憚なく話してくれて構わないぞ」


(あぁ。この人は)

 

 早見坂は、絶対に信用なんてしない相手だったはずなのに、いつの間にか私にとって信頼に値する人物になっていた。

「会長、えっと、そんな構えて聞くような事でもないんですが」

「そうか?」

「はい。会長にして頂きたい事は、必ずや次回のテストで一番を取って下さる事です。そして、新しい校則で、生徒から反感を買わないように、決して騒ぎにならないようにして、この大福グッズを全て回収の上、処分して下さい」

 それを聞いた早見坂がニヤリと笑い、大きく深く頷いた。

「小春くん、承知した。元よりそのつもりではあったのが、確かにそれは、私にしかできない事ではあるだろう」

 ここに至っても、早見坂の俺様主義はどうやら健在のようだった。

(それって、どんだけ?)

 私は胸の中で突っ込む。

 藍原さんはと言えば、全幅の信頼を寄せた相手の、やけに自信たっぷりな言葉を聞いて、うっとりと熱い視線を送っているではないか。

(けっ、この二人)

 いや、今はもう、そんな事をどうこう言っている時期ではない。

(気を具現化させる力を一日も早く習得しなきゃ)

 私はその日に向けて、一心不乱に修行に励まなければならない。

 課せられたその責務が、学園の中で誰よりも重いはずなのを身に染みて感じていた。


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