闇の男 B
「クソがっ、あのガキ・・・」
闇に包まれた男が小さく吐き捨てた。
じゃあ、作戦を変えないとな・・・
その男は考える。
どうすればもっと混んでる電車に、満員電車に・・・
シュッとした見た目の若いサラリーマンが駅のベンチに座っている。
走り出す電車を鋭い目つきで睨みつけていた。
「どうして満員電車に乗りたいの?」
白いワンピースを着た少女がそのサラリーマンに話しかけた。
「あっ?」
男は声を荒げて睨みつける。
「新社会人・・・都会に染まっていない・・・大人しそう・・・」
少女が男を見つめながらブツブツと笑顔で呟く。
「おいっ・・・」
戸惑うサラリーマン。
「先週は邪魔がいた・・・うざい・・・でもコイツもいいな・・・11号車はダメだ・・・」
少女が笑顔のまま続ける。
「おい、なんなんだテメェ・・・どうして・・・バレてる・・・?」
男は立ち上がる。
そしてその少女から逃げだすようにあとずさる。
「ああ、そっちはダメ。電車が来る、危ないわ・・・触るんなら乗らないと」
少女が笑顔で言った。
その言葉を聞いた瞬間、その男は血相を変えてホームの中央にある階段へと走り出した。
幸運なことにこの階段を使っている客はおらず、一気に駆け下りて逃げることができそうだ。
「やばい、なんなんだ、アイツ・・・」
男は階段を降りる前にその少女を確認しようと振り返った。
「・・・あっ」
足を踏み外す。
この階段は長く、傾斜が大きい。
この階段を上がってくる客はいない。
何度も何度も激しく階段に打ちつけられ、一度も止まることなく下の階にたどり着いた。
その男の人生はここで終わった。