第82話 子供たちのために
こちらはカクヨムに掲載された修正版です。
原文ともによろしくおねがいします(*^^*)
「はい。これで第一次発酵が終わりました」
二週間分の仕事を一気に早送りし、さすがに疲れたか、汗を拭う彭侯。
カードは完全に乾燥し、色も黄色く、やや中央が膨らんでいた。
「お? これで完成したの?」
ようやくチーズフォンデュが食べられるぞと目を輝かす弥生。
フォンデュ用の野菜やキノコも密かに自分で茹でてスタンバイしていた。
「いいえ、次はやや温度を落として第二次発酵に移ります」
「まだ、やるんですにゃ~~~~っ!??」
「次の条件は11~14℃で10週間です。メモしておくように」
「じゅ……10週間も見張ってなくちゃいけにゃいにゃぁ~~~~~っ!?」
「がっくし……」
崩れ落ちる弥生。
そうなると、さすがの彭侯でもすぐにとはいかない。
時刻はもうすぐお昼になるところだった。
「はっ!? そろそろチビどものエサを作らなきゃいけないにゃっ!! 彭侯先生やっていいかにゃあっ!?」
「はい。こっちはもう4.5時間かかりそうですから、あなたたちは普段の仕事をやっていてください」
犬、猫、カワウソ族の子供たちは親たちが仕事している間、この共同宿舎で軽い作業と教育(読み書き、足し算引き算)を受けている。
食育管理もその一環で、健やかに成長できるようきちんと計算された昼食が用意される。もちろん献立を考えるのは彭侯である。
「え~~~~っと……今日のメニューはマッシュポテトと象豚ベーコンの味噌炒めにゃあ」
さっそく材料を用意し、ミケ、タマと一緒に調理をはじめる。
「い~~もい~~も、ほ~~くほ~~く、おいし~~にゃ~~♪」
「お~~肉もじゅ~~し~~じゅ~~し~~、お~~いしいにゃあ~~~~♪」
歌いながらじゃがいもを茹で、潰して、ペースト状に。
そこに牛乳と、塩コショウ、昨日作ったバターを入れて混ぜ合わせていく。
「できたにゃあ。マッシュポテト~~~~っ!!」
「どれどれ」
さっそく味見をしてみる弥生。
子供たちの分を減らしては可愛そうだから、ほんと小指の先くらい。
「うっっっっっっんまっ!!!!」
じゃがいもとバター。
聞いただけで不味くなるはずのないこの組み合わせだが、実際食べてみると、わかっていても期待の上を行く。
さらにジュウジュウとベーコが焼ける音。
こちらもバターを使っている。
「うわぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁ……なんじゃこりゃ……この香ばしい匂い……私をヨダレで溺れさすつもりかぁ~~~~????」
「マッシュポテトはカロリーが多いですが栄養価が高く、成長期の子供たちにはうってつけの料理です。米や小麦が不足しているいま、主食として重宝するでしょう」
「いちおう弥生様のぶんも作りましたにゃあ……?」
「え?♡」
やや遠慮気味に彭侯へとお伺いをたてるルル。
彭侯はチラリとポテトの出来栄えを確認すると、
「いいでしょう。では弥生様、今日の昼餉は子供たちと一緒に食べていただいてよろしいでしょうか?」
「う~~~~~~~~~~~~~~んっ!!!!」
よろしいもなにも、可愛い天使たちと一緒にお昼ごはんなんて楽しいに決まってるじゃないか。
弥生は食欲と萌欲で目を♡マークにしてうなずいた。
「ギャウイッ!!」「がるるるるるっ!!!!」「ギキャキャキャキャキャッ!!」
ドタン、バタン、バリバリ、ガリガリ、ガッシャンッ!!!!
給食が配られるなり、野生の野獣と化した子供たち。
子猫も子犬も子カワウソも、みんなエサを取り合って威嚇し合い、自分の分を咥えたら部屋の隅へと持っていき、とにかく早く飲み込んでいる。
その姿は天使どころか悪魔そのもの。
かつて向けてくれた愛らしさなど微塵もなかった。
弥生は開いた口が閉じなかった。
「まぁ最近まで飢えに苦しんでいみゃしたから……お昼はいっつもこんな感じでまるで戦争みたいになるだにゃあ……」
申し訳無さそうに頭をかくルル。
お玉でマッシュポテトを皿にのせようとする矢先から奪い取られてしまっている。
「ウ~~~~~~~~~~~~~ッ!! ウ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!!!」
目を白くして背中の毛を逆立てて、うなりながらベーコンを噛みちぎる。
用意したお昼ごはんは弥生の分まであっという間になくなってしまった。
「も、も、も、も、申し訳ありませんにゃあ!! 弥生様の分はいますぐ作り直してきますので勘弁してあげてほしいにゃあ!!」
空になった鍋を逆さに振りながらルルが謝ってくる。
子供の数は全部で20人ほど。
みんなお腹をポンポコ狸のように膨らませて床にひっくり返っている。
吐きそうになりながらもまだ詰め込もうとお皿を舐めている子もいた。
弥生はそんな子犬の頭を撫でてあげながら、
「大丈夫大丈夫。そんなに心配しなくても、またご飯はいくらでも出てくるからね。ひもじかったね。怖かったよね。もう大丈夫だからね」
「弥生様……」
そんな子供たちを叱るどころか、目に涙をため慰めてくれる弥生に、ルルたちもまた目ぐむ。
弥生は給食係三人の頭に腕を回して小さな円陣を組ませた。
「いい? この子たちが安心して、ゆっくりと、笑顔でご飯が食べられるようになるまで頑張るわよ。それが私たちの当面の目標、いいわね?」
「にゃあ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!」
いままでで一番力のこもった「にゃあ」が飛び出した。
彭侯はそんな光景を廊下のすみから眺めながら微笑むのであった。
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