地下の会合《2》
皆さん、感想にメッセージ、ありがとうございます……めっちゃ嬉しかったです。
「いやー、何とか上手くいって良かった。ジゲルが俺の仲間だとわかった時の、あの元締めらしいヤツの顔よ。苦虫を嚙み潰したよう、って表現がピッタリ来る顔してたな」
「フフフ、確かに。『……貴様のことは、こちらで話し合いをした後に決定を下そう』などと言っておりましたが、内心の苦々しさがよくわかる顔でしたな」
「あぁ、本当にな。クック、今世紀初めて見た苦々しい表情だったよ、ありゃあ。あれを見られなかったセイハ達が可哀想だ」
「全くですな」
そう言って、笑い合う俺とジゲル。
ジゲルには、この地下カジノの更に下にある、VIP専用の地下闘技場で選手として暴れてもらっていた。
予めの聞き込みで、その闘技場で活躍した選手がそのまま護衛などに雇われることがあると知っていたからだ。
ジゲルの実力ならば声を掛けられることは明白だったし、ただあの親玉連中の部屋にまでジゲルが呼ばれるとは予想外だったのが……どうにか上手く、俺の存在をねじ込むことが出来た。
本当は、闘技場で戦っているのが俺の部下だと話して、「あんな強い部下が俺にはいるんだけど、どう?」と話を進めるつもりだったところを、最高の登場をさせることが出来たと言えるだろう。
「しかしユウ様。お顔を晒してしまって、よろしかったのでしょうか? 色々と、不都合があると思いますれば」
「どうするかは悩んだんだけどなぁ。ただ、よくよく考えてみれば、別にどうしても顔を隠さなきゃならない理由がある訳じゃないし、俺が誰だかを分かっていれば、向こうも接触し易いだろ。敵がいるなら、さらにわかりやすい」
「なるほど……そういうお考えの下であるならば、私はユウ様の指示に従いましょう。――彼奴らは、食い付くでしょうか」
「食い付くさ。ああいうヤツらは、表の面だと規範だとか筋だとかそういうのが大事って顔してやがるが、結局一番大事なのは利益だ。相手が怪しいヤツでも、そこに金の臭いを嗅ぎつければ、大なり小なり接触を持とうとする。ドラゴンスレイヤーの名には、どうもそれだけの価値があるらしいしな」
「あぁ……確かに、彼奴らはそういう生物でしたな。そう言われてみると、食い付いて来るのが道理に思えます」
俺の言葉に、納得した様子を見せるジゲル。
「よし、ジゲル、賭けをしようぜ。誰の使いが一番初めにやって来るかだ」
「そうですな……では、恐らく――」
そう言ってジゲルは、一人の人物の特徴を上げる。
「何だ、ジゲルも同じ意見か。これじゃあ賭けにならんな」
「フフ、ああもこちらに興味を示している様子を見れば、予想は容易いかと」
「まあそうか、ずっとこっちを観察してたもんな」
それもそうだな、とジゲルに俺が同意した――その時。
カジノの裏側を歩く俺達に近付く、一つの影。
「おっと、さっそく来たようだぜ」
俺は、そう言ってニヤリとジゲルに笑いかけた。
* * *
「ユウ様、ジゲル様でございますね? 主人より、伝言を託っております。少々お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
カジノの裏側を進み、表側に戻ろうとしていた俺達の前に現れたのは、メイド服の女性。
美人だが、口元に内心の見えない微笑を浮かべており、どことなく得体の知れないような雰囲気を纏っている。
「えぇ、大丈夫です。聞かせてもらいましょう」
「我が主人は、お二人とお仲間の方々に多大な興味を持っております。是非一度、ご一緒に食事でもと申されておりました」
「それはありがたい申し出です、こちらとしても是非ともご一緒させていただければ。是非、お互いの都合がよい時に、伺いさせていただきたく」
「畏まりました、そのようにお伝えさせていただきます。わたくしはクライナ、今後、ユウ様方との連絡係を務めさせていただきます。どうぞお見知り置きを」
「ご丁寧にどうも。こっちは、外との対応はこのジゲルがしますので、何か御用の際は彼のところにお願いします。――ジゲル、頼んだぞ」
「ハ、畏まりました」
と、お互いに大人の対応をしている間に、俺達は従業員用の出入口から外のカジノへと出る。
出たすぐの扉にいた守衛二人が、現れた俺達三人に向かって一瞬胡乱げな視線を向けるも、しかしすぐに直立不動となり、畏まった態度を見せる。
恐らくは、俺達が胸のポケットに付けている、花のイミテーションを見たのだろう。
先程の悪の親玉達がいた部屋を出る時に、関係者を示すらしいこの胸飾りを貰ったので、もう堂々と裏口を行き来することが可能なのである。
扉から出た途端に、カジノの騒がしい音の濁流が耳に飛び込んで来るが――その喧噪の中に、見知った声の怒号が混じっていることに気が付く。
「んだ、クソがっ!!その汚ぇ手を放しやがれ!!」
――その声は、何故か守衛二人にガッチリと両肩を掴まれ、事務所らしいところに連行されていくネアリアのものだった。
「あー……なぁ、セイハ。アイツ、何やってんだ?」
「マスター! ……ネアリアは、馬鹿を働いた結果です。放っておいてよいかと」
たまたま近くにいたセイハにそう問いかけると、彼女は冷めた目をネアリアの方に向けながらそう言った。
……まあ、カジノで守衛のご厄介になることなど、十中八九イカサマだろうな。
やりそうだとは思っていたが、まさか本当にやりるとは。
「ハァ……全く、だから注意したというのに」
俺の隣でジゲルが、呆れた様子でそう呟く。
「何してんだ、アイツは……すみません、このカジノにおけるイカサマは、どれだけの罪になります?」
俺は、控えるように近くに立っていた連絡係の女性、クライナにそう問い掛ける。
「通常であれば罰金、それが払えない場合、一か月程の強制労働と禁固刑になります。守衛達に申し付けて、開放させますか?」
あぁ、何だ、そんな程度の罰なのか。
思った以上に刑が軽いように思うが……よくよく考えてみたらここは、巨大なカジノの中でもVIP専用、金持ち御用達のエリアだったな。
やって来る客は有力者ばかりだろうし、店側としてもあまり大事にはしたくないのだろう。
「……いえ、今はいいです。お気遣いありがとうございます。……アイツは二、三日程、留置所で頭を冷やさせておこう」
「えぇ、それがよろしいかと。出て来たら説教ですな」
「彼女にはいい塩梅ですね。カッとなって自らも同じことをするなど、思慮の浅さを露呈するようなものです」
「? 何かあったのか?」
俺の質問に、コクリと頷くセイハ。
「どうも、他のお客の方に何かしらの不正行為をされたようです。それで目には目を、とでも思ったのか同じく自身も不正行為を働き……ネアリアだけバレて、あの結果ですね。例え先に不正されたのだとしても、同情の余地はありません」
「あー……ネアリア短気だもんな……」
苦笑を浮かべ、連行されていくネアリアを見送っていると、タイミングを見計らっていたのかクライナが口を開く。
「それでは、わたくしはこの辺りで。ご連絡の際には、ジゲル様にお伝えさせていただきますね」
「あ、はい、わかりました」
俺の返事に、彼女は一礼すると、そのまま去って行った。
その姿が周囲の他の客に紛れ、見えなくなったところでセイハが口を開く。
「……マスター、あの女性は?」
「あぁ、悪の親玉軍団の使いだ。お食事でも一緒にいかが、って誘われちまった」
「では、内部に入り込むのは成功したのですね?」
「恐らくな。あとは返事待ちだ」
本当はあの後の彼らの話も、ハイドスキルを使ってこっそり聞きたかったのだが、警護の者が多く人目を忍ぶことが出来なさそうだったので流石に諦めた。
まだ円卓に座るメンバーとして認められていない以上、あの場に居座ることも無理だったしな。
「流石です、マスター。この短時間でそこまで話を纏めるとは」
「これでスカだったりしたら、大分恥ずかしいんだけどな」
そう言って、肩を竦める俺。
「それは大丈夫でしょう。仮にあの者どもの仲間として受け入れられずとも、伝手を作ることには成功致しました故、情報はそこから十分得ることが可能かと」
「まあそうか。あとは、どの程度までこっちを信用してくれるかどうかが問題だな。――ま、とにかく今日やることはやったから、残りはパーッと遊ぶか! お前ら、一稼ぎしてもらうぜ!」
「はい、マスター、頑張ります!」
「畏まりました、是非お任せを」
そうして二人を連れて、遊びに繰り出そうとしたその時。
「あっ、あんちゃーん!」
聞こえて来た声の方に顔を向けると、視界に映ったのはとてとてとこちらに走り寄る燐華。
「お、燐華――燐華、あー……それは?」
「見て見て、いっぱいもらっちゃった!」
ニコニコ顔の燐華が掲げるのは、かごいっぱいに入っている、この世界の金貨。
確か金貨は、日本円換算で大体一枚10万円ぐらいするはずなのだが……それが、もう溢れんばかりに入っている。
このかご一つで、1千万円分ぐらいあるかもしれない。
多分、重さも物凄いことになっていると思うのだが、そこはやはり、見た目は幼女でも召喚獣ということか。
「お、おぉ……すごいな、燐華。何のゲームをやってこんなにいっぱい貰ったんだ?」
「えっとねえっとね、ぐるぐる回って数字に玉が止まるヤツ! 赤と黒の色があってね、そこに数字が書いてあって、ぐるぐる回るヤツを回してたおじちゃんに言われてチップ?っていうの置いてみたら、よくわかんないけどいっぱいもらっちゃった!」
なるほど、ルーレットをやったのか。
……この額を見るに、一つの数字にベットしたら大当たりだったのだろう。
きっと、ぐるぐる回るヤツを回していたそのおじちゃんの頬は、引き攣っていたに違いない。
「……どうやら、一稼ぎはこの子がすでにしてくれていたみたいだな」
「? どうしたの、みんな? そんなヘンな顔して」
苦笑気味に笑う俺達三人を見て、燐華が不思議そうに首を傾げた。




