緊急依頼《1》
「――揃っているな、お前達。いいだろう、覚悟は出来ていると見える。詳細に移ろう!」
そう声を張り上げるのは、冒険者ギルドでいつも俺達の応対をしてくれている、スキンヘッドのおっさん。
なんかよく知らんが、どうもこのおっさん、冒険者ギルドにおいてそこそこ偉い人だったらしい。
よくこんな、週末の趣味は強盗です! みたいな、そんな凶悪ヅラのおっさんが出世出来たものだ。
いや、完全に偏見なんだけどさ。
「これを見ろ!!」
と、おっさんがバンと壁のボードを叩いて示すのは、簡易的な王都近辺の森の地形が描かれた、一枚の地図。
そこに、ジグとレグドラが暴れ回った痕跡についての書き込みが入っており、棲息地域だと思われる範囲が円で示されている。
でも、すみません、そこには本来、何にも棲息していないんですよ。
なんせ、我がギルドの中でのんびり待機していますので。
「これが、対象の棲息域だと思われる予想エリアだ! だが、途中で何故か、ソイツの痕跡が無くなっていた。恐らく、飛ぶ手段を有しているのだと思われるが、その可能性を加味した場合、予想棲息域はさらに増大する。そのことを念頭に置いておけ!!」
――その後、おっさんによるブリーフィングが続く。
今回編成される調査隊は、まず一週間の調査に出掛け、それで見つからなかった場合一度王都に戻って情報の共有を行い、それから再度の調査に出掛ける。
そして、それからまた一週間の調査を行い、それでも見つからなかった場合は王都へ帰還、再び情報の共有を行ってから、最後の一週間の捜索、となるそうだ。
一か月経ってもなお、何の痕跡も見つけられなかった場合にのみ、すでに脅威は移動した後である、と判断され、ようやく緊急依頼の解除が為されるとのこと。
また、今回参加する冒険者分の物資はしっかりと用意してくれているらしく、こちらで別に用意せずとも馬車四台分で食糧などの供給をしてくれるとのこと。
なので、今回の調査隊の編成としては、実際に調査に出る組と、その馬車を護衛する組にと分けられるらしい。
俺達のような、緊急依頼への最初の動員対象となるⅦ級は、その馬車護衛組に編成されるとのことだが……。
何も出て来なかった場合でも、報酬は一か月分しっかりと出るようで、さらに討伐に成功した場合には、結構な額がその討伐に参加した者の功績順に別途報酬として出され、さらに冒険者のランクを昇格試験無しで昇格出来るようになるらしい。
なかなか大盤振る舞いのように見えるが……まあ、それでも、正規兵を動かすよりはこっちの方が安上がりで済むのだろう。
それ程に、軍隊とは動かすのに金が掛かると聞いている。
前世の知識だがな。
「――以上だ!!一時間後に南門から出発する、すぐに準備に取り掛かれ!!」
と、おっさんが言葉を締め括るのと同時に、冒険者ギルドに集まっていた冒険者達が、一斉に動き出す。
装備の最終点検をし始める者や、仲間内で何かの確認をし始める者達。
もうすでに準備は全て終わっているのか、すぐにギルド内部から外へと出て行った者に、冒険者ギルドに併設されている購買のようなところで、何かを買い漁る者。
俺が思っていた以上に、参加人数が多い。
というか、最終打ち合わせが始まる少し前に言葉を交わしたおっさんによると、参加が無理な者以外は全員揃っているのだそうだ。
命の危険がある緊急依頼な訳だし、ばっくれるヤツも普通におり、それで冒険者の資格が剥奪されるのなら申し訳ないな、と思っていたのだが、そういうヤツはいないとのことだったので、ホッと胸を撫で下ろす思いだ。
どうも、緊急依頼は危険ではあるものの、見入りの大きい美味しい依頼であると考えられているらしく、強制であるということも相まって、参加拒否を選択する者はほとんどいないのだそうだ。
異世界の住人も、なかなかに強かな者達である。
まあ、そうじゃなくとも、緊急依頼の発令とはそのまま、王都に対する危険がある訳だからな。
ここに住んでいる住人である以上、参加しないという訳にもいかないのだろう
そうして、出発に向けガヤガヤと騒がしくなっていくギルドの中で俺は、左右に立っているネアリアとセイハへと口を開く。
「よし、そんじゃあ俺達も行こうか。お前ら、装備の点検は……」
「準備は万端です、マスター」
「アタシは整備士だぞ?」
言外に「そんな当たり前のことを聞くな」という意思を示すネアリアに、俺は手をヒラヒラと振って答える。
「へいへい。じゃ、集合地点に向かおう」
「ったく……マジで不毛な遠征だな」
まあ、本当は大型魔物なんて存在しないからね。
完全に茶番だからね。
「……ですが、ネアリア。これで大分、時間の短縮になるという結論がすでに出たはずです。あまり、悪し様に言うのもどうかと……」
「甘ぇんだよ、アンタらは基本的に頭領に対して。アタシらは頭領のお守りしてんじゃねぇんだから、言うことはきっちり言うべきだろ」
セイハに反論しながら、並んで歩く俺の胸をコンコンと片手で叩くネアリア。
――セイハが言った時間の短縮というのは、今朝少しだけ話し合い、変更した方針のことである。
俺達は、冒険者ギルドでのランクは積極的に上げることにした。
別に、俺達が目立っても良いことなんて無いのは今も同じなのだが……ただ、冒険者ランクの上昇に従い、付随するその特権の内容に鑑みて、むしろ今回はチャンスではないかと判断したのだ。
その方針を変えるきっかけとなった特権とは――進入不可エリアへの通行権である。
これは冒険者ギルドに限らず、他の商人ギルドや職人ギルドなどにおいても同じなのだそうだが、そのギルドでのランクが上昇していくにつれ、その者の信頼性もまた上昇する。
すると、それに伴い貸し金業者――まあ、現代で言う銀行のようなところで融資を受けられる額も増えて行き、今まで入れなかった場所、例えば『貴族街』、『王城近辺』への通行なども可能となるのだ。
俺達が今、絡もうと考えている一カ月後のデカいイベント――『国王選定の儀』に向け、それが行われる中心となる、権力者の揃った『貴族街』での情報収集が可能となれば、それは俺達にとって大幅にプラスになると考えられる訳だ。
まあ、忍び込んでしまえばそんなものはいらない訳だが、そんなことをせずとも正面から堂々と入ることが出来るのであればそれに越したことは無いし、無暗に危険を冒す必要も無くなる。
それに、自分でこういうのもなんだが、俺の『隠密』技術は装備群も相まって、セイハやネアリアのソレとは一線を画しているからな。
俺だけが忍び込んで情報収集しても、それでは効率が悪いことを考えると、彼女らが普通にそこへ出入り可能になるのは、大きなプラスとなるのだ。
と、そんなことを考えながら俺は、冒険者ギルドの外へと出る開け放たれたままの扉を潜り、ネアリアへと言葉を返す。
「まあでも、実際ネアリアはそういうことしっかりと言ってくれているから、助かってるよ。ありがとな」
そう言って俺は、燐華や玲などにしているように、いつもの調子で手を伸ばし――彼女の頭を、撫でてしまっていた。
すぐにハッと気が付いた俺は、その撫でる手を止めるも……しかしネアリアは、その俺の手を叩こうとはせず、
「……フ、フン。わかりゃあいいんだよ」
少し早口気味にそう言い放つと、こちらと顔を合わせようとすることなく、スタスタと俺達の前を進んで行く。
「……怒らないのな」
「フフ……彼女も素直じゃないですね」
そう、クスリ、と笑みを溢すセイハ。
「オイ、何止まってんだ! さっさと来いよ!」
「お、おう。――行こうか、セイハ」
「はい、マスター」
そして俺達は、彼女の後ろを付いて行き、冒険者ギルドを後にした。




