↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神からもらった俺の預言が、再翻訳でしか伝わらない!?  作者: 稲荷竜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/30

30話

 五年という歳月が流れた。

 各国の情勢は、一応の安定を見せている。

 預言者なしでもみんな、やっていけるみたいだ。



 ……とは言え、魔王になった俺をまったく蚊帳の外に置いてくれるかと言えば、そうでもない。

 顕著なのは、妖鬼族。

 彼女らは、一族全体が呪いを解かれた事件以来、すっかり俺の部下みたいに振る舞っている。


 ……実は、クレーターの中央付近に、俺用の城を建ててもらったのだが。

 妖鬼族の兵士やメイドが入り浸り、熱心に俺の世話をやいていた。




「魔王様、我らは妖鬼族から『魔族』に種族名を改めようかと考えておるのですが、いかがじゃろう? 魔王様への感謝を忘れぬため、必要かと思ってのう」




 勝手にしてくれ、とゴーサインみたいなものを出す。

 扱いがぞんざいなのは勘弁して欲しい。

 常日頃からまっすぐすぎる感謝の念を向けられるというのは、照れるものなのだ。

 照れ隠しの結果、ついつい偉そうになってしまうのだとどうかご理解いただきたい。




 オフィーリアは、すっかり大人の女性に成長した。

 気弱さは相変わらずだけれど、芯はしっかりしているみたいで、他種族をまとめている。

 それでも、たまに相談に来る。



「魔王様、民が、不作で、あ、あえいでおりまして……」



 こういう、人力ではどうしようもないことをどうにかするのが、最近の俺の仕事だ。

 魔法で土地を豊かにする。



「あ、ありがとう、ございます……これで、来年も、みな、生きられる、でしょう……」



 俺にとっては簡単なことだが、みんなには感謝される。

 だから俺のライフワークは、魔法を研究することになっていった。


 より効率よく。

 もっと効果を高く。


 次第に、人の身でも使えるように研究していく。

 神の末裔ということで、適正がありそうな真族に、魔法を教えたりもした。

 中でもベリアルは、とてもすごい適正を見せた。



「あら魔王様、ベリアル様ね、最近気付いたんだけど、魔法の才能あったみたいなの。……かわいくて高貴で魔法も使える、魔法少女ベリアルちゃんとしてこれからは生きていくわ」



 彼女は相変わらずだ。

 ただ、見た目はやっぱり、大人になっている。

 そして、俺の魔法研究を手伝ってくれているのだった。


 研究は、一応順調だ。

 でも、今は真族しか魔法を使うことができない。

 そのうち他の種族も使えるような、簡単な魔法を開発しようと、俺とベリアルは研究の日々を送っていた。



 半獣族の姉妹は、仲むつまじく暮らしているらしい。

 が、たまに、ノイは持ち前の考えなしさで妹に怒られるようだ。

 そういった時に避難所となるのが、俺の住む魔王城だった。



「………………妹が、結婚するの、やだ。せめて魔王どのがもらってくれたらいいのに」



 彼女の最近の悩みは、それらしい。

 体はすっかり大人だが、彼女はまだまだ子供のようで安心する。



 安心。

 時間の流れですべてが変わる中、俺は『変わらないもの』に対して、安心感を覚えるようになっていった。



 ……最近、思うことがある。

 なるほど、これが『神』の苦悩か、と。


 無限の寿命。

 老いることのない体。


 でも、まわりのみんなはいつか老いる。

 いつか死ぬ。


 今はまだ五年程度だけれど、きっと、もっと長い年月が経っていけば、もっとつらいことにもなっていくだろう。

 ……寂しいという思いは、禁じ得ない。

 そんな心の隙間に入り込むように。

 突然、魔王城に現れた女神が、言う。




「あなたの苦悩がわかるのは、わたくしだけですよ」




 悪魔みてーなタイミングだった。

 俺は、玉座に肘をついて彼女を見る。



「……俺さ、魔王になってから今までがんばった気がするんだよ。人の生活を豊かにしたり、魔法について研究したりさ」

「そのようですね」

「自分にできる精一杯はしてきたつもりだ」

「はい」

「もういい加減、俺は駄目人間じゃないよな?」

「いいえ、まだまだ立派な、駄目人間です」

「お前、もう俺のこと駄目扱いしたいだけだろ」

「ちゃんと根拠もありますよ」

「……どんな?」



 どうせ、トンデモ理論が来るんだろうと身構える。

 女神は慈愛に満ちた笑みを浮かべて、言った。



「昔も今も、あなたは出自に振り回されています」



 昔も、今も。

 前世も、今生も。



「どんな産まれになろうとも、なじめない魂のかたちをしているのです。お気づきになられませんか? 前世は無能すぎてなにをしても駄目だった。今生は、有能すぎるご自身に嫌気がさしてはおられませんか? 長すぎる寿命。老いない肉体。かつて人間だったあなたが望んだすべてで、あなたは苦しんでおいででは?」

「……まあ、そうだけどさ」

「普通の人は、慣れるのです」

「……」

「あなたが駄目というのは、『順応できない』その一点に尽きます。いらない疑問を抱き続け、不相応な不満を抱き続け、必要ないことで悩み続け、受け入れるべき現状を受け入れられない」



 女神は優しい声で語る。

 俺は、なにも言えず、彼女の言葉を聞いた。



「あなたはなにも悪くない」



 女神は言う。

 俺は、なぜだろう、涙が出そうになった。



「ただ、あなたは、どんな入れ物にも、魂のかたちが絶望的に合わない人なのです。……人とは順応する生き物なのに、あなたはいつまでも順応できない。これを駄目人間と言わずどう言いましょうか」

「……」

「その結果、毎日不満だらけで、愚痴をこぼして、現状が悪いんじゃないかとあれこれあがいて、でも失敗を続ける。客観的には成功していても、主観的には絶対に成功できない人。それがあなたで――それこそ、わたくしの好む駄目人間です」

「……そんなことは」

「頼ってみませんか、わたくしを?」



 本当に悪魔のささやきだった。

 うん、まあ、反論も試みようとしたが、おおむね言う通りだ。

 今が不満だから、色々やり方を探して。

 女神を頼れば、ひょっとしたら全部うまくいくんじゃないかと、思ってしまう。

 そして俺は、この誘惑を振り払えない。



「わかった。頼らせてくれ」

「神と魔王のカップルが誕生ですね! ひゃっほーい!」



 ……女神がひゃっほーいとかはしゃぐのか。

 世も末だな。



「いやー長かった! あなたが素直なら三行ぐらいで終わりましたよこの話!」

「どういう比喩だ」

「でも言い方が曖昧でいまいち伝わりませんね。ほら、わたくしのことが好きなんでしょう? はっきり言ったらどうなんですか?」

「たとえお前に恋焦がれていたとしても、今の一言は充分に心を冷ますものだったぞ……」



 クッソうぜぇ。

 早まったかなという気分だ。

 だが、まあ。

 きっちり言葉として伝えるのが、礼儀だろう。

 ……でも少々の異種返しはしてやる。



「まあ、その」

「はい!」

「なんて言うか――月が綺麗ですね」


 それは『愛している』の再翻訳。

『I love you』の、俺が知る中でもっとも小粋な訳し方だ。

 女神はぽかんとする。


「いえ、太陽の方が好きですが」

「通じろ!」


 女神はどうやら、あまり日本の昔の小説を読まないようだった。

 やっぱりろくなもんじゃねえ。

 預言者やめて正解だ。


 だって。

 どれほど大事な想いをこめても、再翻訳じゃ伝わらないから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。