20話
「か、勘違いされるとイヤだから最初に言うけど、ベリアル様、別に裸になるの恥ずかしくない人じゃないからね!」
顔を赤くしたまま言う。
見ているこちらが恥ずかしい。
……たしかに導き出された答えは変態そのものだった。
だが、もとは俺がした預言だし。
加えて言うなら、ベリアルは石化を解くために色々しているようだった。
なるほど『今までしたことのない行動』という意味では、『全裸散歩』はアリだろう。
だから俺は理解を示す。
「うん、わかってるよ。ベリアルは変態じゃないよ。信じるよ」
「ちょっと! 信じてないみたいな言い方しないでしよ!」
信じてるよ。
でも、言い方がうさんくさくなってしまうのは許してくれ……
だって発想がおかしいもん……
俺が同じ文言を聞いたところで、真っ先にその発想は出ないよ。
「……まあ、その。えっと……わかった。裸になるのは恥ずかしい。裸で歩き回るのはもっと恥ずかしい。これが俺たちの共通認識だ。それは前提として話を進めていこう」
「なにその大人の対応みたいな……いいわ。許してあげる。それで問題は、実際にやるかやらないかよね」
「やる……しかないんだろうなあ……」
ぶっちゃけ、他の解釈が思いつかない。
……ベリアルの解釈が強烈なので思考停止しているだけかもしれないが。
覚悟を決める必要がありそうだ。
だが。
「イヤならいいのよ」
ベリアルは意外なことを言う。
俺は慌てた。
「いやいや、よくないだろ! 石化がこのまま進行したら死ぬかもしれないんだぞ!?」
「あら、やっぱり死ぬのね。そうかとは思ってたけど」
「……とにかく、イヤならいい、で済ますことじゃない」
「でも、ベリアル様、知らない人のために裸で街中歩き回れって言われたらイヤよ。……あなたには拒否権があるわ。そのことはきちんとわかっておいて」
「さっきから意外なことばっかり言うな。ベリアルはもっと……身勝手で、こっちの都合なんかおかまいなしなヤツだと思ってた」
「……ダーリンも、意外と遠慮なくものを言うわね」
彼女がちょっとひるむ。
俺は笑った。
「だって、誘拐されたし」
「それは……うん、まあ、そうね。ベリアル様、ほんのちょっと強引なとこあったかも。っていうか、強引だったわ! ただその……もう死ぬしかないと思ってたし、ほんのちょっとヤケになってたっていうか。生きられるってわかったら、もとの恥ずかしがり屋なベリアルちゃんが出て来ちゃったってわけ。わかるかしら?」
「……ヤケになるほど追い詰められてたのか」
そりゃそうか。
『石化して、そのうち死ぬ』。
そんな病気にかかったら、俺なら発狂しかねない。
おまけに『いつかいきなり全身石化』ではない。
『だんだん体が石に変わっていく』という症状なのだ。
想像でさえ、そんな恐怖味わいたくない。
今だって左腕は、きっと石のままだろう。
ようやく助かるかもしれない。
それなのに、ベリアルは笑って言う。
「今思えば、誘拐はなかったわね。うん、ベリアル様、反省よ。半獣のとこに攻め入ったのを見てるから、預言者をさらうデメリットはわかってたのにね。……でも、しょうがないわね。ダーリンの顔がよかったから」
「……顔ってそこまで重要かなあ」
「重要よ」
即答だった。
……俺は、今の顔こそイケメンだが、本来は不遇フェイスである。
ベリアルの主張は、わかるけどわかりたくないものだった。
なのでささやかな抵抗を試みる。
「もっとこうさ、性格とか、能力とか、色々見るべきところあると思うけど」
「性格は変えられるわ。能力は身につけられるわ」
「本気でそう思ってるのか?」
「…………うん、嘘。実はね、ベリアル様、あんまり性格よくないの。あと、能力だって高くないわ。真族の預言拝聴者は血統が重要なの。だからベリアル様ってば、努力とか才能で今の地位にいるわけじゃないのよね」
「それはそれで、心の離れるような話だな……」
「だからベリアル様、思うのよ。顔も産まれも重要。だって、かわいくて高貴なら、なんにもなくてもかわいがってもらえるもの」
やべえ。
俺の心がどんどんベリアルから遠ざかっていく……
顔が重要。
生まれが重要。
かわいくて高貴なら、なんいもなくてもかわいがってもらえる。
……真理なんだろうけどさあ。
なんかなあ。
と、思っていると。
ベリアルがつぶやく。
「……だから、顔のいい人との子供がほしかったのよ」
頬を赤らめて。
でも、悲しげに。
ただのイケメン好き――というわけでも、なさそうだ。
俺はたずねる。
「子供って……俺と子供作ろうと思って誘拐したのか……?」
「そうよ。だって次の預言拝聴者は遺さないといけないもの。……だからね、ベリアル様は、自分が呪いだか病気だかわからないもので死んでも、産まれてくる子が差別されないように、かわいい顔の子供になれるように、いい顔の相手を探したのよ」
「……かわいくて高貴なら、かわいがってもらえるから?」
「そう。……だって、ベリアル様ってば、このかわいい顔しか遺せないもの。功績もないしー。財産はあるけどそれはベリアル様の両親からのものだしね。……精一杯、遺したかった。でも、生き残れるなんて思ってなかったわ。てっきり数年で死ぬと思ってたもの。……って、まだ助かってないんだけどね」
彼女は笑う。
俺は、なにも言えなかった。
「でも、よく考えたら、ベリアル様ド外道なことしてたわね。子作りのためにそのへんの男さらってくるとか、逆の立場で考えてみたらありえないわ。人の尊厳を踏みにじってるわね。……ちょっと冷静になったらすぐわかったもの」
「……」
「だから、イヤならいいのよ。あなたは協力する義務はないわ。ベリアル様の非道行為を怒ってもいいし、責めてもいい。逃げるなら逃げてもいい。『イヤならいい』っていうのは、そういうことよ。あなたはあたしを罰してもいいし、見捨ててもいい。そういうこと」
……石化とか。
死ぬかもしれないから、預言拝聴者となる子供を遺さないといけないとか。
そんな不幸、見捨てておけるわけがない。
ここで見なかったことにしても、あとで絶対思い返す。
覚悟は決まった。
だから、俺は改めてこちらから提案することにした。
「ベリアル。一緒に裸になって徘徊しよう」
彼女の瞳を真っ直ぐに見つめる。
ベリアルは。
「……ありがとう」
俺の提案に、涙を浮かべて礼を述べた。




