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13話

 人間族の街に戻ろうと思ってたら。

 武装した集団に囲まれた。




「そこの預言者を乗せた馬車! 止まらないと痛い目に遭うわよ!」




 馬車の小窓から外を見る。

 俺たちを囲んでいるのは、数十人の集団だった。


 馬らしき動物に乗った、見たことのない特徴を備えた人々。

 人々は一見して悪魔のように見えた。


 ねじくれた角。

 コウモリめいた羽根。

 異様に白い肌。

 それに、左右で色の違う瞳。


 そして。

 虹色の髪。


 ……その髪の色を、俺はよく覚えている。

 ポンコツ女神と同じだ。



 集団のリーダーは女性のようだ。

 赤と黒を基調とした、露出度の高い服装。

 ひときわ大きい羽根。

 そして、左目は赤、右目は青のオッドアイ。

 せいぜい中学生ぐらいの年齢に見えるが……

 種族によって成長速度に違いがあるなら、見た目からの分析はあまり役立たない気がする。


 というかクッソ美人だな。

 見た目年齢的には美少女か?

 ノイもオフィーリアも、美人度は高い方だが……

 あの二人がかすんで見えるぐらいに美しい顔立ちをしている。


 俺がこの状況にもかかわらず、見惚れているあいだにも。

 彼女が、よく響く声でこちらへ叫ぶ。




「はい、きちんと止まれたわね。偉いわよ。褒めてあげる。ちゃんと立場をわかってるじゃない。あんたたちはもう、アレも同然よ。アレ……えっと……アレ……アレはアレね! とにかくアレだからアレしなさい!」




 俺は彼女たちがなんなのか、知らない。

 だが、リーダー格の女性がどういう人なのかは、一発でわかった。

 たぶん馬鹿だ。



 ……よく頭の悪い人にいいようにされるなあ、俺。

 思わず同席しているノイを見る。

 彼女は無表情でこちらを見つめ返して、つぶやく。



「……預言者の乗った馬車を取り囲むなんて、他の国が黙っていない。後先を考えられない人たちだと、思う」



 お前が言うな。

 だがまあ、俺の乗った馬車にろくな警備がいなかったのも、そういう理由なのだろう。

 ……万が一を想定できなかったノイの手違いだとは思わないでおきたい。


 馬車の外。

 悪魔めいた特徴を備えた女性は、美声で高らかに叫ぶ。




「預言者の身柄は、真族預言拝聴者である、このベリアル様が確保したわ!」




 預言拝聴者の頭おかしいよ。

 今のところ、預言を実力で拝聴しようとする人ばっかりだ。


 しかし――真族。

 なるほど、悪魔めいた特徴を持っているのが、真族という種族なのか。


 いまいち緊張感を高めきれずに、変なことばかり考えてしまう。

 そのあいだにも、真族預言拝聴者、ベリアルは一人で続ける。




「よくお聞きなさい預言者! このベリアル様がありがたいお話をあげるわ!」




 武力をちらつかせて言う。

 こういう『ありがたいお話』は『ありがたがらないとひどい目に遭うお話』と相場が決まっているのだが。


 ……どうするかなあ。

 俺は、手にした杖にはまっている、黄色い宝石を見る。


 この宝石に俺がもしタッチをしたならば。

 あたり一帯を焦土にしてでも、俺の身の安全を保証してくれる。

 そう女神は言っていた。


 ノイを焦土にされても困るが……

 赤い宝石で連絡してからにすれば、いい具合の焦土を作ってくれるだろう。

 いざとなったら頼るのにためらいはない。


 でも。

 女神の仕事ぶりはいまいち信用しきれないからなあ。



 ……とりあえず、ベリアルの要求を全部聞いてからでも遅くはないだろう。

 どうせ聞いた瞬間『ないわー』っていう要求だろうけど。

 武力を背景に交渉するやつはろくなのいないって相場が決まってるし。


 でも、とりあえず聞く。

 するとベリアルは、こう言った。




「あんたをベリアル様の夫として、真族領地に迎えてあげるわ!」




 ……聞き間違いかな?

 思わず、馬車のドアを開けて、身を乗り出す。



 すると、ベリアルと目が合った。

 彼女の赤と青のオッドアイがこちらを捉える。

 そして、急に頬を真っ赤にして。




「何度見てもかっこいいわね……」




 とか。

 意味不明なことを言った。


 ……いや、意味不明じゃない。

 今の俺は、やたらと整った顔立ちをしていたのだ。




「半獣族の領地に攻め入った時に見て、一目惚れしたわ! やっぱり男は顔よ!」




 ベリアルは言う。

 全国のブサメンを敵に回した。



「ちょっと預言者! あんたどうしてそんなに顔がいいのよ! 意味わかんない! 結婚する!? ねえこのベリアル様と結婚するの!? どうなの!?」

「しねーよ!」



 顔は変わっても心は不細工なままである俺は、反射的に叫んでいた。

 顔で人を判断するとか、ないわ。

 ただしイケメンに限るとか言うやつは、生理的に受け付けない。

 なお前世の俺は他者に生理的に受け付けられない顔立ちだった模様。



「ふふん、いいじゃない、そういう屈服しない精神好きよ。っていうか、顔さえよければ性格はなんでもだいたい好きよ! 性格なんてあとで調教して変えればいいしね! というわけで強制的に婿入り決定! 恨むならその素敵な顔立ちを迂闊にさらした自分を恨みなさい! ベリアル様のことは恨まないでね! 好きな人に恨まれるのつらいもの! はい下僕ども、接収接収!」



 武装した真族一同が俺たちに近付いてくる。

 俺は、ノイを見た。

 彼女は猫耳をピクピクさせて、言う。


「……煙幕ならある。少しなら逃げられるかもしれない」


 ニンジャみたいな提案だった。

 そういえば、最初、煙幕でさらわれたな……


 しかしあたりは隠れる場所もなにもないクレーター地帯。

 煙幕で一時的に目くらましをしたところで、馬に乗った軍隊相手ではすぐに捕まるだろう。


 焦土にするのもかわいそうだしなあ。

 まあ、杖を取り上げられそうになったら考えるか。

 考えるより感じた方がいいって、ノイも言ってたし。


 というわけで、ノイに『それはよそう』と首を横に振った。

 ノイはすでに煙幕を投げるモーションに入っていた。

 慌てて腕をつかんで止める。

 後先考えろ。


 俺は。

 馬車から出る。

 そして、ベリアルに向けて提案した。



「大人しくするから手荒なまねをしないと約束しろ。俺にも、御者にも、ノイにもだ」

「ノイ? ……あー、たしか半獣族の預言拝聴者がノイだかノワだかそんな名前だったわね。えっ、てことは一緒にいるの? なにそれ面白くない。……でも、いいわ。ベリアル様は顔のいい男には従順なの。手荒なまねはしないわ。だいたい野蛮なの好きじゃないし。汚れるし? 疲れるし? りょーかいりょーかい。ベリアル様の名にかけて約束しましょ? 聞いたわね下僕ども! 丁重に扱いなさい! 少しでも手荒なまねしたら一族郎党皆殺しにするんだからね!」



 アイアイサー! と叫ぶ武装した集団。

 規律は厳格なようで安心する。

 っていうかベリアルの発言が怖すぎる。




 こうして。

 半獣族の国から無事に帰れると思ったら、真族なる連中に拉致されてしまったのだった。

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