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最終話:定時退社。次の現場も『ご安全に!』

新世界『天空大陸』に、初めての「朝」が訪れた。

旧世界のノイズ混じりの太陽とは違う、完璧にレンダリングされた黄金色の光が、新築の大地を優しく包み込む。


「……マスター、見て。全プロセスの稼働率、100%で安定オールグリーンよ。世界のOS(理)は、もうアタシたちが手を下さなくても、自律的に最適化を続けてるわ」


リゼが端末のホログラムを閉じ、大きく伸びをした。

彼女の横には、管理者権限を誰でもアクセス可能な『オープンソース』として公開するための、巨大な記念碑パッチサーバーが立っている。

もはや、特定の誰かが世界を独占する時代は終わったのだ。


「ああ。地盤も固まった。インフラも整った。……あとは、住人たちが自分らでこの『コード』を書き換えていけばいい」


俺は愛機の操縦席から降り、新世界の土の感触を確かめた。

そこには、かつての王都の民も、ダンジョンの探索者も、そして改心したギルドの職員たちも、等しく新しい生活を始めていた。


『主、本当に引退しちゃうのかよ!?』

『「新世界の王」になればいいのに……もったいねえww』

『同接数、ついに二百万人突破。……最後に一言、頼むぜ!』


配信のコメント欄が、感謝と別れを惜しむ声で埋め尽くされる。

俺は画面越しに、この旅を共に見守ってくれた「ユーザー」たちへ向けて、不器用な笑みを浮かべた。


「……王様なんてガラじゃねえよ。俺はただの、現場監督コントラクターだ。仕事が終われば、次の現場へ行く。それがプロの定時退社ルールだろ?」


俺がそう言い放つと、リゼが突然、俺の袖をぐいぐいと引っ張った。

彼女の端末が、今まで聞いたことのない「警告音」を鳴らしている。


「……ちょっと、マスター! 定時退社なんてまだ早いわ! 見て、これ!」


リゼが空中に展開した広域マップ。

そこには、俺たちが今いるサーバーの遥か外側――さらに高次元の「ネットワーク層」から、真っ赤なエラー信号が飛んできていた。


「別の宇宙クラスターからだわ! 向こうの世界の『論理回路』が、未知のウイルスによって物理的に崩壊しかけてる。……これ、アタシたちの重機じゃないと、物理層から直せないわよ!」


「……別の現場、か」


俺は苦笑し、再び油圧ショベルのハッチに手をかけた。

どうやら、俺の召喚重機リストには、まだまだ出番を待っている「特殊車両」が山ほど眠っているらしい。


「リゼ、準備はいいか。次の現場は、どうやら『宇宙規模』になりそうだぜ」


「当然よ! アタシのキーボードに打てない文字はないわ。……世界のバグ、全部デバッグしてやりましょう!」


俺はエンジンを轟かせ、最後の一言を配信画面に向けて投げかけた。

それは、どんな困難な現場でも、俺たちが決して忘れなかった「合言葉」だ。


「――作業開始。次の現場も、ご安全に!」


重機が放つ眩い光が、新世界の空へと消えていく。

その後に残されたのは、平和を取り戻した新しい世界と、どこまでも続く青い空だけだった。


(完)

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