データの熱。冷却水路は『水陸両用重機』で走破します
水晶の壁を突き抜けた先に広がっていたのは、視界のすべてを埋め尽くす「エメラルドグリーンの光の海」だった。
その中央、数キロメートル先には、天を衝くほどの巨大なクリスタルの塔がそびえ立っている。
あれが世界の演算を司る、中枢サーバーの本体だ。
「……マスター、止まって! あの海、水じゃないわ。超高密度の『冷却用魔力流体』よ!」
リゼが身を乗り出して叫ぶ。
彼女の端末が、狂ったような警告音を鳴らしていた。
「あの中に落ちたら最後、アタシたちの存在データが周囲の熱量で書き換えられちゃう。文字通り、自分という人格が『フリーズ』して、ただの熱に変わるわ!」
(熱対策の冷媒か。……精密機械の周りは、いつだって熱いのが相場だな)
俺はシールドマシンのハッチを開け、足元の岸壁を確認する。
岸から塔までは、光り輝く流体が波打つ、底の見えない水路が続いている。
通常の重機では一瞬で沈み、データが壊れるだろう。
「リゼ、掴まってろ。次は『水上の現場』だ」
俺はスキルを全開にし、新たな巨体を空間から引き出した。
「重機召喚――【水陸両用油圧ショベル】!」
轟音と共に現れたのは、機体の両脇に、巨大な鋼鉄の船のようなフロートを備えた特殊重機だ。
通常のキャタピラよりも数倍広いその足場は、底なしの泥濘や深い水面上でも沈まずに活動できる、まさに「水上の要塞」である。
ドォォォォォン……ッ!!
数トンの質量を持つ重機が、エメラルドグリーンの海へと飛び込む。
本来なら存在を消去されるはずの流体だが、俺の重機の装甲にはリゼが施した『絶縁パッチ』がコーティングされている。
「よし、浮力安定。……全速前進だ!」
俺がレバーを倒すと、フロートに内蔵されたスクリューが回転を始め、重機は光の海を切り裂いて進み出した。
『きたあああ! 水陸両用!』
『重機って、海の上も走れるのかよwww』
『「自分のデータが消える海」とか怖すぎ……。でも主は平常運転だな』
同接数は四十五万人を突破。
視聴者たちが固唾を呑んで見守る中、中枢サーバーの塔が刻一刻と近づいてくる。
だが、その時。
キィィィィィィィィン……!
空間に、耳を刺すような高周波が響いた。
流体の中から、透き通ったガラスのような体を持つ、数十体の「人型」が現れる。
「……ガーディアンよ。この世界の自動防衛プログラム(アンチウイルス)が起動したんだわ!」
リゼが端末を構える。
現れたのはモンスターではない。侵入者を「エラー」として検知し、排除するために生成された防衛スクリプトの具現体だ。
奴らは一斉に掌を掲げ、俺たちの重機に向かって「データ消去の閃光」を放とうとする。
「リゼ、防御は任せた。俺はあいつらを物理的に『隔離』する」
「了解、マスター! セキュリティホールはアタシが塞ぐ!」
俺はショベルのアームを振り上げ、先端のアタッチメントを、広範囲を一度に掬い取る『大容量バケット』に換装した。
実体を持たないプログラムだろうが、この世界で具現化している以上、そこには必ず「質量」の理が介在する。
俺は波打つ冷却流体ごと、迫りくるガーディアンたちを豪快に掬い上げた。
「ゴミ箱に移動する手間は省いてやる。……そのまま沈んでろ!」
バケットを力任せに旋回させ、冷却流体の渦の中へとガーディアンたちを叩き落とす。
強力な冷媒に飲み込まれた防衛プログラムたちは、自分たちの冷却機能に耐えきれず、静かに粒子となって消えていった。
「……前方、塔の入り口を捕捉! 物理ポート、解放するわ!」
リゼの叫びと共に、巨大なサーバー塔の根元に、俺たちの重機を迎え入れるための巨大なハッチが姿を現した。




