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陛下、心で愛を叫ばないでください!  作者: 碧瀬まど


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18/18

黒幕

「……キャロリア姉上、どうしてここに……」

「私もこんなところになど、来たくもなかったわ。けれどいつまで経ってもお前が死なないから」

本当に嫌になる、と大きなため息をついたキャロリアは今まで見たことのない怖気の走る笑みを浮かべ、ルティエルを見下ろした。

「お前はもうよいので、死になさい。氷結王には私が嫁ぎますから」

「……え?」

耳を疑う発言で、ルティエルは理解できなかった。呆然とルティエルがキャロリアを見上げる。ただそれだけも、キャロリアは不快感をあらわに、さげすむ目を向けた。

「あ……」

瞬間、幼い頃からの恐怖が思い出され、ルティエルの体が震え出した。

「忌々しい。私に顔を向けることはお前に許されたことではない」

「も、申し訳──」

ハロルドのそばでようやくほぐれたルティエルの心が、ジクルス国にいた時のように小さな箱の中に縮こまりそうになる。

そんなルティエルを感じ取ったのだろう。ルティエルを腕に抱き込んだままの魔獣が、キュッと体を寄せた。

(今動くと、蔦がからまって痛むだろうに)

それでも魔獣はキャロリアからルティエルを守ろうと、首を伸ばしてルティエルを隠そうとしている。

(僕なんかを守ろうとして──)

けれど、絡みついた蔦が邪魔をする。蔦に抑えつけられながらも首を伸ばそうとする姿に、ルティエルの心の中にぽっと明かりが灯る。

(この子も、ハロルドも、ミアも、いつも僕を守ろうとしてくれる)

小さな勇気が生まれた。

「キャロリア姉上、ハロルドに嫁ぐとは、いったいどういうことでしょうか?姉上も、ハロルドを好いておられるのですか……?」

毅然と、とまでは言わない。弱弱しくも、ルティエルはしっかりとキャロリアに目を向けた。

しかし、キャロリアは失笑した。

「王になど興味はない。私が欲しいのは、あの力だ」

「力……?」

わからない顔をするルティエルに、まぁよいとキャロリアは扇子を閉じた。

「あの力があれば、世界をも手にできる。何年もかけ、刺客を放ち、この国の貴族を買収して協力させるも成果がなかった。だから、お前が嫁ぐことになった時、私にチャンスが来たと思った」

「────⁉」

キャロリアの告白に、ルティエルは息をのんだ。

(じゃあ、お茶会の日、ハロルドが襲われたのも全部、姉上のせいで……)

心臓が激しく鼓動を打ち、息をするのも苦しい。平静を保とうとしても、焦りと不安で頭が混乱する。

「お前が初めて私の役に立つと思ったよ。お前があの王の子を産み、その子を我が手中におさめればよいと。だが、問題がある。一つは、ジクルス国にいたままでは私がその子と接触するの難しいこと。そしてもう一つ。子が力を持たずに生まれる可能性がある。解消策を考えていた時、お前より適性のあるものが現れた」

キャロリアが嫌な笑みを浮かべる中、ルティエルの脳裏に一人の顔が浮かんだ。

(レナティスのことだ──)

楽しくて仕方ないように、キャロリアはドレスの裾をひるがえした。

「あの娘に産ませた方が、力を持つ──いや、より強く、より高い能力を持つ子が、もしかすると現王と同じく、光と闇両方の力を持つ子が生まれるかもしれない。側室としてあの娘を迎え、私が王妃として子をこの国の王として、育て上げよう。来る日まで──」

楽しみ、と言わんばかりにクスクスとキャロリアは笑った。

「そんなことのために、ずっと、ハロルドを狙っていたのですか」

ハロルドのあの寂し気な表情は、苦しみは、ずっとそんなことのために──

「…………そんなこと?」

キャロリアの低く冷たい声が聞こえた瞬間、ルティエルはビクリと震えると、一瞬のうちにルティエルの目の前に炎が発生し、弾けた。避けることもできず、その火花から顔を背けるも、避けきれるわけはない。

「……っ!」

痛みに声も出せないルティエルを心配した魔獣が、ルティエルの顔をペロペロと舐めた。

「劣種のお前が私に話しかけるな。せめてもの温情で、教えてやっているというのに」

キャロリアの周囲に発生したいくつもの炎が、痛みに震えるルティエルに向かって豪速で飛んで来た。

「ギャ────────」

蔦で開かない口を無理に開いた魔獣が炎に向かって声を発すと、いくつかは途中で消えた。

けれど、消えることなく飛んで来た炎が、ルティエルの肩元をかすめた。

「うぅ……っ‼」

幼い頃からキャロリアの機嫌を損ね、折檻を受けていたルティエルは、こういうときに大声を出すこともできない。そうできないように、小さい頃から抑えつけられている。

(外側からナイフでえぐられてるみたいだ)

あまりの痛みに、ルティエルの目から涙が零れ落ちた。すると、ルティエルの肩元を魔獣が甘噛みした。

「初めから魔獣に食われていればいいものを。そうすれば私もこのように手を煩わせずに済んだ」

キャロリアは面倒ごとをかけられたと、大きくため息をついた。そっとキャロリアを見上げたルティエルは、自分の心臓が大きく脈打ち、体温が上がっていくのを感じた。

(痛みが、遠のいていく──)

魔獣に食まれるにつれ高まる体温と鼓動に、ルティエルは短い息を何度も吐いた。

「お前はもう用済みだ。そのまま果てなさい」

ルティエルに背を向けたキャロリアは、後ろに声をかけた。

「では、あとは頼みますよ」

「は、はい」

誰に命じているのだろうと目を向けると、キャロリアと入れ替わるように闇から現れたのは、猫背でもみ手をしているザンク卿であった。

「か、かしこまりました。あの、キャロリア様、約束のものを……」

ゴーダン卿の前にいたときより、ハロルドの前にいたときよりザンク卿はキャロリアにへりくだっていた。

「あぁ、そうでしたね。では手付として。残りはやり遂げてから渡しましょう」

地に膝をつけ、持ち上げたザンク卿の両手にキャロリアは目が痛むほどの輝きと、禍々しさを放つ小さく丸いストーンを渡した。

「あ、ありがとうございます、ありがとうございます……!」

その場でキャロリアにひれ伏すザンク卿を横目に、キャロリアは迎えに来た馬車で去っていった。

「さ、さてルティエル様。申し訳ないですがここで死んでください」

ルティエルの肩から魔獣が口を離すと、もう痛み傷跡も残っていなかった。ぺろりとルティエルの頬を舐めた魔獣がグルグルとザンク卿を威嚇するも、それを面白がるようにしていたザンク卿は、キャロリアから受け取ったストーンをゴクリと飲み込んだ。

「あぁ……、力が湧き上がってくる」

ザンク卿は喜びで震えているようだ。

「さ、ルティエル様」

手のひらに大きな炎を起こしたザンク卿は自らの炎に驚いたように「ひっ⁉」と小さな悲鳴を上げ、急いで炎を払った。

(自分の炎に驚くなんて、……変だ)

ルティエルが不審な目を向けると、ザンク卿もその視線に気づいたのだろう。乾いた笑い声を上げたザンク卿は人差し指に乗る程度の小さな炎を起こした。

「私が本来、自分の力で起こせるのはこの程度。けれどキャロリア様が約束してくれたのです、大いなるキャロリア様のお力を私にも与えてくださると!」

ザンク卿の掌では、コインほど小さなガラス玉が浮かんでいた。その中には、赤とオレンジの炎が燃え上がっている。

「この力があれば、私は生まれ変われる。もう。ゴーダン卿の顔色をうかがわなくていい。これからはキャロリア様に従って、この国で私が、私がこの国を動かしてく!」

狂気的な笑い声をあげるザンク卿は、不気味で、何かにとりつかれているように見える。

「力があるとか、力が強いから重臣に慣れるわけじゃないでしょ!力を使うのは、魔獣討伐や、防衛や、民の生活を守るときだけだ!」

「そんな詭弁はいらないのです」

急に笑い声の止まったザンク卿が、ルティエルを見下ろした。

「おかしいのですよ、私は本来もっと上の立場に付くはずでした。なのに、未だに私は一介の大臣ですらない。これもそれも、私に魔力が足りないから。生まれ持った才だけで判断されるなんておかしい。この力があれば誰をも蹂躙できる。私が、私がこの国で最も力のあるものになれる……!」

何を言っているのかルティエルには理解できなかった。誰も、ハロルドもゴーダン卿も、ザンク卿をないがしろにしてなどいない。ただ、ザンク卿がゴーダン卿の後ろにいただけだ。前に出ようとしなかっただけだ。それが、わからないのだろう。

「ルティエル様、私の未来のために死んでください。大丈夫です。キャロリア様は陛下に手出しは致しません。陛下の子を産むのは、ゴーダン卿の娘ですから」

ザンク卿は楽し気につらつらと話し続ける。

「レナティス様もご了承済みです。余程あなたのことが疎ましいようで、蔦の力もお貸しくださいました」

さっきから、おかしいとは思っていた。キャロリアもザンク卿も炎の能力者であるのであれば、この蔦を操る者は別にいるのではないかと。

「ではルティエル様。もう疑問に思うこともなくなったでしょう。私も、この力の最大出力がどうなるか知りたかったので良い機会です。それでは、さようなら」

ルティエルに向かって手を伸ばしたザンク卿は、大きな炎の渦をルティエルに向けた。迫りくる炎に、蔦で身動きも取れないルティエルはぎゅっと目を閉じた。魔獣も叫び声で対抗するも、口を抑えられた状態で全力を出し切れない。段々と押されている。

“ルティエル”

目を閉じたルティエルの頭に浮かぶのは、愛し気に名を呼ぶハロルドの顔。

(ハロルド、ごめんなさい──っ⁉)

降り注ぐ炎がルティエルに届く寸前、ルティエルに絡みついていた蔦が身体から離れた。

見上げた先では、蔦が盾のように、大きな円となり炎からルティエルを守っている。

「なっ……くそ──⁉」

その光景を見てもなお、ザンク卿は炎を放ち続け、蔦はごくごくと飲み込んでいく。

「蔦ごと、燃やし尽くしてやる!」

しかし、より大きな炎を放つも、ザンク卿の炎はキャロリアに与えられた力。それを使い切ったように、炎は段々と弱まり、ついにはふっと消えた。

炎を飲み込んだ蔦は大きく太く膨らみ、腹いっぱいになったように、げふっと息を吐いてからシュルシュルと大きなボール型となり、ルティエルの足元に転がった。

(これ、もしかして熱食植物……?)

丸まった蔦を拾い上げるも、その熱さにルティエルは手を離しそうになった。

「なぜだ、なぜだなぜだなぜだ⁉」

頭をかかえ、ザンク卿は叫んでいた。

「私に協力すると言ったのに、なぜ⁉私を侮っているのか⁉」

ザンク卿はコートのポケットに手を入れ、取り出したいくつものストーンをザラザラと飲み込んでいく。

「許せん、どいつもこいつも私を愚弄して!」

ザンク卿は気づいていない。自分を愚弄し続けているのは、自分自身だと。

ザンク卿は言葉にならない言葉を叫び続けながら、目に見えない亡霊に抗うように周辺に炎を放ち続ける。その炎は周辺の木々へと燃え移り、次第に大きくなっていく。

(早く、止めないと──)

痛む身体を支えてルティエルが立ち上がり、魔獣に手を添えた。

「いい子だから、ここからみんなを連れて逃げて」

ルティエルが祈りにも近い気持ちで魔獣にささやくと、魔獣は空に向かって咆哮した。すると、燃え上がる炎から逃れるように動物たちが魔獣のもとへと集まってきた。魔獣はその様子を確認してから、ルティエルの頬にそっと顔をすりつけると、大きな翼を広げ、上空へと舞い上がった。ゆっくりと、ついてこれる速さで西へと飛んでいく魔獣を追いかけるように動物たちは追いかけていく。

「……よかった」

ひとまず動物の被害は最小限にとどめられるかもしれない。けれど、広がり続ける炎に森は甚大な被害を及ぼすだろう。そしてこの炎は、討伐隊のもとに及ぶのも、街に及ぶのも時間の問題だ。

(どうにかして、ザンク卿を止めないと)

魔獣を見送ったルティエルが振り返ると

「────っ⁉」

すぐ背後にいたザンク卿がルティエルを押し倒した。

(早く、立ち上がらないと)

右腕を付いて起き上がろうとしたルティエルであったが、ズキンと腕が痛み、その場にまた倒れてしまった。やけどの傷は癒えたが、蔦の傷はまだ残っている。

「仕方がないですね」

「あぁっ⁉」

ザンク卿がルティエル腹を蹴り、思わずルティエルはうずくまった。ザンク卿はルティエルを仰向けにし、馬乗りになった。見下ろしてくるザンク卿をルティエルはきつくにらみ上げると、ザンク卿はにやりといやらしい笑みを浮かべた。

「これで最後なのですから、私も少しくらい楽しんでもいいですよね……。初めてあなたを見たときから、苦しむあなたの顔を見たいと思っていました」

荒い息を吐きながら、じっとルティエルを見つめていたザンク卿は、キャロリアの炎で焼かれ、破れた部分からルティエルの上着を勢いよく剥いだ。するとルティエルの白い肌が胸元まであらわになった。

「……っやめ──」

必死に抵抗しようと上がらない腕でザンク卿を叩くも、手首を抑えられてしまった。

「大丈夫、終わったらすぐに灰にしますから。きっとあなたを蹂躙したとなれば、キャロリア様もさらに私を取り立ててくださるだろう」

「やめてっ!触らないで……っ」

首から胸元に、腹から胸にかけてザンク卿が手を這わせ、ルティエルは気持ち悪さにゾッとした。

「いやだっ!ハロルド!ハロルドハロぅっ!」

泣き叫ぶルティエルの口をザンク卿が塞ぐと、真横から黒い閃光が飛んで来た。

「……っがはっ!」

直撃したザンク卿は真横に倒れこみ、体中が痺れたようにのたうち回っている。

「私のルティエルに触れるな」

奥底から出たような、低く冷たい声のもとに目を向けると

(──ハロルド)

見たこともない険しい顔つきのハロルドが、地上からくぼみへと降り立った。

「ルティエル、無事か⁉」

「ハロルド……」

ルティエルの、胸元を手で抑えた服の乱れと、雪とザンク卿に触れられたせいで、ルティエルの白い肌が赤く色づいた様子に、ハロルドはマントを取り、ルティエルにそっと被せ、力強く引き寄せた。

「すまない、私が離れたせいで」

「ハロルドのせいじゃ、ありません」

痛いくらい抱きしめてくれる、ハロルドの力強さに安心したルティエルの頬に、涙が伝った。

「……ルティエルを傷つけるとは、万死に値する」

「────⁉」

ルティエルを抱きしめたまま立ち上がったハロルドは、そのまま四つん這いで逃げ出そうとしていたザンク卿をにらみつけた。

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

ハロルドのひとにらみで怖気づいたのだろう。腰が抜けたように、ほふく前進でザンク卿は逃げようとする。

「逃げなくともよい。お前はすぐに殺しはしない」

眼光だけで人を殺しそうなハロルドが、人差し指を軽く動かし闇の力を放つと、ザンク卿の左脚に刺さった。

(これが、ハロルドの闇の力)

ゾッとするほどのハロルドの様子に、ルティエルはハロルドの首にしがみついて、様子を見ていることしかできずにいた。

つんざく悲鳴を上げたザンク卿は、まだ残っていた力を放つも、ハロルドの作った防御膜を前に太刀打ちもできない。

「来るなぁぁぁぁぁ!」

泣き叫びながら炎を放っていたザンク卿であったが、ついに力もつき、キャロリアから受け取ったストーンもなくなったようで必死にポケットの中を探すも見つからず、落ちていた石をハロルドに投げつけていく。

「もう終わりか?つまらないではないか」

ザンク卿の目の前に立ったハロルドは周囲に力を放ったのか、黒の粒子が周囲をたゆたっている。

「わ、私はただ、この国を憂い、この国を思って──」

「ならばその結果を見せてもらおう」

その力が今後は、ザンク卿の肩を突いた。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ほら、どうした?私は逃げも隠れもしていないぞ」

肩を庇うように、ザンク卿は背を丸くした。

「これだけで済むと思うな。国を憂いて?ふざけたことを」

ハロルドの冷笑を見ているルティエルでさえも寒気を感じる。

(こわすぎる……)

ハロルドは、腹の底から湧き上がる怒りを抑えきれそうもない。己の欲望のため、己に都合のいい理由で国を動かそうとする者も、民に被害を与えるものもこれまでもいた。そういう者は容赦なく罰し、殺してきた。今回はそれだけではない。誰よりも、なによりも愛おしく慈しんでいるルティエルに手を出された。

(ただ、殺すだけではおけない)

そっと、ハロルドはザンク卿へと腕を伸ばした。

「死よりも、苦しみを──」

ハロルドの腕に巻きつく様に、黒い粒子が集めって来た。この粒子がザンク卿に巻き付けば、徐々に水分を内外から奪い、枯渇する空気の中喘ぎ、段々とその苦しみが痛みに変わる。

(あぁ、まただ)

こういうとき、心の中に禍々しく、己でいられなくなるような狂気がすぐそばにある。あと一歩、この線を超えてしまえば常人でいられなくなるような──

「ハロルド‼」

急な大声に、ハロルドの闇に落ちいく視界が晴れていくようだった。

「ハロルド、僕は、大丈夫だから」

自分より、小さく、弱い。ずっと守っていかなければならない存在だと、出会ったときから思っていた。けれど本当は誰よりも心根が優しく、思いやりにあふれ、己の芯を持って人と接する。

「だから、だからこれ以上はもうやめて。ハロルドがザンク卿を裁かないで。裁くのなら、ちゃんと、この国のルールに則ろう」

ルティエルは強い意志のある目をハロルドに向けた。

きっと今、ザンク卿に拷問を働こうとするハロルドはルティエルからすれば恐ろしいだろう。現に、掴まれた手から震えが伝わってくる。けれど、それでもルティエルはハロルドを止める。そんなルティエルに、ハロルドも惹かれた。

「あぁ、そうだな」

「ぎゃあっ!」

そっと腕を下ろしたハロルドは、力で作った縄でザンク卿を捕えるに抑えた。ハロルドが何かするたびにザンク卿が奇声を上げるものだから、そのたびにハロルドは舌打ちをする勢いだ。

「さて、こいつはこのまま捨て置くとして、もう片方を捕えに行くか」

「え……わっ⁉」

ふわりと体を浮かせたハロルドから落ちないように、ルティエルはハロルドにしがみついた。

「たまに浮くのも悪くないな」

「ハロルド~」

ルティエルを見つめるハロルドの瞳は、いつもの穏やかさを取り戻しつつあった。

(よかった、ハロルドが元に戻って)

そうして夜空に浮かび上がった二人は、目下に広がる炎に目をやった。

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