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死にたくないから聖女と悪役令嬢、ついでに妹を攻略します!  作者: ハムえっぐ


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第39話 集結する仲間と王子の覚悟

 その姿は、俺が前世でプレイしたゲームで見たラスボス以上の威圧感を放っていた。

 身長は軽く10メートルを超え、全身は磨き上げられた黒曜石のような、見るからに硬質な黒い鱗で覆われている。背中には夜空を覆い隠すかのような巨大な漆黒の翼が生え、頭部には天を貫かんばかりの、捻じくれた禍々しい角が二本そびえ立っている。両腕には、あの魔将バザルガスが持っていたものよりもさらに太く、強力そうな、地獄の業火のように燃え盛る黒炎の鎖が巻き付いていた。


 その顔には表情というものが存在しないかのようだった。

 全ての生命を根源から憎悪し、嘲笑うかのような絶望的に冷たい深紅の瞳だけが、爛々と輝いていた。


「ククク……フハハハハ! ついに、この時が来た! 我が永き眠りを妨げ、この世界を穢してきた矮小なる者どもよ! 我が名はゾルダーク! 全てを無に帰す、真の魔王なり! 我が復活を祝し、貴様らの絶望と悲鳴を、最初の供物としてくれるわ! 塵と化すがいい!」


 魔王ゾルダークが地獄の底から響き渡るような、聞く者の精神を直接蝕むかのような声で宣告した瞬間、周囲の空気が完全に凍りつき、凄まじいプレッシャーが俺たち全員を押し潰さんばかりに襲いかかった!


(や、やべえ……! こいつはマジで格が違う! ラスボスオーラ、ヤバすぎる……! 直視してるだけで精神が削られる! 勝てるのか、これ⁉ いや、勝つとかじゃねえ、生き残れるのか⁉)


 俺は恐怖で足がすくみ、意識が遠のきそうになるのを必死に堪え、震える声でありったけの力を込めて叫んだ!


「罠、全弾発射だあああああ! 少しでも時間を稼げ! ぶっ放せ! 魔王だろうがなんだろうが、俺の罠で足止めしてやる!」


 俺の合図と共に、裏庭の地面に隠されていた無数の落とし穴が一斉に開き、底に埋め込まれた強化版・魔気吸収結晶が禍々しい紫色の光を放つ!

 同時に周囲の建物や木々の陰から、聖水を塗った銀の杭や、カロリーネの氷魔法で強化された拘束網が、雨霰のように魔王めがけて一斉に発射される!

 さらに上空からは、事前にヴィンスとカロリーネとマリエッタに協力させて設置しておいた、聖なる力を込めた巨大な光の槍や、地脈のエネルギーを凝縮させた岩石弾が、隕石のように降り注ぐ!

 まさに、卑怯と悪意と仲間たちの技術の粋を集めた、罠のフルコースだ!


「ヌゥ……⁉ 我が復活の瞬間に、このような小賢しい真似を……! 舐めるなよ、人間ども!」


 さすがの魔王ゾルダークも、この予想外の、しかも多方面からの飽和攻撃には一瞬驚き、動きを止めたようだ!

 落とし穴を巧みに避け、銀の杭や拘束網を黒炎の鎖で焼き払い、降り注ぐ光の槍や岩石弾を巨大な翼で弾き飛ばす!


 ……やはり罠だけじゃ致命傷は与えられんか。


「今だ! 畳み掛けろ! 一瞬でも隙を見せるな! 奴が本気を出す前に叩け!」


 俺は叫ぶ! 指示を出す! それしかできない俺の役割だ!


 ガレスとマリエッタが左右から疾風の如く突進し、魔王の巨大な足元に渾身の一撃を叩き込む!

 カロリーネが絶対零度の冷気を放ち、魔王の動きをわずかに鈍らせようと試みる!

 リリアナが全身全霊で聖なる光を放ち、魔王の纏う禍々しいオーラを削ぎ落とそうと尽力する!

 ルシアンが風の障壁で仲間を的確に援護し、ヴィンスが冷静に戦況を分析し、次の一手を指示する!

 カイルは俺の傍を離れず、魔王の攻撃の余波から俺を守る!

 騎士団は三重の円陣を維持し、魔王のプレッシャーに耐えながら必死に防御に徹する!


 俺たちの今まで培ってきた全ての連携と、俺の考え得る限りの卑怯な罠が、この世界を破滅させるであろうラスボス、魔王ゾルダーク相手に一瞬ではあるが通用している!


(いける! このまま、ほんの少しでもいい! 奴の力を削げれば……! 何か勝機が見えるかもしれない! 頼む、俺の罠と、俺の仲間たち!)


 俺が淡い希望を抱きかけた、まさにその時だった。


「……愚かな。実に愚かな足掻きよ。だが、それも終わりだ」


 魔王ゾルダークが、地響きのような威圧感を込めて呟いた。その深紅の瞳が、まるで虫けらを見るかのように俺たちを一瞥する。


「我が真の力、その矮小な魂に刻み付けてくれるわ。万物よ、ひれ伏せ! 『終焉の刻(エンド・オブ・デイズ)』!」


 魔王が天に向かって両手を掲げて咆哮すると、全身から今までとは比較にならないほどの、宇宙の闇そのものを凝縮したかのような、絶望的な黒いオーラが巨大な津波のように噴き出した!


 オーラは瞬く間に裏庭全体を、いや、学院全体を覆い尽くし、俺たちが仕掛けた全ての罠を塵一つ残さず消滅させ、仲間たちの渾身の攻撃を存在しなかったかのようにいとも簡単に掻き消した!


「ぐあああああっ!」

「きゃあああああ!」

「うわああああ!」


 仲間たちが次々と吹き飛ばされ、地面に、壁に、容赦なく叩きつけられる!

 カロリーネも、リリアナも、マリエッタも、ヴィンスも、ルシアンも、ガレスも、そして俺を庇ったカイルもだ!

 騎士団の誇る三重の円陣も、その絶対的な魔力の奔流の前に紙切れのように脆くも崩壊し、騎士たちが絶望の悲鳴を上げて倒れていった!


「なっ……⁉ これが……魔王の力……⁉ 嘘だろ……⁉ 対策が、全く通用しねえ……!」


 俺はあまりにも圧倒的で理不尽なまでの光景に、ただ愕然とするしかなかった。

 桁が違う! 次元が違う! 今までの魔族や魔将など、本当に赤子同然だ!

 これは、もはや抗うことすら許されない、絶対的な終焉の力!


 魔王ゾルダークは、ゆっくりと倒れ伏す仲間たちを見下ろして俺の方へと視線を向けた。

 その深紅の瞳が、俺への最大の侮蔑と嘲笑を込めて細められた。


「ククク……貴様か。この矮小なる抵抗を画策した、愚かなる人間は。その小賢しい知恵だけは褒めてやろう。だが、それもここまでだ。まずは貴様から永遠の絶望の淵へと叩き落とし、我が復活の祝杯を上げさせてくれるわ! 貴様の苦しむ顔は、さぞ美味であろうな!」


 魔王が黒曜石のような巨大な手を、ゆっくりと俺に向かって振り下ろした!

 その手に巻き付いた黒炎の鎖が死神の鎌のように、俺のちっぽけな命を刈り取りに迫ってくる!


(やべえ! 死ぬ! 今度こそ、本当に、死ぬ! 回避不能! 防御不能! 詰んだ! 俺の人生、ここで終わりかよ! 短かったな……また童貞で死ぬのか……!)


 俺は咄嗟に身を伏せようとしたが、体が恐怖で完全に竦んでしまい一歩も動けない!

 全身の血が凍りついて死を覚悟した。

 絶望的な状況の中、俺は……それでも、最後の、最後の悪足掻きを決意した。


(……こうなったら、最後の、最後の手段だ! 魔王だけは、絶対に道連れにしてやる!)


 死への恐怖を捻じ伏せるように、俺はありったけの意志力で震える指を動かして懐を探り、一つの忌まわしきアイテムを握りしめた。


 それは学院の魔力炉の核の、ほんの小さな欠片。

 それをヴィンスに無理を言って解析させ、魔力を極限まで不安定化させる改造を施し、起爆装置を取り付けた、俺の最高傑作(にして人類史上最悪かもしれない自爆装置)。


 名付けて、「小型魔力炉・不安定化MAX・リモート自爆スイッチ付き(超絶危険物・半径数キロ巻き込み確定)」!


 これを起動させれば学院はおろか、王都の一部すら吹き飛ばしかねない、破滅的なエネルギーが解放されるはずだ!

 もちろん、俺自身は確実に塵となり、仲間たちも……カロリーネも、リリアナも、マリエッタも……無事では済まないだろう。

 だが、このまま全滅するよりは……魔王を道連れにできる可能性があるなら……!

 すまん、皆! 俺と一緒に地獄へ行こう!


 俺が自爆スイッチに指をかけ、最後の覚悟を決めようとした、まさにその瞬間だった。


「……させませんっ!」


 透き通っていながらも鋼のように強い意志を感じさせる声が響き渡り、俺の前に純白の輝きを放つ影が飛び込んできた!

 リリアナだ!


 絶望的な奔流の中、一度は吹き飛ばされたリリアナが眩い光に包まれ、再び立ち上がっていた!


 彼女は、もはやただの純粋な少女ではない。

 何か神聖でありながらも同時に禍々しい存在へと昇華したかのように、全身から眩いほどの黄金色の聖なる光を放ちながら、魔王の振り下ろされる絶望的な一撃の前に、敢然と立ちはだかったのだ!


「リリアナ⁉ 馬鹿! 何やってるんだ! 俺ごと攻撃されるぞ! 逃げろ!」


 俺は叫んだ! 彼女が死んだら本当に全てが終わる!

 だが、それ以上に、彼女の尋常ではない気配に恐怖を感じていた!


 リリアナは俺を振り返り、その瞳には涙をいっぱいに溜めながらも、どこか恍惚とし、病的なまでに美しく、慈愛と執着に満ちた笑顔で言った。


「王子様……! アレクシス様……! もう大丈夫です……! 私が、貴方だけは、絶対にお守りします! カロリーネ様や、他の誰にも貴方を奪わせたりしません! 貴方が他の誰かを想うくらいなら……貴方が私の手の届かないところへ行ってしまうくらいなら……いっそ、この世界ごと……! ううん、違う! 私の愛で、貴方と私だけの、永遠の世界を作るんです! これが、私の……聖女リリアナの、貴方のためだけの最後の愛です! 『独愛の聖界エゴイスティック・サンクトゥム』!」


 彼女の体から放たれる光は単なる聖なる光ではない。

 それは世界を祝福すると同時に、俺以外の全てを拒絶するかのような、歪んだ愛と執着の顕現。

 黄金色の光は独占欲の太陽のように裏庭全体を、いや、世界全体を照らし出し、魔王ゾルダークの放つ禍々しい終焉のオーラを、力強く狂おしく押し返す!


(これが……リリアナの……聖女としての、真の覚醒……⁉ ていうか、そんな技名、ゲームになかったぞ⁉ いや、違う! これはメンヘラの覚醒だ! 俺への執着心が引き金になったのか⁉ ゲームとは比べ物にならない……! これほどの力が……! でも、なんか、方向性がヤバすぎる!)


 俺は神々しくも狂気に満ちた、荘厳な光景に、恐怖も、打算も、卑怯な考えも全て忘れ、ただただ息を呑むしかなかった。


 聖女様、覚醒は嬉しいけど、そのベクトルは完全に間違ってる気がするんですけど⁉

 

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