敵
レイとロムニスは息を切らして走る―――魔物を次々と斬りながら、魔力を温存して。
「ロムニス、生きてるか!」
「ああ…………お前こそ既に死んでいて、幻聴ではないだろうな?」
「正真正銘本物の俺だよ。その減らず口は、お前本物だな」
あれから二人はテントの復興をロッソに任せて、戦場へと戻った。
地獄と化した戦場で、魔物の死骸に隠れて眠る様な二日を過ごして、次第に疲弊。
少しずつ体には傷が増えてきた。
戦いながら、ときどき意識が飛ぶ。
いつのまにか戦っている魔物が変わっており、駆ける位置が変わっており。
たった二日で、精神が参っていたのだ。
「レイ…………少し休むか」
「そうだな………」
一度足を止め、小川の側へ。
この辺りは、魔物が少ない。
「飲んでおけ。少しは力になろう」
「飲めって…………これ逆に体調崩すだろ」
人と魔物の血が入り混じり、赤黒くなった川の水。
文句を言いながらもそれを手で救い、飲み、喉を潤した。
あまりの匂いに嗚咽をこぼしながらも、胸を叩いて胃へ収めると、一つ弱音を漏らした。
「…………逃げてえなぁ」
「ならば、逃げるか? 今残っている魔力を使用すれば、隣国の国境まで保つのではないか?」
「ダメだ。すぐ近くに…………実家があるんだ。父さんも母さんも、全員そこに居る。魔物共が王都まで行けば、師匠も戦う羽目になんだ。まあ、師匠が負ける姿は想像出来ないけどさ」
立ち上がる。
大きく深呼吸をし、手足の震えを無理やり止め、ほんの僅かな休憩を終わらせた。
「父さん母さんは自分で逃げれるだろうし、師匠は自分で戦えるだろうけどさ、でも、護ってみたいんだ」
「………………………………そうか、そうか…………」
レイの言葉を聞いたロムニスが、少し悲しげな表情を浮かべた。
逃げない意思を頑として示したレイに、残念だとでも言いたげに。
「お前は、なんで戦うんだ?」
「己は…………命を受けた」
「もしかして、どこかの貴族のお偉いの?」
「いや…………違う、違うのだ」
ロムニスの言葉は、詰まり詰まり。
見たことのない様子だ。
「レイ…………お前には、逃げて欲しかった」
「逃げて欲しいって、何を―――――――――」
言い終える前、答えが現れた。
ロムニスの背後に、二体の飛竜が。
「ロムニス、離れろッ!」
剣に炎を纏わせ振るう。
それは飛竜に傷をつけるどころか、弾かれるどころか、ロムニスの手によって、易々と掴まれた。
「無駄だろうが言っておく。レイ、逃げろ―――己はお前を、殺したくはない。それが嫌だというのならせめて、己の目が届かぬ場所で静かに、息絶えてくれ」
ロムニスは飛竜へと飛び乗った。
言葉、行動の一つ一つが、ロムニスの正体を表している。
相棒だと思っていた男は、明確な敵だと、現実が騒いでいた。
「さらばだ、レイ。お前と過ごした時間、悪くはなかったぞ」
飛竜は羽ばたく。
強がっていただけで、もう余力の残っていないレイはその風だけで、簡単に立つことも出来なくなった。
倒れ込んで、霞む目で捉えたロムニス目掛け、ただ無力に苛まれ、手を伸ばした。
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