開幕の二撃
「どうだ、疲れたか?」
「ああ、流石にな。お前はどうなのだ? レイ」
飛竜を三体ずつ蹴散らした後に、地上でも少し暴れて撤退。
魔物は一向に減る機会がないものの、冒険者側の死傷者も初期の想定より低い。
食料が近隣の村を通過し、明日には届くとの情報があったので、士気は上昇。
最高の走り出しだと言われている。
夜間も魔物は暴れるので、昼間と夜間のチームが別に編成され、戦火が途絶えることはない。
「俺は…………思ったより魔力の消費が激しいよ。明日はもう少し抑える」
「それが良いな」
二人のテントは隣り合わせ。
夕飯も翌日の支度も終えると、テントの外に出て星空を見上げる。
遠くから聞こえる、人と魔物の断末魔と雄叫びが混じり合った様な戦闘音は、世界で最も禍々しい騒音に思えた。
「もう寝ようか、明日も早い」
「そうだな、あまり遅くなってはいけない。また明日」
「おう、じゃあなロムニス」
「ああ、さらばだレイ」
●●●●●●
「………………これは、笑えないねえ」
「なんだ…………これは」
ロッソと、騎士団長のキルケーは、何も理解していない公爵、カインズがその空気に耐えきれず自分のテントへと逃げ出してしまうほど、戦慄していた。
「なあ騎士団長………これは…………君の戦略なんかじゃあないんだろうね?」
「戦略だと? どうやるのだ、魔物の無限生成など…………!」
事前に発見されていた魔物の数は、推測五千。
そして現在観測されている魔物の数、五千。
まるで減らない―――水道から溢れ出す水の様に、際限なく、魔物が補完され続ける。
「これは…………なにが起きてるんだい…………まるでアレだ、伝承にある神話の、スタンピードみたいな…………」
「スタンピード…………物語での魔物の数は、大陸一つを埋め尽くすほどであったか…………無理だ、それこそ魔導王ならば対応可能やもしれぬが、今の四桁にも足りぬ冒険者では…………」
キルケーはあまりの量に、吐き気をもようす。
ロッソは外面は冷静だが、内心は冷や汗の出る思いだ。
「なあロッソ…………お前が出れば、これはなんとか出来るのか」
「不可能だ。例えば僕と、魔導王と、更にメイス・フォン・ヴァイオレットをガルレナから呼ぼうと、五分五分だよ」
「そこに…………例えば俺が加わればどうだ」
「影響しない。確かに君は強いが、それは対人として―――大軍の強さじゃないんだよ。君は剣の一振りで、五百を超える魔物を殺せるかい?」
「…………無理だ。ならば、どうするのだ」
キルケーの表情は蒼白。
握られた拳は震え、血が滲み出している。
「やめなよ。戦力にはならないが、君は戦場の士気を上げる要因にはなり得る。そのときに、自傷が原因で剣が振るえないんじゃ散々だ」
「あ………ああ」
ロッソは全力で脳を回す。
すると、とある人物等を思い出した。
ロッソ達は、離れた場所からだが開戦の瞬間を見ていた。
震える空気も、放たれた二撃も。
「騎士団長、覚えてるかい? あの、開戦の二撃を」
「覚えてる。ありゃあ震えたなあ」
「彼らなら、僕と彼ら、更に遅れて来る魔導王を含めればもしくは…………!」
その言葉に、キルケーは息を呑む。
言ったロッソでさえも、自身の言葉に戦慄した。
これが初めてできた直接的な、レイとロッソの接点である。
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