メイド服だってば
調子に乗ってプラス1話投稿しちゃいます。
「マスター、どこに向かわれるのですか?」
「冒険者ギルドってところ。所属してる人なら、その人の身の丈に合った仕事を斡旋してもらえるんだよ。そこでの登録が簡易の身分証明になるから、今日のうちにアリスも登録しちゃおう」
ギルドの建物は、レイが泊まっていた宿から目と鼻の先であり、部屋の位置によっては、窓から建物が見える。
銭袋と自分のギルド登録カード。
あとは簡単な武器を装備すると、レイは着替えを待つとアリスに伝えて、先に部屋を出る。
部屋の外で五分ほど待っていると、アリスも着替えを終えて部屋から出た。
くるぶしまで伸びる黒いロングスカートのワンピースに、真っ白なエプロン。
メイド服―――メイド服だ。
メイド服なのだ。
「おかしな点は、無いでしょうか」
「ああ、似合ってるよ」
「ありがとうございます」
昨晩起きてしまったパジャマのボタン事件の反省から、服の背中のホックがきちんとかかっていることを確認してから、二人は宿を出た。
ギルドに入ると、広いロビーで仕事の受理や報酬の受け渡し作業などをこなしていた受付の者に、登録をしに来たと告げ、戸籍がないと伝えると、二階奥の客間へと通される。
ソファーに座り、出された紅茶を飲むのも束の間、無精髭を生やして、どこかだらしなく、そこはかとなく胡散臭い雰囲気の男が現れた。
ロッソ・ベリーニ―――今レイとアリスが居る街の、ギルドの支部長だ。
「久しぶりだねえ、レイ」
「久しぶりですね、ロッソさん。前にアルセーヌ男爵の家にお邪魔した時以来ですかね?」
「いやあ、その半月後だったか。ペルの嫁さんが産気づいて医者を呼びに行った以来だ」
「ありましたね、そんな事も」
ロッソとレイは顔馴染みであり、親しげな会話を交わす。
頻繁に会うわけではないので、会うのはいつぶりかという会話は、最早伝統となりつつある。
「今日はどうしたんだい? そこのレディー、なにか尋常じゃあない」
「いつもながら、話の意向が急ですよ。でもまあ、そうですね。彼女はアリス。今日はアリスの冒険者登録をしに来ました」
「登録……見た感じ子供でもないし、お守りが必要とは思えないが……」
「戸籍がないんですよ」
「なるほどね。じゃあ君のカード出して」
「はいはい、持ってますとも」
レイはギルド登録カードを差し出す。
それと交換する様にロッソは、部屋の引き戸から取り出した書類とペンをレイに渡す。
レイが記入を終えた書類を受け取ると、少し待つよう言って部屋を出る。
十分ほど経つと、ロッソはカードを二枚増やして帰って来た。
一枚目にはアリスの名前と外見の特徴。
住所としてレイの実家の地名と、一番下にはアリスに割り振られた十桁のナンバーが書かれていた。
二枚目には一枚目とは別の十桁ナンバーと、それ以外は一枚目と同じ情報―――追加でレイの名前も刻まれていた。
また、隅には不死鳥の羽と剣と盾をモチーフとした国の紋章が刻まれている。
「出来たよ。一枚目がギルドの登録カードで、二枚目が君の仮戸籍だ。まだ仮だから、君が何か不祥事を起こした場合、責任はレイにもある。くれぐれもおかしな事はしないようにね…………って、レイの紹介なら平気かな?」
「仮? 正規のものでは無いのですか?」
アリスが尋ねた。
ロッソは物を語るのを本能と自称するまでには好む為、意気揚々と説明をする。
「ああ、そうだよお嬢ちゃん。十年…………今は改定されて五年だったかな。決められた年数、問題を起こさずにこの国で暮らして初めて、正規のものとなるんだ」
「慎重なのですね」
「国民の信頼に関わる事だからね」
「理解しました。ありがとうございます」
そんな話をしていると突然、部屋の扉がノックされた。
ロッソが行って扉を開けると、そこには一階で受付の仕事をしていた筈の女性が居た。
「お嬢ちゃん、迎えだ。ちょっと込み入った話があってね、別室で待っていちゃあくれないかい?」
「マスターが良いというなら…………」
「いいよ―――というか、お願いしたい。ロッソの事だし、お茶ぐらいあっちにも用意してくれてる筈だよ」
「当然、アフタヌーンティーのセットを急ぎ用意したさ」
「だってさ、行っておいで」
言うと、アリスは席を立ち、一つ礼をして退室して行った。
すると、さっきまでおちゃらけているようだったロッソの表情が、急激に引き締まった、真面目な物へと切り替わる。
「で、態々昨日じゃなくて僕がいる今日を選んだって事は、大事な話でもあるんだろう? ギルドはニコニコ二十四時間営業だ」
「ええ、ちょっと忙しくなりそうでしてね―――返して欲しいんですよ」
「またいつものかい?」
「そうです―――いつもの勘ですよ」
「傷は、もういいのかい?」
「気にしてられなくなりそうです」
「次同じことをやれば、取り返しがつかない事になる。分かっているね?」
「重々承知の上ですよ」
「分かった」
そう言って、ロッソは着ている上着の内ポケットから一つ、ビー玉程の大きさの玉を取り出した。
それは中で光が屈折して、ダイヤモンドの様な輝きを放っていた。
「さあこれを飲みたまえ。今返そう―――君の魔法だ」
●●●●●●
ギルドでの用事を全て終えて、建物を出る。
「ごめんねアリス、待たせちゃって」
「いえ。楽しませていただきました」
そう言うと、アリスは微笑んだ。
その笑顔には、破壊力が存在したと云う。
短い時間だったが、アリスは受付の女性達と話した時間を得て、少しだけ表情豊かになった。
ふとした瞬間に笑顔を見せたり、強風が吹いて目にゴミが入れば嫌そうな顔を。
人との触れ合いが影響をもたらしたのだ。
「アリスは、これから何がしたい?」
レイは試しに尋ねた。
日はまだ高く上っており、そろそろ昼食どき。
少しの女子会を得て、何か買い物などの希望があるかもしれないと想定したのだ。
アリスは少し悩む。
視線を足元へと下げて、数秒。
「私は…………仲間を探したいです」
「仲間?」
「千年前共に戦った仲間を―――既に命なくとも、確かに存在した証を、探してみたいと思います」
「なるほど………………」
想定していた話とは違ったが、レイは納得した。
そして、方針を定める。
「歴史を探るならこの街じゃダメだ。ここから北に行ったところに、この国の中心となる街がある。そこなら、千年前の記述も残ってるかも知れない」
レイは北を指差した。
するとアリスはそちらを凝視して少しの沈黙が流れる。
「…………確かに、あの街ならば見つかるやもしれません」
「もしかして、見えた?」
「はい」
「そっかやっぱ、間違えてなかった…………」
小さく笑いが込み上げる。
レイは自分の勘を、信じるシュチュエーションが多い。
その勘が今言っている。
アリスを放って置いてはいけないと。
「アリス、どうやって街まで行くつもり?」
「一人で歩いて行こうかと。短い間でしたがマスター、私は貴方に色々と学びました。ありがとうございました」
アリスは頭を下げた。
礼の姿勢だ。
「言うと思った―――でもアリス、仮の身分証じゃ一人でここ以外の街に入れないよ」
「なんと、それでは…………」
「だから、俺も行くよ」
レイは言った。
これからの旅に心躍らせながら、決意を込めて。
「目標は王都、ガルレナ。俺が案内しよう……!」
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