第9話:再開の式典
前の私の友達は、今の私を見たら、どう思うのだろう。
私は、前の私の友達を放っておいて、新しい青春に手を出して良いのだろうか。
私は、前の友達に、会って良いのだろうか。
一月一日。
新年早々、私はこんなことを考えていた。
なぜなら、今、私は二十歳。
そろそろ、成人の日がやって来るのだから。
私が二十歳なのだから、かつての友達も二十歳。
会う可能性は、十二分にある。
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体力的な問題で、成人式は車椅子で参加することになる。
成人式の会場は、晴着やスーツの人たちで埋まっていた。
私も晴着を来てはいたが、当然のように浮いているのであった。
見た目高校生で車椅子なんだから、仕方ないのだけれど・・・
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市長の話が終わり、人の波は様々な方向へと動き出す。
場所を取る車椅子では、その波に乗ることも逆らうこともできず、立ち往生していた。
「あ、あそこ、六依さんじゃない?」
「車椅子・・・?」
人ごみの先、遠くで誰かがこちらを指さしている気がする。
「お母さん、あの人たち、誰?」
「え?えーっと、どこ?」
そんな話をしていると、指をさしていた一団がこっちへと向かってきた。
「こんにちは、千尋さん」
「あら、こんにちは」
「あれ・・・?そこにいるのって・・・もしかして・・・由依・・・?」
「え?あっ・・・あの」
この人達も、私の知り合い?突然名前を呼ばれて、狼狽えてしまった。
「由依!?目が覚めたの?」
「ユイっち全然かわってなーい」
「マジかよ。本当に由依なのかよ」
「実は鈴ちゃんだったり?」
「えっ、あっ そのぅ」
四方からもみくちゃにされて、返事が出来ない。
「あっ、あの! ちょっと待って、その、私ね・・・」
「「「ん?」」」
「記憶・・・喪失・・・!?」
少し、個人的に話したいことがあると、お母さんに言って、席を外してもらって、
正直に今私に起きていることを全て話すことにした。
記憶が無い事、五年間の時差がある事、外見に変化が無い事。そのせいで体力が無い事。
「うん・・・だから、実はみんなの名前は憶えて無くて・・・」
こんなおめでたい日にこんなことを伝えるのは、軽薄だったかもしれない。
でも、知らないまま話を合わせてて、ボロを出してバレてしまうくらいなら、始めから伝えるべきだと、
そう判断して、伝える事にした。
「そうだったんだ・・・」
「ごめんね、さっき急に抱きしめたりして・・・」
すこし距離ができる。きっとこれでいいんだと思う。これが今の私との適正距離だから・・・
「じゃあ、今ここで新しく自己紹介しよっか」
「え?」
「顔も名前も覚えてないんでしょ?だったらもう一回覚えてもらわなきゃね!」
予想外の申し出だった。勝手に一人で他の人の事を忘れた私の為に、身内でもない皆が動いてくれるなんて、ちょっと申し訳なくなる。
「でもそんな・・・悪いよ、私の為に・・・」
「由依の為?違うよ、私がもっとこう、ほら、楽しみたいからだよ」
「???」
えっと、つまりどういうこと?
「つまり、また昔みたいにみんなで遊びたいから、一旦全員の情報を共有しておきたいと、そういうことでしょう?彩奈さん?」
「そうそれ!ナイス佳蓮ちゃん!」
次々と会話がパスされていく。そのスムーズな流れを見て、本当に仲がいいんだろうなぁと、そんな事を思っていた。
「というわけで、自己紹介行きます!№1! 橘 彩奈!二十歳!」
「皆そうだからね・・・」
「そっか、えっと・・・趣味はスイーツ巡りとー・・・映画鑑賞かな?」
「太りそう・・・」
「大丈夫!まだ影響は出てない!」
一番右にいた、このメンバーで一番元気そうな人が自己紹介を始める。
あれ?橘・・・彩奈・・・?どこかで聞いたような・・・
「あっ、じゃあ次は私が・・・えっと、№2、市谷 結花です。由依ちゃんは中学校では演劇部だって、もう聞いた?私も演劇部だったんだよ」
その隣の大人しめな配色の晴着を着た人が話し始める。市谷、結花・・・やっぱり聞き覚えがある。
「№3、行っていいか?俺は八重橋 一馬、 中学の頃は、えーっと・・・」
「あっ・・・! 卒業アルバム・・・」
思い出した。 卒業アルバムの寄せ書きに書いてあった名前だ。
「八重橋・・・一馬さん・・・たしか・・・」
私の、初恋だった人。
私から、何かの返事を待ってる人。
「私の・・・初恋の人・・・だったよね・・・?」