漣の様な日常の予感
昨日と同じ宿屋になんとか滑り込めてからの事。
「だから私がノーマルだっていうのはそういう事じゃなくて」
「良いんですよご主人様」
「その全部解ってるんですよっていう顔やめてよー」
「良いんです、良いんです。私はご主人様の傍に居られるだけで十分」
「なんで、そういうこと、い゛う゛の゛……」
あ、駄目だ。
ネルが私はいつか離れていくと思っているんだと思ったら涙が出てきた。
声が震えるのが止まらない。
思わず俯いて顔を手で覆ってしまう。
「私の一番はネルなのになんでそんな意地悪いうの?酷いよ……」
「にゃっ、にゃっ、ごめんなさいご主人様、ちょっといじめ過ぎたです」
「そうだよ、意地悪すぎだよ。昨日の夜みたいに優しくしてよ!」
「はいはい。ご主人様は甘えんぼですね」
「ふんだ。いいんだもん。ネルと一緒に居られるためならどんな手でも使うもん」
私を抱きしめてくれたネルの腹筋をつねる。
脂肪の乗っていない鍛えられた腹筋は固かった。
「何気に恐ろしい事いってるにゃご主人様」
「私もネルから離れないから、ネルも私から離れちゃダメなんだから。冗談でもダメなんだから」
「はい。畏まりました。さぁ、泣くのをやめて」
抱かれるのが解かれて、顔を覆う手をどけられて涙の痕がある頬に口づけを受ける。
大事に大事に扱われてるのを実感する。
「ねぇネル。私はとっても弱っちいの」
「はい」
「だからね。いじめ過ぎるのはだめだよ」
「はい。本当にか弱くて……どうやって生きてきたんですかご主人様」
「騙し騙しもたせてただけでちゃんと生きてはいなかったかもね」
なにせ、元の世界を捨てて貴女を選ぶくらいなんだから。
その言葉を飲み込んで黙ってネルの胸元に飛び込む。
柔らかい、硬い。
おっぱいと腹筋、やわらかたい。
その相反する感触がとっても安心する。
「ねえネル」
「はい、なんですかご主人様」
「今夜も一緒に寝ようね…?」
「今夜どころかこの先いつでも「私の」ご主人様」
こんな風に始まった生活は、幾重にも重なる波のように少しの変化をしながら繰り返していって。
ずっと止まることなく続くのだろう。
ネルはずっと一緒に居てくれる。
ネルはずっと優しくしてくれる。
私はそんなネルをずっと好きでいられるのだろう。
それが私とネルの、終わらない日常の物語。
そろそろ筆力の枯渇を感じてきたので短い連載ですがここまでとさせていただきます。
うーん、思ったように百合百合できなかった気がするのだけが心残りです。