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私と彼女の新しい始まり


 嫌だなと思った。

 十年、一緒だった画面の中の彼女。

 二十年のサービスの終了が決まって、サーバーが落ちたらデータも全て消えてなくなってしまう。

 それが私は嫌だった。

 多分現実で繋がっている誰との関係が切れるより嫌だったのだ。

 たかがゲームの、一方的に寄せるだけの想い。

 そんな人からすればちっぽけで、おかしくて笑ってしまうような思い入れが私の中にあった。

 だから私は、その日の夢に飛びついてしまった。

 暇つぶしに作る新しい世界の核として異なる世界に移動して、死ねず、周囲の繋がりが変わっても不審に思われない。

 そしてそんな世界で生きていくための少しばかりの贈り物と、彼女を、私と共にある彼女を貰って永い道を歩く選択をした。

 これは、そんな私の日々の端書のようなもの。




 目が覚めた時にお腹にぐっとくる重みと温もりを感じた。

 横になったお腹の上に何かが乗っている。

 軽い混乱と共に掛かっているはずの掛け布団を跳ね上げる勢いで起き上がろうとしたけど、布団はなくて体も起こせなかった。

 何とか首を動かしてお腹の上を見ると見えたのは奔放に跳ねる銀の毛。

 褐色の肌の格好いい方向に整った顔を静やかな寝顔にしている彼女のピンと跳ねた髪の中からはイヌ科の耳が覗いていた。

 そしてパニックになりそうになった瞬間にさっと冷静になる心。

 私の中に実感として納得がやってくる。

 夢の中で世界の核になる契約をした事。

 核になるために調整を受けた。

 私を支えるためにこの娘がいる。

 世界は均され命が満ちて、安定期に入った事でようやく私は目覚めた。

 酷くお腹は空いているけれど、今はこの銀の人造生命……ネルの一時を楽しもう。

 そう思って寝顔を眺めた。

 綺麗な寝顔は僅かに漏れる吐息で唇が開いている。


「綺麗……」


 ぼうっと見入る。

 これが画面越しにずっと想ってきたネルの顔なんだ。

 愛おしさについ頬を撫でる。

 すると、ネルが整った顔をうにゃうにゃと猫のように崩して一層お腹に擦りついてくる。

 その感触で気付いたけれど、私は裸だ。

 さらに気づいたけれど私が目を覚ました場所は森の中でも建築物の中でもなく、ほのかな光に包まれた闇の中。

 ぼんやりと理解する。

 きっとここが世界の中心、世界の核として私が置かれた場所。


「どうしようかな……これから」


 目覚めた私はゆっくりと知識を流し込まれるように理解していく。

 ネルが目覚めればどこにでも行ける。

 なんでもできる。

 でも何をしよう?私はネルと居たかっただけだけら、そんなことも思いつかない。

 でも一先ずは……ネルの頭を持ち上げて自分の身体を移動させて、膝枕の姿勢になる。

 そして。


「おはよう、ネル」


 私はネルに目覚めのキスをした。

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