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聖女だけど聖魔法はアンチです! ―元プログラマー、異世界でバグだらけの魔法をデバッグします―  作者: チキントマト
第1章

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エラーコード404:自由都市がまさかの開発中(未実装)だった

「――着いたわイルハ! あそこを抜ければ、あらゆる種族やはぐれ者が教会の束縛から逃れて暮らすという、約束の新天地『自由都市アルカディア』よ!」森の薄暗い木々をかき分け、フェリスが嬉しそうに声を上げた。例外処理の森を物理ハックで突き進むという強行軍の末、ようやく辿り着いた約束の土地。フェリスの銀髪が朝日に照らされ、キラキラと輝いている。だが、森を抜けて開けた視界の先に広がっていた光景を目にした瞬間、私とフェリスは同時にその場に凍りついた。「……ねえ、イルハ。私の目が疲れているのかしら。あの街、なんだか……すごく薄っぺらいというか、その、輪郭グラフィックしかなくない?」「フェリス、あなたの目は正常よ。これは、そういう次元の話じゃないわ……」私はめまいを覚えながら、額を押さえた。目の前に広がっていたのは、美しい中世の街並み――ではなかった。そこにあったのは、建物の外壁だけがハリボテのように直立し、裏側に回り込むと中身が空っぽのスカスカな構造体。地面は一面、灰色と白の「市松模様(チェッカーフラッグ柄)」が無限に広がっており、遠くの景色にいたっては、緑色のワイヤーフレーム(線の集まり)で大雑把に山や川の形が形作られているだけだった。風の音もしない。鳥のさえずりもない。世界システムがそこから先、機能することを放棄したかのような圧倒的な虚無の空間。「……『未実装』だわ」私はがっくりと肩を落とし、乾いた声で呟いた。「み、みじっそう……? 何よそれ、どういう意味?」「言葉の通りよフェリス! この自由都市アルカディアは、世界システム(運営)のスケジュール遅延のせいで、グラフィックのテクスチャも物理演算も組み込まれていない、絶賛開発途中の【未実装エリア】なのよ! いわゆる、エラーコード404『ページが見つかりません』状態よ!」「そんなバカなことがあってまるかァァァァァ!!! じゃあ、私たちが命がけで国境を越えて目指してきた新天地は、ただの空箱(バグ地帯)だったっていうの!?」フェリスが本日最大風速の絶叫を上げ、ハリボテの民家の壁(触るとペラペラで質量がない)をバンバンと叩いた。無理もない。教会の追手を命がけで撒いて、音速で壁を越えてきた結果が「制作中のスタジオセット」だったのだから。心が折れる音が路地裏(仮)に響き渡る。「うう、どうしてこんなことに……。教会の古臭い集中管理型アーキテクチャが諸悪の根源ね。中央(大聖堂)のデータ処理ばかりにリソースを割いて、辺境の開発アップデートを完全に放置していたんだわ。典型的なデスマーチ(開発地獄)の弊害よ……!」私は市松模様の地面に膝をつき、悔しさに拳を握りしめた。だが、その時、私のシステムセンサーが、この未実装エリアの奥深くから、奇妙な「魔力の同期エラー」を検知した。チェッカー柄の地面の遥か彼方、ワイヤーフレームの山脈のふもとに、周囲のスカスカな世界とは明らかに異なる、圧倒的な質量と密度を持った「漆黒の巨大な立方体」がポツンと鎮座しているのが見えたのだ。「……待って。あの立方体オブジェクト、何かしら? 周囲の開発データがゼロなのに、あそこだけ異常なほどの魔力パケットが集中しているわ」「え? あんな禍々しい黒いハコ、さっきはなかったわよね……? 嫌な予感がするわ、イルハ。またあなたのせいでバグが誘発されたんじゃない?」「心外ね! 私はまだ何も打鍵(指パッチン)してないわよ! ……でも、行くしかないわ。あのハコを解析デバッグすれば、この未実装エリアを強制的に立ち上げる(起動する)ための、開発用マスターキー(バックドア)が見つかるかもしれない」私たちは質量を持たないハリボテの街をすり抜け、市松模様のグリッド線を踏みしめながら、その漆黒の立方体へと近づいていった。近づくにつれ、空間が激しく歪み、ジジジ……と耳障りなノイズが鳴り響く。その立方体の表面には、エルラディン聖教国で見られる神聖な術式とは根本的に異なる、不気味で複雑な「古代のプログラム言語」のような発光文字が高速でスクロールしていた。「これは……世界の根本的なシステムコード(根源魔法)!? 教会が管理している文字ライブラリじゃないわ。もっと原始的で、もっと強力な……」私がその立方体に手を伸ばそうとした、その瞬間。ズザザザザザザッ!!!空間のノイズが爆発的に跳ね上がり、漆黒の立方体の表面が波打った。次の瞬間、ハコの中から、私たちの数倍はある巨大な【影の腕】が何本もポップし、猛烈な速度で私とフェリスに向かって掴みかかってきたのだ!「くっ! 自動防衛プログラム(セキュリティソフト)か何かってわけね!」フェリスが瞬時に前に飛び出し、質量のない未実装の地面を蹴って跳躍した。錆びた剣を振るい、迫り来る影の腕の1本を切り落とす。しかし、切り落とされた腕は即座にコードが自己修復リジェネされ、さらに増殖して襲いかかってくる。「だめよフェリス! それはこの世界の『バグフィックス(自動消去)プログラム』よ! 未実装エリアに侵入してきた私たちを『不要なゴミデータ(キャッシュ)』と認識して、ゴミ箱にポイ(完全消去)しようとしてるんだわ!」「ゴミ箱って何よ! 失礼ね、私はこれでも元近衛騎士よ! イルハ、お得意の生データ改ざんで、あのハコごと消去して!」「それができないのよ! あの立方体は、世界システムそのものの『基盤モジュール(核)』よ! あれを消したら、今度こそ世界全体のOSがクラッシュして青い画面ブルースクリーンになって全人類がフリーズするわ!」「じゃあどうするのよォォォ! このままじゃ私たちが世界からデリートされちゃうわ!」無数に増殖した影の腕が、フェリスの四肢を絡め取り、彼女の身体を空中へと持ち上げた。「くっ……! 身体が、消えていく……!?」フェリスの足元から、グラフィックが徐々にモザイク状(ドット抜け)に変わり始め、存在データが消去されかけている。「フェリス――ッ!!」大切な相棒がゴミ箱に送られる(ロストする)のを、ただ見ているわけにはいかない。世界を壊さず、かつこのセキュリティシステムを無力化する方法は――ただ一つ。「バグフィックスプログラムが動いているなら……それを上回る『無限ループのエラー(無限の負荷)』を発生させて、セキュリティの処理自体をフリーズさせてやるわ!!」私は漆黒の立方体の真ん前へと飛び込み、その表面のコードが流れる画面に、両手を直接叩きつけた。私の持つ神話級の十サークルのルート権限(魔力)を、今度は攻撃でも改ざんでもなく、ただの「無意味な超巨大計算処理ベンチマーク」としてハコの内部へと流し込む!(ロジック構築:セキュリティプログラムへ緊急パッチ(割り込み処理)を送信! 内部の計算式に【 $1 \div 0$ (ゼロ除算)】の例外をインジェクションしろ! さらに、そのエラーをキャッチした後の処理を『自分自身をもう一度呼び出す(無限再帰)』に設定ホールド! システムフリーズしろぉぉぉ!!!)ドクン……!!!世界が、一瞬だけ激しく脈動した。次の瞬間、漆黒の立方体の表面を流れていた発光文字がピタリと停止し、ハコ全体が「ジジ……ジジジ……」と悲鳴のようなノイズを上げながら、真っ赤に激しく点滅し始めた。フェリスを掴んでいた影の腕が、力なくサラサラと崩れ落ち、フェリスの身体が地面へと自由落下する。私はすかさず彼女をキャッチした。「はぁ、はぁ……助かった……? イルハ、今度は何をしたの?」フェリスがモザイクから元の綺麗なグラフィックに戻りながら、息を切らせて聞いてくる。「ふふ、セキュリティの脳みそに『答えのないクイズ』を無限に出題してあげたのよ。今、あのハコの中のCPUは、計算が終わらなくて大パニック(無限ループ)を起こしてフリーズしてるわ」ガタガタと激しく震える漆黒の立方体。しかし、あまりにも私の流し込んだ処理負荷(十サークルの魔力)が大きすぎたせいか、立方体の底面から、未実装のチェッカー柄の地面へと、真っ赤なエラーコードの光流がドクドクと漏れ出し始めた。「……あ、あれ? おかしいわね。セキュリティだけを止めるつもりが、漏れ出したエラーデータが未実装エリアのシステムログ(設定ファイル)に勝手に書き込まれて(インクルードされて)いくわ……」「ちょっとイルハ、地面! 地面を見て!」フェリスが私の腕の中で叫んだ。見れば、灰色の市松模様だった地面が、漏れ出したエラー光流を浴びた瞬間から、猛烈な勢いで「本物の大草原」へとレンダリング(自動生成)され始めていたのだ!それだけでなく、中身のなかったハリボテの民家には一瞬で頑丈な木材の壁と家具が実装され、ワイヤーフレームだった山脈には雄大な岩肌と雪景色が超高速で描画されていく。バグによるシステム負荷が、巡り巡って「未実装エリアの強制開発バースト・アップデート」を引き起こしてしまったのだ!ほんの数秒のうちに、私たちの周囲は、エラーから生まれたとは思えないほど豊かで広大な、誰も見たことのない美しい「真の自由都市」へとアップデートされてしまった。「……ま、街が……出来ちゃったわね……」フェリスが呆然と、新しく生えてきた目の前の街灯を見つめながら呟いた。「ええ……。どうやら私の放った無限ループの余剰エネルギーが、未実装のソースコードを力技でコンパイル(具現化)しちゃったみたい。世界初の『バグから生まれた都市』の誕生よ!」私はふっと笑い、新しく完成した自由都市の美しい街並みを見渡した。教会のクソ仕様をぶち壊し、未実装の虚無さえも力技でアップデートしてしまうデバッガーたちの旅。私たちのバグだらけのランタイムは、ついに世界そのものの構造を書き換え始め、新たなる冒険のステージへと突入していくのだった。

お読みいただきありがとうございました!

未実装エリアのセキュリティを「ゼロ除算の無限ループ」でフリーズさせ、その余剰負荷でエリア丸ごと強制アップデートしてしまったイルハ。結果オーライですが、やっていることはやはり災害クラスの魔女です。

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