世界の囁き
突然、闇の中から光が出てきた。アハハ……アハハそして光の上に声が笑い、どこかから話し掛けている。
「んー……前の子が言ってた通り、やっぱりつまんないよ」光で編まれた椅子に腰掛けた"存在"が、足をぶらぶらと揺らしながら、どこか楽しそうに呟く。
「"人間"ってさ、"魔法が使える子達"って決めておけば、羽が生えてようと、緑だろうが、耳が長かろうが、みんな仲良くできると思ったのにな」
声には年齢も性別すら、分からない。優しげで、からかうようで、どこか眠たげ。
「……でもね、今度はその"人間"たちがさ、魔法を神からのおくりものかなんかと勘違いしちゃって 魔法が使えない子達を"魔物"って呼び始めたんだよ。笑えるよね?」くすりと、唇の端だけをゆるめるその笑みに、なぜか、ぞわりとした悪寒が走る。
「こっちが"魔物"だった頃なんて、"人間"にさんざん叩かれて、笑いものにされて、 しまいには住むところも無くされてさ。それでもずっと『わかってほしい』って願ってたのにさ、今じゃ"人間"のくせに、魔法がないってだけで、"魔物"扱いだもん」足の揺れが止まる。その視線はまっすぐ、どこかの明日を見下ろしていた。
「ふふ……やっぱり、決まりごとって、 いちばん壊すのは"人間"自身なんだよね」肩をすくめて、目を細め、その"存在"は、光に紛れるように、笑った。
「おやおや? あそこに不思議な"姉弟"がいるぞ? なんか幸せそうにしてるぞ〜?つまんな〜い」足をぶらぶらと揺らしながら、 光の椅子に座った"存在"が、子供みたいに声を弾ませる。
「あそこにいるおネーチャン、笑えなくなったら面白くなるかな? おやおやもしかして」くすくすと笑いながら、その"存在"は1つ、思いついたように指を立てた。
「そーだ、神父さんに言っちゃおう言っちゃおう。『あの弟は、世の中をめちゃくちゃにしちゃうかも』って。ね?」
ほんとうは、ただ光の魔法に惹かれて、目を逸らせなかっただけ。生まれつき、すこしだけ優れていただけの、ただの"子ども"だったのに。それだけで、「不思議なもの」。それだけで、異物扱いされた、居場所もない。いたずらを思いついた子供みたいに、声のトーンが跳ねる。
「そしたらさ〜、あそこのお母さんは、もしかして悪魔産んだ母親もしくは、王を裏切った悪魔そのものと見られるよね。あ〜、めちゃくちゃ面白くなっちゃうよね。よね?」にんまりと口角を引き上げて、瞳の奥に、光とも闇ともつかない煌めきを浮かべる。
「それから、それから……神父さんに"神のお告げ"も伝えなきゃ〜。"この子は災いを呼ぶ"って、『お前たちは選ばれた』って」声がふっと囁きに変わる。
「……うん。そしたらまた、世界がちょっと"ぐちゃっ"てなるかも」
足をバタバタと揺らしながら、 その"存在"は笑った。誰よりも無邪気に。そして、誰よりも恐ろしく。
「……で、次の"お人形さん"はね、あの子。 なんか知らないけど、ずーっと笑ってるの。ねぇ、あれって……なのに自分でも"人間"じゃないとうすうす思ってるのおっかしいよね、うけるー」
小首をかしげて、その"存在"は無邪気に問いかける。 その声は、光の椅子に座る小さな影のものだった。
「"誰にも認めてもらえなかった"のに、誰かを守ろうとする”とか、ほんと、気持ち悪いよねぇ?。あんなの、壊れてるに決まってるじゃん。」椅子をぶらぶら揺らしながら、幸せそうに笑い続ける。
「でもさ、だから面白いんだよ。“正しさごっこ”が、いつまで持つか。壊れるとこ、ちゃんと見ててあげなきゃね。」
そして、思い出したようにパチンと手を打つ。
「あー、そうだそうだ! これも神父さんに伝えとこー。『数年後、どこかの村にいる“あの子”が、不思議な力を使って君たちを襲うかも』って。」
にんまりと笑って、頬を緩める。
「だからね、『魔物としてお触れを出してもいいよ』って。ちゃんと伝えなきゃ、これは神様のお告げなんだから。」
最後に、空に向かってくるくると指を回しながら、 そうすると玉座にいた存在は楽しげに囁いた。
「さーて、次はどんな遊びにしようかな……」
世界のどこかで、光がともった。そして、どこかで、消えた。




